『ダンス・オブ・ヴァンパイア』で一番好きな曲

 今日は、ダンス・オブ・ヴァンパイアの中で一番私が好きな曲、「抑えがたい欲望」について書きたいと思います。本当は全部の歌詞を一つ一つ、丁寧に語りたい。それくらい完璧に仕上がってる作品だと思います。内容はネタバレを含んでいますので、舞台を未見の方はご注意ください。

 そもそも観劇前、訳詞に関してはかなり不安を抱いていました。だからあまり期待もしていなかったのですが、この「抑えがたい欲望」は予想をはるかに超える完成度の高さ。静かな曲調のメロディにこの歌詞が重なり、そこに山口さんの声が加わった日には・・・・。劇場に別の空間が生まれてました。

 いい詩は、鮮やかなイメージを喚起させます。私はそういう力のある詩にどうしようもなく惹かれます。この「抑えがたい欲望」に関しては、タイトルだけが残念。どうもしっくりこない。他が素晴らしいだけに、なぜこのタイトルなのかが謎です。

 月のない闇夜に初老の吸血鬼。疲労の影濃い伯爵の回想。「きらめく空をみていた 遠い夏」私は伯爵がこう歌い始めると、それだけで容易に日差しを思い浮かべることができます。夏という言葉だけで、もう胸がせつなくなる。だって、ヴァンパイアには最も似合わないものですから。だけど伯爵にも、あふれる日差しの中で愛する人を抱きしめた、幸福な記憶があったんだなあと、その光景を思うのです。

 その後はもう、目の前の出来事のように想像できますね。緑が目にまぶしいどこまでも平和な風景で。小川が流れ、鳥のさえずりが聞こえる。

 娘は金髪の巻き毛です。その髪に顔をうずめたときにはお日様の匂いがするはずで、太陽に温められた髪の温度が頬に心地よく。伯爵は娘と戯れ、幸福に酔いしれて彼女を抱きしめて。世界は永遠にこのまま終わらないと心の底から信じていたでしょう。娘は幸せそうに目を閉じ、そしてそのまま・・・・・。

 そのとき、伯爵の周囲だけが急に、ぐっと冷えたはずです。血の気がひく感じ。どこまでも幸せな風景の中、伯爵と娘の周囲だけが、気温を下げ。

 なにが起きたかわからず、信じたくない気持ちで伯爵は娘をのぞきこみ、そこになんの非難も苦悩も見出せないことに苛立ち、そしてただ彼女を見続けたでしょう。永遠に記憶に刻み込まれた愛する人の穏やかな顔。

 「この私が わからない 自分さえ」ここも私の涙腺決壊ポイントですね。

 努力してどうにかなるものだったら、伯爵はいくらでも努力したでしょうが、なにせ吸血鬼なんだからどうしようもない。そして娘を失わなければならなかった、そのはっきりした理由もわからない。自分を責め、運命を呪い、ただ嘆くことしかできない。

 サラは大丈夫だったのに、なぜその娘のときは駄目だったのか。

 私の勝手な解釈ですが、理由は「本当に好きだったから」だと思います。本当に愛した人の血を吸ったら、その人を失うということなんじゃないでしょうか。設定が耽美すぎますかね(^^;

 ここらへんは暗示だなあと思うのです。

 そういうことって、ままあるじゃないですか。本当に好きな人には不器用になって失敗すること。思い入れが強すぎて、一番欲しいものを失ってしまうこと。

 『ダンス・オブ・ヴァンパイア』にはいくつもの暗示があると思いますが、これもその一つかなという気がします。舞台上のこと、他人のことだと思って笑ったり泣いたりしてみているうちに、ふっとそれが自分自身にも当てはまっていることに気付くのです。

 伯爵が立ち去り、そして鐘がなる。雰囲気が侘しくて美しくて荘厳で、大好きです。本当にその時代、その場所に居合わせたような気持ちになってしまいます。伯爵が落としていった思い出に、そっと祈りを捧げたくなるような。

 また、伯爵の背中がいいですね。最後のプライドを失っていないというか、神様への静かな怒りに満ちている。音も立てず、空気も揺らさずに消えていくその背中には、誰も手を触れられない感じです。

