ドラマ『永遠のゼロ』 感想

 ドラマ『永遠のゼロ』を見ました。以下、感想を書いていますが、ネタバレ含んでおりますので、未見の方はご注意ください。ちなみに一夜は見ておらず、二夜と三夜だけを見た感想です。

 ドラマは三夜放送されるということで、映画よりも時間が長い分、映画で見られなかったいろんなエピソードがきっちり描かれるのではと期待していたのですが、残念でした(^^; なにがって、キャスティングです・・・。

 どうしてかなー。一番ひどいと思ったのが、景浦役の、柄本明さん。柄本さんが悪いんじゃなく、柄本さんを起用した人が間違っていると思いました。柄本さんの場合、どうしても志村さんとのコントの印象が強いし、見ていて「これは景浦じゃない」という違和感がすごくて。
 映画版の田中泯さんがはまり役だっただけに、とても残念です。景浦の役は、このお話の重要な鍵のはずなのに。そこを外してしまうと、ドラマ全体の仕上がりが間延びしたものになってしまう。

 せっかく、これだけの時間を使って描くのになあ、と残念でなりません。飛行機の特撮とか、ロケ地の建物には予算の関係上そんなに費用はかけられなくても、役者さんの演技で魅せてくれたら素晴らしいものになったと思うのです。一人一人がじっくりと宮部を語る、それだけの時間が十分にあったのに。今回、ドラマ化に関して、映画よりも一番有利な点はそこです。長い時間をかけて描けるということ。だからこそ、キャスティングがすごく大切だったのになあ。

 なぜ景浦役を柄本明さんにしたのでしょう。

 あと、演出もひどいと思いました。景浦が宮部の孫と会うときの、部屋着のようなくたびれた服と、無精ひげ。景浦は元暴力団幹部のはずなのに、宮部の孫に会うとき、そのような格好をするのは考えられません。本当なら、もっときりっとした格好で現れたはずです。たとえ年をとっていたとしても。
 そして目の奥には凄みを宿していたでしょうし、触れれば切れるような空気を、ときに漂わせるような人物だったと思うのです。背筋もぴんと伸びて。

 柄本さんだと、キャラが違いすぎます。田中泯さんの演じた景浦のことを、何度も思い返してしまいました。田中泯さんの異様なオーラは、映画を見終えた後も、強い印象をいつまでも観客の心に残していたと思います。

 ともかく、この景浦役のミスキャスティングがドラマの方向性を、決定づけてしまったような気がしました。他に良い点があっても、総合的にみたとき、このミスキャストの負を挽回できていないです。

 他に気になったのは、戦後の松乃があまりにも綺麗な服を着て、髪も乱れず顔にも生活の疲れがなく、苦労したという設定に説得力がまるで感じられない点です。特に、大石とレストランで食事をしたり、その後、話をしたりするシーンなどは、戦後というよりも現代の空気を感じました。真っ白なブラウスの襟。貧しいながらも精一杯のおしゃれというよりは、普通の、豊かになった時代の日本を思わせました。70年代くらいの印象です。

 松乃が景浦に助けられるシーンも、想像していたのとずいぶん違っていました。きれいな着物を着て、決して不幸にはみえない、やさぐれてもいない松乃の姿。囲われ者といっても、それなりに幸せそうにさえ見えてしまった。だから景浦が助ける意味が、薄れてしまうのです。景浦が投げつけた財布から、札束が舞うのも興ざめでした。

 景浦は松乃を助けに来たのではなく、たまたま組の抗争で押し入ったら、そこに松乃がいたという設定。これもなんだか、残念な気がしました。
 
 苦しんでいる松乃を知り、闇に乗じてたった一人で乗り込む。そして松乃に財布を投げ、「生きろ」と万感の思いをこめて叫ぶ景浦であってほしかったです。

 これは映画のときもそうでしたが、戦後の松乃の窮乏ぶりが描かれていないと、大石が登場する意味がなくなってしまうと思うのです。松乃が豊かで幸せであるのなら、大石が助ける必然性もないし、関わることそのものが、単なるメロドラマになってしまいますから。

 ドラマの中で、若いときの大石を演じた中村蒼さんは、はまり役だと思いました。生真面目な感じが、まさに大石、という感じで。宮部の目に、妻子を託せる相手として、映るだけの力を持っていたと思います。真面目さや責任感だけでなく、誰かを守るために必要な知性も、十分に感じられて。

 広末涼子さんの演じる慶子もよかったな。高山と藤木の間で、傷つきながら、打算もありながら、祖父を知ることで変わっていく姿が見事でした。
 あと、永井を演じた小林克也さんもよかった。最初、小林克也さんと気付かなかったです。あまりにも自然な演技で。
 
 ドラマは、映画にはかなわなかったと思いました。キャスティングと演出さえ違っていれば、超える可能性は十分あったと思いますが。残念です。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。