2007年 レ・ミゼラブル 観劇記 2回目

 2007年6月16日(土)ソワレ。帝国劇場で『レ・ミゼラブル』を観劇しました。以下はその感想ですが、ネタバレが含まれておりますので、舞台を未見の方はご注意ください。

 以前と演出が一部変わっていたのですが、総合的に見て、私は以前のバージョンの方が好きです。いくつか、変更場面を挙げてみます。

1仮出獄許可証を手にしたバルジャンが、宿を借りようとして断られる

以前は、農場?で働いたのに、他の人より賃金が少なくて前科のある惨めさを痛感、というシーンでした。自分だったらどっちがショックだろうと考えてみました。労働賃金が少ない方が、悲惨な感じでしょうか・・・。宿よりも、その方がバルジャンの憤りを素直に実感できるような気がします。

2ニ幕が開いた直後、スモークの中に、スローモーションのように浮かび上がる若者たち。バックに穏やかな曲が流れる。

以前は無音だったのに、今回は、場にそぐわないのんびりした曲が流れています。私はなぜか、「おもちゃのチャチャチャ」をイメージしてしまいました。命を賭けた戦いのはずなのに、曲の雰囲気がまるで合っていません。ここで曲を、しかもこんなに緊迫感のない曲を使う理由がよくわからないです。

 以前のように、無音の後、スローモーションが終わると同時に曲が溢れ出る、そういう演出の方がよかったような気がします。

3ガブローシュ死の場面で、「ちび犬でも・・・」の歌ではなくなっている

いやー、ここはどうして変えてしまったのか。胸にせまる場面だと思うのに、ガブローシュの健気さが伝わらなくなってしまいました。

私は、今回の新曲を初めて聴いたときに桃太郎侍の名台詞を連想してしまいました。わかる人にはわかってもらえる感覚だと思います。

以前のように、ガブローシュが強がりを歌いながら弾を拾う演出にした方が、よかったです。ガブローシュが恐くなかったわけはありません。撃たれる恐怖を感じながら、それを吹き飛ばすように、いつものように歌っていたあの、「ちび犬でも・・・」の言葉。

 あれを変えた理由が、よくわかりません。

4革命を夢見て死んでいった若者を、女たちが悼む場面で、歌詞が変わっている

新歌詞だと、小さな頃から知っている若者を失ったショックを歌ってます。死がより身近に感じられる、人ごとではない衝撃が伝わってきて、以前よりこちらの方がいいなあと思いました。

近所に住んでいて、生まれたときから大きくなる過程をずっと見てきた、そういう若者の死は重いはずです。なぜ死ななければならなかったのか。なにを求めたのか。嘆き悲しむ人がいる一方で、

誰が泣く?と冷めた見方をする人もいて、そういう世間の縮図が見える場面です。

 気付いて気になったものだけを挙げましたが、4以外は、以前の方がいいなあと思う演出の変更でした。とくに2と3は、変わったことで感動が薄れてしまったように思います。演出家は同じジョン・ケアードさんなのに、何があったんだろう?と不思議な気持ちになりました。同じ人が演出したとは思えない、センスの相違です。

では次に、バルジャン以外の出演者の感想です。

・コゼット役 菊地美香さん

声が好きです。以前のたまきさんや河野さんよりも、私は菊地さんの声が好き。なんていうんだろう、主張してる声。個性がある声です。清楚だし、お嬢様ぽいイメージがコゼットにぴったり。バルジャンに対する愛も溢れてるし、過去を教えてと父に迫る場面もよかったです。

・エポニーヌ役 坂本真綾さん

甘いフワフワな女の子のイメージが拭えず、エポニーヌにはちょっと合わないかと思いました。普通に可愛らしくて、マリウスにも好かれそう。好きな相手に受け入れられないせつなさを表すのには、蓮っ葉なところが欲しいです。

・ファンティーヌ役 シルビアさん

落ち着きすぎてしまってる感じがしました。ファンティーヌの若さゆえの過ち感、未熟さがもっと欲しかったです。

・アンジョルラス役 坂元健児さん

やっぱりいいですねえ。バズーカ健在。これだけ気持ちよく歌い上げてくれると、すがすがしいです。頂点で歌うのがすごく似合っています。美貌のカリスマアンジョルラスとは、ちょっと違うかもしれませんが。