じわじわ

 ※文中に一部、『ダンス・オブ・ヴァンパイア』のネタバレにもつながる箇所がありますので、未見の方はご注意ください。

 悲しい夢を見て、泣きながら目を覚ました。起きてひとしきり泣いた後、頭の中でダンス・オブ・ヴァンパイアの『抑えがたい欲望』という曲がぐるぐる回っていた。相当、あのミュージカルにはまってしまったみたいだ。この舞台、見終わった後の余韻がすごい。じわじわひたひた、確実に押し寄せてくる感じ。その力強いエネルギーに、自分の心が触発されたのを自覚した。

 クロロック伯爵。そしてあの詞。あの曲。心にぐさぐさ突き刺さります。誰もいない、月も出ない闇夜で、回顧する幸福な過去の情景。

 そして静かに、だけど確信をもって断言するんですよね、伯爵は。神はいないし、奇跡もない。最後に残るのは欲望だけだと。

 なんだかねー。この伯爵という人物に、やけに感情移入してしまう自分がいます。この人は傍から見ていて、とても余裕しゃくしゃくなお人なんですけれども。全部を手に入れて、もうこれ以上は欲しい物ないでしょ?ってくらい頂点に立ってるのに、どうしようもなく空虚。それが、ぞっとするほどの孤独感につながっている。まして、この人は永遠を生きてる人なわけで。

 終わりがないままに、満たされない心を抱えて生きるのはどんな気持ちだろうか?と思ったりします。

 神はいない、と言いきる絶望。これは相当ですよ。だって、神様がいないと考えるのは怖いですから。でもそう言いきるまでに、彼はどれだけ繰り返し失望してきたんだろうと思いました。

 信じて、でも駄目で、信じて、でも駄目で、何度も何度も、繰り返しそれを学習してしまって辿り着いたのがその結論なのだとしたら。

 

 クロロック伯爵が欲しかった救いは、大仰なものではなかったはずです。自分の感情を共有する相手。でも、それだけがどうしても手に入らない。他のものはなんでも叶うのに、素朴で単純で、純粋な願いだけがいつも打ち砕かれる。

 物質的なものを充たすことより、精神的なものを充たすことの方が難しい。心の本質って、いったいどこにあるんだろう。気持ちはどこからやってきて、人間の行動を支配するんだろう。

 クロロック伯爵に永遠の幸福などないと断言されてしまうと、とても悲しい。なんだかね、ミュージカル見てるうちに、すっかり伯爵に魅了されてしまって、言うことに信憑性を感じてしまうから。そんなこと言わないでよと思いながら、同時に深く納得している自分がいます。続かない幸福は、いっそ最初から存在しない方が楽なのです。幸福の甘美な味を知ってしまったら、失ったときの喪失感は大きい。

 欲望に従えってどういうことかなあと思います。欲望は私にとって罪悪感とワンセットなのです。楽しいことだけが続くのは申し訳ない。苦しい思いや我慢をしなくては罰が当たるって、心のどこかでずっと思ってきたような。

 欲望っていうと、字から受けるイメージがネガティブなものですが、「自分の心が本当に欲しているもの」と考えると、ずいぶん印象が違う。自分の心が本当に欲しているものはなにか、あんまりそんなこと考えたことなかったなあ。深く、深く、自分自身に問いかけてみると、今まで見えなかった自分が見えてくるような。

 遅発性の毒のように、伯爵の言葉が効いてきます。

 単純に笑っちゃうおもしろいミュージカルでもあるのですが、そこにこめられた多くの暗示が、静かにじわじわ侵食してくる感じ。

 ああ、私このミュージカルが好きだ、と強く思った朝でした。

ダンス・オブ・ヴァンパイア観劇記 その6

 7月9日ソワレ。帝劇で『ダンス・オブ・ヴァンパイア』を観劇してきました。これで4度目の観劇です。以下、ネタバレを含んでいますので未見の方はご注意ください。

 どうやらこれは、後からじわじわくる作品のようです。見てから一定時間たつと、また見たくなる。あの曲、そして映像が思い出されてならず、ついふらふらと劇場に向かってしまうという・・・・。

 2003年に山口祐一郎さんのファンになってから、一番好きなのはバルジャン役でしたが、(見たい聴きたい役という意味で)今日、私の中でクロロック伯爵がバルジャンを超えました。すっごく個人的な嗜好ですが、クロロック伯爵はあまりにも魅了的です。ダンスオブヴァンパイアの上演を去年からずっと楽しみにしていましたが、まさかここまではまるとは思ってもみなかった。自分が一番驚いてます。

 今日で4度目の観劇。今まではS席でしたが今日は初のB席。さすがに伯爵の表情までは見えなくて、それが少し残念。視力が8くらいあったら見えるのかな。などとくだらないことを考えつつ、それでも十分ヴァンパイア達の世界にひたってきました。

