オペラ座の怪人(映画)を語る その4

昨日の続きです。ネタバレありますので、映画未見の方はご注意ください。

いいところばかりじゃなく、残念だった点もあげてみます。まず、1番がっかりしたのはなんといっても、墓場のシーン。あの胸元はなんだったんでしょう。胸をはだけすぎ。外は雪が降っているのに、不自然すぎる。観客に対するサービス? 演出のセンスが悪すぎだと思いました。クリスティーヌって、そういう女性じゃないと思う。もうあの胸が気になって気になって、いくらクリスティーヌが真剣に歌ってても、私の頭の中は「胸・・・白い胸・・・」という言葉でいっぱいでした。

それと、墓場でファントムとラウルが剣を交えるシーン。これは要らないなと思いました。舞台のときのように、なにか魔術めいた火の玉でラウルを追いつめ、ラウルとクリスティーヌが間一髪逃げ出すという設定にした方がよかったんじゃないかと。なんといっても、ファントムがラウルに剣で負ける、そしてクリスティーヌに助けられるなんて姿は、見たくありませんでした。

ラウルは子爵でおぼっちゃまですから、雑草のように生き、這い上がってきたファントムの方が力は強くて当たり前でしょう。

ときどき、時代が交錯するのも気になりました。最初オークションシーンから、当時のオペラ座に時代が逆行するのはいいんですよ。でも話の流れの中で、年老いたラウルのシーンがちょこちょこ出てくるのは気になってしまった。あれは要らないと思う。1番最後のシーンが、また年老いたラウルになるのはよかったと思いますが。

それと、これだけは言っておきたいことがあります。字幕が気になりました。インパクトの強い言葉が、作品のイメージを台無しにしてしまっているところがありまして。 passion-play「情熱のプレイ」です。これはあんまりだと思いました。ファントムとクリスティーヌの情熱のプレイ・・・・・・。別の話になってしまいそうです。直訳すると、受難劇だそうです。私も知らなかったんですけど、でも少なくとも「情熱のプレイ」が変だということは直感しました。

それと、肝心なところで意訳をしていて、これでは観客が誤解してしまうと思ったのが You are not alone の訳なのです。「あなたに惹かれていた」だったかな? そういうふうに訳しているのがどうにも納得いきませんでした。そういう意味じゃないと思うんです。惹かれてたとか、そういうことはファントムだってわかってたと思う。そうじゃなくて、ファントムにとって「一人じゃないわ」って言ってもらうことの持つ意味とか、それを口にするクリスティーヌの気持ちとか、それを伝えないでどうするの? という感じ。意訳することで、意味を狭めてしまっていると思う。そこに含まれたいろんな意味を匂わせるには、直訳することが必要だったんです。

私が思うに、You are not alone って言葉はファントムにとって、とても大切な言葉。普通の状態でその言葉を聞いたら、きっとすごく嬉しかったと思う。だけど、「俺を選ぶかラウルを選ぶか、はっきりしろ」なんて脅した後にそんなことを言われたら、うれしいというより悲しかったと思う。

あなたと一緒に生きます。ずっと一緒です。だから、あなたはもう一人じゃありません。そういう意味でクリスティーヌは言ったのかなと。でもそれは、「だからといってあなたを愛しているわけじゃない」という宣言でもあったかと思うのです。全然愛してない、とまで言っちゃうとそれは嘘だけどね。惹かれてる。愛してる。

だけどその愛は、あなたと一緒に暮らしたいっていう愛じゃないんだよね。一緒に暮らすのはラウルのため。ラウルの命を救いたいから、そのための魔法の呪文が You are not alone なのです。その呪文に効力を与えちゃったのはファントム自身だから、もう墓穴掘っちゃってます。追いつめられて混乱してるから、仕方ないとも思いますが。

ファントムは、自分で言っちゃってますもんね。俺を選ばなければラウルを殺すと。そういう状態でクリスティーヌに You are not alone と言われてしまうこのせつなさ。ここでI love you とは言えないです。嘘になってしまう。You are not alone というのは、クリスティーヌなりの本音だったと思います。ファントムと地下で暮らしていくことを、選んだのですから。この You are not alone には、大きくわけると二つの意味があったんじゃないかなと思います。一つは文字通り、あなたは一人じゃない。これからは私がいる、という意味。そしてもう一つは、「私はラウルの命を救いたい。ラウルを愛してます」という意味。ファントムはわりと繊細な人だと思うので、この後者の意味を、瞬間的に察知したと思いますね。

その後のキスは、たぶん言葉で語るよりいろんな思いがあふれたでしょう。クリスティーヌの、ラウルへの愛、ファントムへの愛。そしてたぶんファントムは、クリスティーヌがラウルを愛する気持ちを、とてもよく理解したのでしょう。その上で、自分に対してみせてくれた優しさ、実の親からも得られなかった抱擁をかみしめ、求めるばかりだった愛情を、こんどは返そうという気持ちになったんだと思います。

そうなんです。ファントムは、クリスティーヌに幸せになってもらいたかったから、彼女をラウルと共に地上へ返した。クリスティーヌがラウルを深く愛しているのを知っても、ファントムがクリスティーヌを愛する気持ちは変わらなかった。それどころか、増したでしょうね。

ラウルはなんといっても、クリスティーヌのために命を賭けた男です。恋のライバルとして憎き相手ではありますが、でも大切な彼女を託す相手としては頼もしいわけです。安心して渡せます。激しい嫉妬を押し殺してでも、クリスティーヌが大切だった。守りたかった。

それがファントムの本音かなあと思います。幸せになってくれ、と心から願ったはずです。

長文になりましたので、続きはまた明日。

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