・テナルディエ役 駒田一さん

悪いテナルディエに見えず、いい人オーラを感じてしまいました。下水道で歌うシーン、あそこで「テナルディエが強がりながらもふと見せる、不安。自分の行動への懐疑」が見えるといいなあと思います。私は三遊亭亜郎さんの演じるテナルディエが好きでした。こすっからいというか、小物感がうまく表現されていたと思います。

・テナルディエ妻役 森公美子さん

やっぱり森さん突き抜けてるなあ、と思ったのでした。上手い役者さんはたくさんいるし、上手いひとならどんな役でもそこそここなしてしまうと思うけれど、森さんは、中でも一枚上手。森さんのテナルディエ妻は、頭一つ抜きん出ている感じ。周りの空気を読んで素早く反応してるし、見ていてすごく面白いです。

・マリウス役 泉見洋平さん

私にとって、去年演じた『ダンス・オブ・ヴァンパイア』のアルフレート役のイメージが強い役者さんなのですが、やっぱりレミゼの中でもアルフレートを見る目で見てしまいました。コゼットの家の庭で「君の名前も知らない」などと会話を交わすシーン。身づくろいしようと服をパタパタさせるマリウスのしぐさが可愛らしくて、まるでサラを追いかけるアルフだな・・などと思ったのでした。

・ジャベール役 今拓哉さん

ジャベールが持つ凄みが、足りない感じがしました。もう少し、そこに立つだけで「おおっ!」と後ずさってしまうような威圧感が欲しかったです。

 では、山口バルジャン初日の、全体の感想を書きます。

 最初、山口さんの第一声、「自由なのか~」が小さかったように感じました。それ以外にも、全体的に薄いイメージ。登場人物がそれぞれ、なんとなくぼんやり霞んでいるような。あんまり響いてくるものがなくて、舞台との距離感を感じました。物理的なものではなく、胸に響く迫力がなかったような。

 そんな中で、光っていたと感じた人を挙げてみます。菊地さん、坂元さん、森公美子さん。この3人はそれぞれ、きらきらと輝いていました。

 オーケストラの演奏は、ときどき、歌と微妙に合っていない感じがしました。呼吸を合わせるのは難しいと思いますが、これも回を重ねればどんどん良くなっていくのでしょう。

 子役のガブローシュ君。「バンザイ!」というところと、「ラマルク将軍が死んだ」という台詞をもう少し頑張って欲しかったです。あのバンザイは声が小さいのが気になりました。ラマルク将軍・・はもう少し感情をこめると、もっとよくなると思います。

 以上、久しぶりのレ・ミゼラブル観劇記でした。次に見に行くのは8月を予定しています。

2007年 レ・ミゼラブル 観劇記 1回目

 2007年6月16日(土)ソワレ。帝国劇場で『レ・ミゼラブル』を観劇しました。以下はその感想ですが、ネタバレが含まれておりますので、未見の方はご注意ください。なお、感想は、山口祐一郎さんが演じたバルジャンについてのみ書いております。その他の役については、後日あらためて書く予定です。

 およそ1年ぶりに、山口バルジャンとの再会。楽しみにしていた本日の舞台ですが、今日はバルジャンを演じる山口祐一郎さんの裏声に、心を全部持っていかれてしまったのでした。もう、その一言に尽きます。

 バルジャンが、自ら隠していた素性を明らかにする場面です。「にいよんろくごうさ~~~ん!!」と絶叫するのですが、その「さ~~~ん!」がですね、綺麗な裏声でした。瞬間、私の脳内では女学生の全国コーラスコンクールが開催されておりました。乙女の声です。

 淀みなく、澄み切ったその声が辺りの空気を清浄化しておりました。

 私はこみ上げてくる笑いを、必死で抑えて。舞台を見ずに、視線を下にさげて、なんとか落ち着こうとがんばりました。脳内のセーラー服映像は消えず。無骨なバルジャンが、清らかな乙女へと変容したその映像は、いつまでもぐるぐると頭の中を回っていて。

 そういえば、『ダンス・オブ・ヴァンパイア』を初めて見たときにも、クロロック伯爵がサラを誘惑にくる場面が覗きにしか見えず、噴出したっけ・・・などと、この場に関係のないことを思ったりして。

 完全な失敗だと、思いました。裏声で歌うはずがないと。それが裏声になってしまって、なった以上は涼しい顔で、まるでこれが当初からの予定であったかのように歌いきったのだと思いました。あまりに堂々とした歌いっぷりは、山口バルジャンのレミゼが初見であれば、失敗だと思わないレベルです。