 サラ役は大塚ちひろさん、アルフレート役は浦井健治さんです。

 大塚さんは、歌うまいです。うまいんだけど、私のイメージするサラとはやっぱり違うんだなあと思いながら見てました。でも伯爵とデュエットするとき、かなり声が出てたからそこはすごいなあと。サラががんばると、それに合わせて伯爵の声量も増すので、ファンにとっては嬉しいことです。

 浦井さんは、雰囲気がすごくいいですね。歌声とか立ち姿が、アルフレートにぴったり。泉見さんと比較したときに、天然型だなあと思いました。そのまんまで、不思議な雰囲気を醸し出してる。おっとりした、浮世離れした王子様。泉見さんは努力型というイメージで、細かいお芝居だったり歌だったり、あふれるエネルギーを感じますが、浦井さんはそのまんまでアルフレートになりきっているというか。

 ヘルベルトと絡むシーンで、その違いを一番感じました。泉見さんは猛攻にガタガタとかなり大げさに震えていてそれがまた笑いを誘うのですが、浦井さんはあんまり震えてなかったように思います。二階席から見たから、それで震え方が違ってみえたのかなとも思いますが。

 ヘルベルトといえば、吉野圭吾さん最高! 『MOZART!』のシカネーダー役から注目してましたけど、この役はまってますね。他の人でやることを想像できないですもん。すべての動きが、言葉が、緻密に計算されつくしている感じ。慎重に練り上げられた妙技を感じました。

 ヘルベルトの出てくるシーンは、見逃せないです。

 アルフレートを誘惑し、2人で踊るシーンは笑ってしまいました。「パラダイス」という言葉は、台本通りなんでしょうか。若い恋人同士が「二人のため世界はあるの♪」とお花畑にいるようで、うきうきのヘルベルトとおよび腰のアルフレート。繰り広げられるラブラブムードはヘルベルトによる一方的なもの。アルフレートの意志を100パーセント無視して勝手に盛り上がるヘルベルトに爆笑しました。

 吉野さんで唯一、「ここが惜しい」と思うのは、初めて教授とアルフレートに会ったときの歌。「退屈にさよなら~」という箇所。ら~の部分が、もっともっと広がるといいなと。声がぶわーっと広がっていく感じに終わると、凄みが増して盛り上がるのではないでしょうか。ここだけ、いつも消化不良な気持ちになってしまう。もっと大きくなればいいのに。もっと、声が劇場中に広がればいいのに、と期待してしまいます。

 教授とか伯爵は観客に思いっきり聞かせるシーンがあってそのたびに満足してるから、ヘルベルトにも同じレベルで歌ってほしいなと期待してます。

 吉野さん、華がありますね。登場すると目が釘付けになってしまう。最後まで目が離せません。

 シャガール役の佐藤正宏さん。彼もはまり役だと思いました。憎めないキャラを演じさせたら天下一品。やってることは無茶苦茶なんだけど、声にも姿にも「単純です。なんにも考えてないです」的空気があふれていて、なんだか可愛らしい。

 サラを心配して風呂場の扉を封鎖してしまうシーン。「おやすみそっと」とか言いながら、夜中だというのに、客がいるというのにすごい音を立てて釘打ってるし。自分が一番睡眠の邪魔してるということに、気付いていないのが笑えます。

 サラ大事。サラを泣かせるやつは承知しないぞ・・・と思ってるのは結構ですが、その一方でマグダに夜這いする自分を疑問視しない単純さ、おもしろいです。彼の中では、両方がなんの矛盾もなく存在してるんだろうなあと思うと笑えました。

 ベジタリアンになるとか、簡単に誓ってしまう調子のよさも、「シャガールってそういう人だよな」と納得してしまいました。絶対口先だけだな、と、言った瞬間に観客全員が思ってるはず。

 教授役の市村正親さん。よくあれだけの台詞がよどみなくすらすら出てくるなあと、感心してしまう。全然つっかからないのです。同じメロディで違うバージョンの歌詞を何度も歌わなくてはならず、混同してしまわないかなと見ているこっちは思うわけですが、さすがの貫禄。

 この役も、市村さん以外では考えられないし、きっと他の人が演じたんでは違和感を感じてしまうと思う。霊廟シーンでのアルフレートとのやりとりには、いつも笑わせられます。

