オペラ座の怪人(映画)を語る その5

昨日の続きです。ネタバレ含んでいますので、映画未見の方はご注意ください。

残念だったな、と思う点をさらに挙げてみます。

クリスティーヌが、最初からラウルを幼馴染と気付いているところが気になりました。私なら、ハンニバルでカルロッタの代役を務めた日、クリスティーヌはラウルを幼馴染と気付いていない、という設定にしますね。舞台版だと、そうなっていましたけど。その方がドラマチックだと思うのです。

思いがけない舞台の成功。賞賛の嵐。なにがなんだかわからないような興奮の中、美しく立派に成長した幼馴染と再会。ロマンスが生まれるには、十分な環境でしょう。こういう偶然の再会というシチュエーションが、物語をより、盛り上げると思うのです。

いぶかしげなクリスティーヌの顔が、相手を幼馴染と知ってみるみる輝く、そういう絵が見てみたいです。

クリスティーヌを地下のお城へ連れて行くとき、馬を使っていたこと。これはちょっと、あまりにも突飛すぎて違和感を覚えました。外の世界ならともかく、地下に馬。イメージがちょっと違う。クリスティーヌの手を引き、ただ歩いていくというだけでよかったと思うのです。馬を使っていたので、「どうやって飼っているんだろう」とかよけいなことを考えてしまいました。

ファントムが自分のお城に置いていた、リアルな等身大クリスティーヌ人形。これはまずいでしょう。あまりにも不気味すぎです。私は思いっきりひきましたね。ここまでいっちゃうとちょっと異常な雰囲気になってしまうので、やめてほしかった。これを映像でとるなら、もっと他に撮る物があったんじゃないかと思ってしまいました。

小さいお人形ならOKです。オペラの作曲をするのに、登場人物を動かしたりしてイメージを膨らませるのには必要かもしれないですし。でもあの、リアル人形は駄目。ひきます。ドン引きです。

気を失ってしまったクリスティーヌを軽々と抱え上げ、天蓋つきのベッドにそっと寝かせるシーンはとても素敵でした。大切な宝物を見るかのような、ファントムの目が優しいのです。女性にとって、天蓋付きのベッドは永遠のお姫様アイテム。

それだけに、あのリアル人形のインパクトは、ファントムのよさを台無しにしてしまうような気がします。どんな顔をしてあの人形をみつめていたのかと思うと、寒すぎます。

マダム・ジリーの告白も、いらなかったような気がします。ファントムの過去については、あえて触れなくてもよかったんじゃないかと。もし触れるのなら、原作にあったようなペルシアの王様のために宮殿を作ったとか、建築・音楽、さまざまな才能にあふれていたけれど、追われ追われてオペラ座の地下に住み着いているとか、そういうところに焦点をあててほしかった。

見世物として扱われていたのを逃げ出して、マダム・ジリーが助けた、というのはあまりにもありがちな話に思えてしまいました。

マスカレードのシーン。ラウルとずっと寄り添っているのが気になりました。舞台だと、踊っているときに2人を引き離すような邪魔が入るのですが、こういうシーンはぜひ入れて欲しかった。

オペラ座の怪人(ロンドン・オリジナルキャストレコーディング)CDの歌詞カードのようなシーンが欲しかったです。絢爛豪華な仮面舞踏会。ラウルと楽しく踊っているのに、人の波にもまれてどんどん引き離されてしまう。ラウルを探してさまようけれど、どの人も仮面をつけていて、誰が誰だかわからない。音楽は鳴りつづける。次第にクリスティーヌの不安が高まってくる。楽しげな音楽が、逆に不安を煽っていく。次々現れる仮面の向こうに、ファントムの影を感じて、クリスティーヌの顔がだんだん不安で曇っていく。

ラウルは必死でクリスティーヌに駆け寄ろうとするけれど、人波がそれを邪魔する。やがて彼女を見失う。そしてファントム登場。

私だったら、上記のような撮り方をしたいですね。それに、ラウルがクリスティーヌの傍にいないのだったら、彼が会場を離れるのにも納得できるし。

映画だと、クリスティーヌをその場に残したままラウルが立ち去るのです。普通、彼女も一緒に連れていくんじゃないでしょうか。危ないじゃないですか、ファントムが現れたというのに。彼の狂気を知っていながら、クリスティーヌの傍を離れるラウルはうかつですね。

思いつくままにつらつら挙げてみました。もう少しこうだったら、というシーンは、細かいところを言ったらきりがありません。でも、全体的には本当に素晴らしい映画になっていたと思います。なによりも音楽が圧倒的。

アンドリュー・ロイド=ウェバーの才能がつくりだした、奇跡のような曲の数々。何度聴いても飽きません。特に、最後のファントム、クリスティーヌ、ラウルの三人が同時に歌うシーンは、ぜひ英語詞を手に入れて目を通すことをお勧めします。字幕だと、一部しか訳してませんから、もったいないです。三人がそれぞれ、自分たちの思いをどう叫んでいるのか、それがわかって映画を見るとよけいに感動が増すでしょう。

最後にちょこっとだけ毒を吐きます。映画のために書き下ろされたという新曲は、期待していたわりに、ぐっときませんでした。才能ある人の作品が、必ずしも全部才能にあふれているというわけではないのだな、と思ってしまいました。いろんな奇跡が重なって初めて、後世に残るような名作が出来上がるのだなと。

以上、「オペラ座の怪人」映画版の感想でした。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。