ドラマ『ラヴソング』 第2話までの感想

 なんとなく見始めたら、意外に面白かったドラマ。
 以下、感想を書いていますが、ネタバレ含んでおりますので未見の方はご注意ください。
 いろいろツッコミどころはありますが、主人公二人は役にはまってて魅力的だと思います。特に、福山雅治さんは、神代広平という役にぴったりです。
 無表情なシーンが特に、いいなあと。
 普通、感情を出さないと、怒ってるみたいに見えたりしがちだと思うんですが。福山雅治さんの場合、怖くみえない。
 その、感情をあらわにしない顔がいいのです。なんというか、興味をそそられるというか。
 逆に、ふっと引き込まれてしまうというか。
 企業カウンセラーの神代と、整備工場で働く佐野さくら(演じるのは藤原さくらさん)の物語なのですが、二人の年齢差が、ドラマの始まる前から話題になっていましたね。実年齢だと、さくらさん20才、福山さん47才。その差は27才。親子でもおかしくない。
 ただ、ドラマを見ると、二人の間に恋愛感情があったとしても自然な雰囲気に思えるんですよ。福山さんはかっこいいし年齢なりの頼りがいもあって、二十歳の女の子が憧れるのも、そりゃそうだよねと。
 私は福山さんに関しては、昔より今の方がかっこいいなあと思います。昔はチャラいお兄ちゃんにしか見えませんでした(^^;
 今もチャラくないとはいいませんが、チャラさが薄まり、その分、大人の男性の魅力が増したんじゃないかと。
 元音楽家が、知り合った女性との交流を通じて自分の過去と向き合い、変わっていく。そんな設定を聞くと、どうしても連想してしまうのが、90年代のドラマ『WITH LOVE』。
 職業に元か現かの違いはあれど、音楽を通じての触れ合い、癒し、変化は、『WITH LOVE』と同じこと。
 過去に、失った恋人との痛い思い出がからんでいることも、両作品共通の設定。
 神代の場合は、まだ宍戸春乃(新山詩織さん)と、どのような別れがあったのか、詳細はまだ明らかになっていませんが。確かなのは、春乃がもう、亡くなっているという事実。
 亡くなった春乃の妹、夏希(水野美紀さん)のセリフは意味深です。
 
>逆にこれでよかったのかもね。
>これでさくらちゃん、お姉ちゃんみたいに広兄に・・(口ごもる)
>利用されなくてすむんだね。
 夏希が、思わず口にしようとした言葉、私には、「これで広兄に、殺されなくてすむんだね」、のように聞こえました。あくまで想像ですけど。実際には、音になっていない。
 なかなか過去をふっきれない、いつまでも春乃の影を追いかけ続ける神代に対しての苛立ちが、夏希の本音が、思わず言葉になりそうになった瞬間ではなかったかと。
 軽々しく口にしていい言葉ではないとわかっているから、夏希はすんでのところで飲みこんだものの。
 彼女が今も心の底で、姉の死の責任を神代に求めているということ。それを神代が知ってしまった事実は重いのではないでしょうか。
 お互いに少しずつ遠慮して。本当の気持ちを隠しながら、もどかしい距離で接している神代と夏希。
 大人には、ずるさも駆け引きもある。
 神代に特別な悪気があるわけではないのでしょうが、彼は夏希の恋心を利用して、ちゃっかり家に居候している。自分で部屋を借りないのは、寂しいからなのかなと。
 ドラマの冒頭では、別の女の人の部屋で同棲してたみたいだし。でも別に、真剣に付き合ってるふうでもなく。
 (ちなみにこのドラマ冒頭の、ベッドいちゃつきシーンは非常に気持ち悪かったです)(^^;
 企業カウンセラーという職業を選んだことも。人の心とがっちり向き合う生活を選んだのは、人が好きだからでしょう?
 誰かと深く向き合うことは面倒。けれど独りは寂しい。
 夏希には心を許しているから、神代にとって夏希の家はとても心地がいいわけで。彼は夏希の気持ちに気付かないふりをしながら、彼女にとっては残酷な同居を、甘えるようにして続けている。
 そして、さくらに対しても。神代はさくらの恋心を利用して、彼女の吃音を直そうと試みている。その過程において、彼女が生み出すであろう音楽に興味を持ち、聴きたいと願っている。
 夏希も、さくらを利用しているのは事実。音楽を使って吃音の治療を試みる。その時に、音楽担当が神代である必要性は全くないわけで。
 音楽から離れてしまった神代を音楽に戻そうとする行為は、お姉ちゃんを忘れて私を見て、というアピールのように思えるのです。過去にとらわれて動き出せない神代を、ただ単に思いやっているのとは違う。その向こうに、自分との未来をどこか、夢見ているような。
 そして、そんないろいろ複雑な思惑の絡む大人二人と対照的だからこそ、さくらの若さが光るのです。
 