 歩き方、ちょっとしたしぐさも可愛らしくって、教授になりきっている感じ。市村さんてシリアスなイメージがあったけど、コメディ合ってますね。

 そしてクロロック伯爵役の山口祐一郎さんは。もうね、どうにでもしてくださいってくらい魅力的です。(笑)どの場面も、瞬きするのが惜しいくらい凝視してしまいます。歌うときには、全身が耳になって音に耳をすませてしまう。余裕たっぷりで、皮肉で、いつも鷹揚としているのに墓場のシーンの孤独感といったら! 伯爵の心の奥底に眠る激しい渇望や怒り、諦め、あますことなく表現してます。それに、昔の懐かしい記憶を呼び起こすときの優しいお顔はもう・・・・胸にぐさっときます。歌詞もいいのです。『抑えがたい欲望』この曲に関しては、訳詞完璧だと思いました。一つの詩として成立してる。

 かっこいいだけじゃなくて、面白いキャラでもあるし、哀愁も漂ってるし、見れば見るほど惹かれてしまいます。独特の間のとり方も、いいですね。「諸君、ディナーの時間だ」の声色が好きです。そうか、こういう声も出せるんだなあと妙に感心。欲望に身を任せて、邪悪な心のおもむくままに快楽を味わう。その一方で苦悩に沈む。深い設定ですね。

 そこに立っているだけでなにかを感じさせる姿。オーラがあります。背中で物語ることができるなんて、なかなかいないです。山口さんというより、クロロック伯爵のファンになってしまいました。

 ロビーに飾られた出演者達の肖像画。幕間と終演後と、微妙に違ってるんですね。こういう細かい演出、素敵だなあと思いました。天井をとびまわってるマスコット、リー君も可愛い。それに、柱に巻きつけられた巨大クロロック画。

 このセンス、大好きです。

 その点、グッズが惜しいなあと思う。トマトジュースは売ってほしかったし、伯爵の顔の巨大タペストリーとかTシャツ、販売してくれればいいのに。特にあの、伯爵の最後の顔。あれは、劇中で使うだけなんてもったいなさすぎる。売ればかならずヒットするのになあ。

 この作品は、『エリザベート』好きな人には嫌われ、『エリザベート』苦手な人には好まれるテイストじゃないかと思いました。私はこの作品、大好きです。

ダンスオブヴァンパイア観劇記 その5

 7月8日マチネ貸切。『ダンス・オブ・ヴァンパイア』を帝国劇場で見てきました。以下感想ですが、ネタバレしてますので未見の方はご注意ください。

 前2回はどちらも1F前方下手での観劇でしたが、今回は初めて1F前方上手でした。見る角度が違うと、違うものが見えて面白いです。初めて伯爵の牙装着シーンを見てしまいました。見たといっても後姿でしたが。その背中に向けて、「がんばれ」と心の中で声援を送ってしまったのは言うまでもありません。

 3回目の観劇にて実感。私、この舞台のセンス大好きです。はまってしまいました。『エリザベート』や『MOZART!』より好きですね。楽曲やダンスも素晴らしいです。オーケストラの音に感動します。気のせいか、回を重ねるごとにどんどん良くなってる気がします。出演者の方に余裕が出てきた感じ。間のとり方とか声の出し方、いつも決まってるわけじゃなくてその日の空気を読みながら、変えているんだなあと思いました。

 今回の組み合わせは大塚ちひろさんがサラ役で、泉見洋平さんがアルフレート役。大塚さんは相変わらず可愛いというよりも大人の色気を感じましたね。だから、サラ役には少し、違和感があった。歌声は素敵だし声量もあると思うのですが、とにかく雰囲気が色っぽすぎる。こんなに色っぽいと、脚本上まずいんではないかしら?と思いました。サラには子供から大人への過渡期、その独特の雰囲気を醸し出してほしいです。

 泉見さんは大熱演という感じで、アルフレートの単純なところがガンガン伝わってきて面白かったです。ふと思ったのですが、そういえば演出の山田さんは、この舞台をアルフレートの成長物語と位置づけていましたね。でも、アルフレートって全然成長していないかも。

 臆病なところは変わっていないし、サラの気持ちをくみとる能力にも欠けてるし、最後まで見て「一つ大人になったね、アルフレート」なんて感慨を持つお客さんいないと思う(^^;

 この物語に出てくる人物って、みんな愛すべきキャラで憎めないなあと思いました。自分勝手だけど、それが微笑ましくもある。腹が立つんじゃなくて単純に笑っちゃう。『エリザベート』のときには、エリザベートのわがままぶりに、不快な気分になったことが何度もあったのです。すっきりしないというか。その点、この『ダンス・オブ・ヴァンパイア』はガハハって単純に笑える。この違いはなんだろうか。コメディだからかな。とにかく、見終わったときに嫌な感じがないのです。

 

 シャガールの単純キャラもいい。サラのことは本当に大事に思ってるだろうし、命がけで助けにも行ったんだろうけど、マグダには欲望を抑えられない。マグダ役の宮本裕子さんいいですね。声量がないのがつらいけど、雰囲気は抜群です。少し寂しそうな、線の細い美しい人。

 シャガールって娘の前では娘思いの厳格な父、愛人の前ではへろへろのエロ親父で、そのどれもが彼にとっては真実なんだろうなあと思いました。佐藤正宏さんは演技うまいですね。憎めないもの。あんまりにもあっけらかんとしてる。罪悪感がなく、欲望におぼれるとはこういうことかと思いました(笑)

 シャガールの妻、レベッカの方にこそ、むしろ少し憤りを覚えました。それはサラを助けにいかなかったから。子供って、自分の命よりも大切なものじゃないのかな。夫が助けにいくときに、どうして自分もついていかなかったんだろう。

 頭の中で、「ガーリック、ガーリック」の歌が鳴り響いてます。魅力的な楽曲が多いのも、この舞台の魅力の一つ。オーケストラの音楽にうっとりです。クラシックっぽいのもあればロック調もあり。歌に関しては、どことなく教会の聖歌を思わせるようなものもありました。(私だけのイメージかもしれないですが)

 目の前で繰り広げられる群舞も、迫力あり。私はチケットかなり恵まれてましたね。たまたま前方席で見られたので、本当にお得だったと思います。でも一番よかったのは、伯爵の表情がちゃんと見られたということでしょうか。

 すっかり伯爵ファンになってしまいました。お茶目すぎます。基本的に喜劇キャラですね。教授との初対面シーンなど、すっかりミーハーな人になっちゃってるし。サラに見せる笑顔がいいです。ただ唯一、泣かせるのが「抑えがたい欲望」かな。

 伯爵の心の奥底にある、渇望の源はこれだったのかーと思います。

 毎日でも聞きたい。

 帝劇に住みこんで毎日、あの歌声を聞いていられたらなあ、などと妄想してしまいました。もう中毒ですね。CDでは絶対無理な、あの独特の空気。甘く優しく広がる声。

 このミュージカルは、人によって大きく好みが分かれているようですが、私は大好きです。一見するとB級ホラーコメディなんですが、ちゃんと深いテーマや風刺もあって、考え始めるときりがない。深く考えずに単純に楽しむもよし、徹底的に考えて解明をめざすもよし、いろんな楽しみ方があると思います。

ダンス・オブ・ヴァンパイア観劇記 その4

 7月5日ソワレ。『ダンス・オブ・ヴァンパイア』2度目の観劇に行ってきました。

 以下、ネタバレも含んでいますので、未見の方はご注意ください。

 今回はアルフレートが泉見洋平さん。サラが大塚ちひろさんでした。このお二人は、雰囲気似てますね。前回見たときの組み合わせである浦井・剱持ペアに比べて、親しみを感じさせるキャラでした。本当に、どこにでもいそうな若者カップルという感じ。

 今回の泉見さんと大塚さんを見て、初めて浦井・剱持ペアの特色に気付きました。それは、浦井・剣持ペアがどこか浮世離れした、生生しくない存在感を持つ稀有な存在であること。

 泉見さんも大塚さんも歌は声量あるし、上手だし、声もきれいだと思うんですが、あくまで「人間」という感じ。だけど浦井さん剱持さんは本当に、遠い国の、どこかのおとぎ話に出てくるようなイメージなんです。

 こういうのは好みの問題だと思いますが、私は浦井・剱持ペアが断然好きです。

 大塚さんはちょっと色っぽすぎるような感じがしました。雰囲気がいかにも女性という感じで、外界を夢見る少女の役としては大人っぽすぎるかなあ。もう十分、駆け引きを知ってるという印象を受けました。完成されているという感じ。

 剱持さんは、アルフレートと対峙したときにどこかで中性的な雰囲気を残していて、そこがとても魅力的だなあと思いました。子供の部分と、大人の部分がうまく同居しているというか。だからお城や舞踏会に憧れるのだと思います。大人の女性は、お城だの舞踏会だのよりもっと他のことに興味を持ちそう。剣持さんからは子供っぽい無邪気さや好奇心が伝わってきました。駆け引きも、大塚さんの余裕にくらべたら全然、まだ大人にはなりきれない感じです。