 単純。もうね、神代や夏希からしたら、さくらの恋心なんてバレバレで。そして、さくらが吃音を治したいと思ってるその気持ちは、まぎれもなく本物で。彼女は人とのコミュニケーションがうまくいかないことを、諦めてない。なんとかしたいと思っている。吃音が治ったら、世界は変わるんじゃないかと期待してる。
 なにより、さくらは、吃音を恋心に利用していない。そこが大人二人と違うところ。
 さくらが今の自分を変えたいと、焦る気持ちはわかります。まだ若いから、世界が狭いわけです。その狭い世界、職場での女性同士の人間関係。はっきり言って、さくらの同僚3人は最低の部類。あんな同僚と一緒にいたら、逃げ出したくなるのも無理はない。同僚たちの会話の節々に現れる、侮蔑の心。
 さくらを下に見てるんだろうなっていうのが透けて見えるのです。だから、さくらがやっと予約した歓迎会の店を自分たちが勝手に変えても、彼女らは心なんて痛まないのです。自分たちが逆のことされたら、絶対怒るだろうに。
 私はタバコ吸う人は大嫌いなのですが、さくらがタバコを吸うのは許せてしまう。いや、もちろん早々にタバコなんてやめてほしいけど。さくらの今までの人生で、彼女がタバコを吸わざるを得なかったのはわかるような気がするのです。 まず第一に、さくらはタバコで吃音の症状が緩和すると信じていたから。愚かですけど。治したいという藁にもすがる思いがあったのかと。
 そしてね。さくらが無理して付き合ってる女子の同僚3人。これがタバコ吸ってるからね~。さくらが吸ってしまうのも必然だと思いました。さくらは彼女たちから浮かないように、必死に合わせてるから。可哀想に。
 周りがタバコ吸う人間ばかりだったら、吸わないのが異端になってしまうわけです。もしさくらがタバコを吸っていなければ、彼女の職場での立ち位置がどうなっていたか。
 きっとこの先、さくらはタバコをやめると思います。神代と出会い、音楽を知って、自分に自信をもてたなら。違うステージに立つことができます。そのステージにはもう、タバコを吸う同僚3人はいない。違う人間関係が広がっているはず。そこにはタバコを吸う人たちはいないのではないかと、希望的推測。
 さくらが神代の前で初めて歌った、『500マイル』という曲。ゆっくり朴訥としたメロディに乗って、どもらずに言葉を伝えられた初めての経験。途中、涙したのは、嬉しかったんだと思います。ああ、ちゃんと伝えられる。みんなと同じようにしゃべれるんだって。
 「抑えて」という繰り返しのフレーズで詰まったとき、映像としては語られない、さくらのこれまでの人生がバーッと目の前に広がるような気がしました。我慢我慢の人生だったのかなと。いつも自分の心を抑えて、抑えて、抑えて生きてきた。言いたいことも飲みこんできた。
 でも今は違う。真っすぐに自分を見て、新しい世界にいざなってくれる人がいる。もう我慢しなくていい。抑えなくいい。自分の中にある感情を、素直に出していいんだって。
 さくらの人生の、大きな転換点。音楽との出会い。
 
 そりゃ、神代先生に惚れちゃいますわな。この状況で、惚れるなっていう方がおかしい。
 神代は、ずるさも持っているけどその反面偉いなと思うのは、さくらの心を知りながらも、引くべき一線はきっちり引いているところです。そんな神代の姿勢が明示されるシーンがこれ。すっかり神代のことが好きになったであろうさくらの、決定的な一言。
>タバコ吸う女って、嫌じゃないですか?
 対する神代の答えには痺れました。
>別に。
 顔色一つ変えず、クールに言い放つのですね。非の打ちどころがない模範解答ではないですか。
 だってもし「嫌だ」と言えば、さくらは嬉々としてタバコをやめるだろうし、そうなれば神代は、さくらの恋心に気付かないふりができなくなる。
 そしてもし「嫌じゃない」と言えば、これまたさくらは嬉々としてタバコをくわえるだろうし、そうなればやっぱり、心に気付かないふりができなくなる。知らないふりが、あまりにも嘘くさくなってしまう。
 「別に」って、絶妙な答えだなあと思って。さすがモテ男、積んでる経験が違うのか(^^) とっさにきっちり白線を引きましたね。浮かれたさくらが、どうしても飛びこえられないハードル。つまり、「彼女にする女なら気にするが、関係のない女はどうでもいい。喫煙者だろうと構わない」という心の声。それを一言で言いきった。その短さ、冷たさがまた、天に昇ったさくらの心を、しっかり地面に引き戻す。
 藤原さくらさんは、佐野さくらさん役にぴったりです。藤原さんの演じる、少し不器用で、純粋で、一生懸命なさくら。もどかしさや、内面にある葛藤、抱えてきた悲しみ、。たまに見せる笑顔が、最高にキュートなのです。
 

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