 それと、中性的という意味では妖精ぽいですね。生生しくないんです。お風呂のシーンも、バスタオル一枚なのでたしかにドキドキするはするんですが、その一方で心のどこかでなんだか遠い存在のように感じている自分がいます。だから、大塚さんを見るとバスタオル姿に赤面してしまうけど、剱持さんだとあんまり色っぽく感じないというか。きれいなんですけどね。それが、あんまりいやらしく感じないというのは、妖精ぽいせいだと思います。

 それとアルフレートの浦井さん。泉見さんを見た後だとよくわかるのですが、彼はほんっとに、この世にいるはずのない王子様キャラなのだと実感しました。生活感まったくなし。あんな人どこにもいない(笑)。だからこそ、剱持サラにぴったり。浦井さんは、親近感のない存在ですね。たとえば職場で、近所で、ああいう雰囲気の人がいるかといえば、絶対ありえないと思う。

 

 2度目に見て気付いたことがあります。シャガールの愛人マグダの歌ですが、演歌っぽいと思ったのは私だけ? なんでマグダはこう、演歌の匂いが漂っているんだろう。作曲者は日本の演歌に影響を受けたのだろうか。ちょっとアレンジすれば、新人女性演歌歌手が歌ってもおかしくないメロディだと思いました。曲中に、こぶしを感じましたよ。

 前回、笑い転げてまともに聴けなかった、舞踏会お誘いのシーン。今度は心の準備をしていたせいでちゃんと聴けました。なんで前回あんなに笑えたのか不思議なほど、今回は冷静に聞けてよかった。あの構図は、公式トップページの構図とかぶるのですね。仁王立ちになって見下ろす伯爵と、それを見上げるサラ。

 フィナーレ、最後に超特大伯爵顔写真が下りてくるのですが、あの写真素晴らしいです。1度目に見たときもいいなと思ったけど、改めてじっくり見たんですがあの表情最高です。顔が「俺様、大勝利!!」と言っているようで笑えました。いろんな風刺やテーマのある深い作品ですが、最後あの写真を見たら、すっきり笑って帰れます。あの表情をとらえたカメラマンのセンスに喝采です。奇跡の一枚かも。山田さんの演出に脱帽です。

 あれ、ポストカードかなにかにしてもらえないでしょうか。劇中で使うだけでは、あまりにもったいない。グッズにしてくれたら迷わず買います。そして『ダンス・オブ・ヴァンパイア』の余韻にひたります。

 最後、ダンサーの踊りも圧巻で感動ですね。手拍子の入れ方が途中で変わるので、今ひとつ盛り上がれずに今回もスタンディングオベーションできなかったのが残念です。心はスタオベしてたんですよ。オーケストラも重厚だし、ダンサーはうまいし、振り付けは面白いし、照明はきれいだし、歌は迫力あるし、伯爵には泣かされるし。これは見れば見るほどハマるミュージカルかもしれません。ゴシックでホラーでコメディで。しかも奥底には人生哲学があったり。いったいどういう舞台なんだよ、と思いました。私は『エリザベート』より『MOZART!』よりも断然この『ダンス・オブ・ヴァンパイア』が好きです。

 一番最初のオーヴァーチュアを聴くと、荘厳で背筋がぞくぞくします。運命が動き始めるときのような、重々しい響き。北の国の吹雪の冷たさも伝わってくるようで、うっとりです。その後のコメディ的要素を全く感じさせない音楽。

 

 自分で思い出して書いてるうちに、また見たくなってきました。

 そうそう、気が付いた点を一つ。それは伯爵の牙です。あれ、あまりにも大きすぎます。なるべく遠くにいる人にも見えるようにと少々大げさに作ったのだろうけど、バランスが悪いと思いました。もう少し小さくしないと滑稽だし、意図的に口を大きく開けたときに見えるくらいでちょうどいいんでは?と感じました。あまりにも牙が大きい(長い)ので、常に牙が見えるような状態で、かっこ悪いです。カーテンコールのときに、すっごく牙が目立ってました。気のせいか伯爵も、牙の付け心地が悪そうにみえたし。例えは悪いのですが、歯並びが悪くて口が閉じられない状態にも、近いような。改善してほしいなあと思いました。