 「ああ、やっちゃった・・・・・・」

 恥ずかしいだろうなあ。この失敗を、後後まで引きずらなければいいけど。今日終わった後、落ち込んだりするんだろうか。

 そんな心配までしてしまいました。

 ところが終演後、一緒に見ていた友人と語り合ったところ、彼女は「あれは演出だよ。そういう歌い方をするようにしたんじゃないの?」と言うのです。

 「ええええ? あそこで裏声って、ありえないでしょ。失敗して、だけどそこはプロだから、うまくカバーして、失敗に見えない完璧な裏声を聞かせてくれたんじゃないの?」

 私たちはいろいろ語り合いましたが、結局結論は出ませんでした。明日以降、裏声で歌うかどうかで、真実がわかると思います。

 あの場であの裏声。あれはハプニングであって、確信的、意図的なものとは違うのではないでしょうか。あれは、バルジャンの魂の叫びですから。きれいな響きで歌うというよりも、心の底からわきあがってくる情熱を、そのまま言葉に乗せて吐き出すのが似合うと思うのです。裏声でそれは、不可能です。

 裏声が素晴らしく活かされていたのは、「彼を帰して」の最後、「う~ち~へ~」の響きですね。これは本当に透き通ってました。信仰に篤いバルジャンが神様に対して、己の欲を捨ててひたすらに祈る。聖人にふさわしい、美しい声でした。心が洗われるような気持ちになりました。邪念がないまっすぐな声が、どこまでも光を伴って伸びていくようでした。

 このフレーズは逆に、裏声でないと観客に伝わってきません。そもそも高い音だから、地声で出すのが難しいというのはあると思いますが。仮に地声であの音が出せたとしても、あそこにはファルセットがふさわしいような気がします。あの清浄な雰囲気を出すには、裏声でなければ。

 今日の山口さんは、まだ本調子でない?感じがしました。

 初日ということもあり、慎重に探りながらやっている印象です。たくさんの役者さんと共同で作り上げる舞台ですから、周りと呼吸を合わせたり、場の雰囲気に馴染むのにはやはり、数日必要なのかなあと思いました。今でも十分質の高い舞台だと思いますが、回を重ねればもっともっと、よくなる気がします。

 

 テナルディエ夫妻に、コゼットを引き取りたいと交渉する場面。調子にのるテナルディエの額にお札を押し付けたのが笑えました。(という風に見えたのですが、なにぶん見ていたのがかなり後ろの席なので、もしかしたら見間違いもあるかもしれません)。

 テナルディエ夫妻とバルジャンの絡み、好きなんですよね。軽妙な漫才コンビみたいで。

 あそこで笑うと、なんだかほっとするのです。悲惨な時代、悲惨な暮らしの中に生きる、小悪党のたくましさを見たようで。

 テナルディエの滑稽さを、バルジャンが受けとめ、そしてやり返す。この流れが好きです。

 今まで(2003年~2006年)、私が山口バルジャンを見る上で一番好きだったシーンは、なんといっても「バルジャンの独白」でした。これを見るためにレ・ミゼラブルを見ていたといっても過言ではないほどです。改心し、生まれ変わろうとするバルジャンの心の変遷。圧倒的な歌唱力に乗って放たれるパワーには、いつも感動していました。

 ところが今日の「バルジャンの独白」は少し、迫力に欠けていたような気がします。やはり千秋楽が近付かないと、あの神がかり的な歌は聴けないのでしょうか。

 その代わり、というのも変ですが、第二幕の年老いてからの歌が凄かったです。マリウスに過去を打ち明け、コゼットを託すシーンの哀しみ、気迫。

 そして、揺れるろうそくの炎を前に、小さなコゼットを回想するバルジャンの寂しさ。

 私は泣くつもりはなかったのですが、気付くと泣いてました。ハンカチをバッグから出して手元に用意しておかなかったことを、後悔しました。

 人はいつかは死にますが、バルジャンはコゼットを育て上げ、マリウスに託したことで心の平安を得たのでしょう。死に臨んだバルジャンの、穏やかな声の響きが胸に染み入りました。

 カーテンコールで、心和んだことが一つ。山口さんが、床に落ちていたお花のかけら?を丁寧に拾い上げたのです。それは、お花が踏まれては可哀想と言う気持ちもあっただろうし、それを踏んで誰かが怪我をしてもいけないという、気遣いでもあったでしょう。

 ミニブーケは出演者が皆拾っていましたので、それはたぶん、ちゃんとしたブーケではなく、そこからこぼれ落ちた一部、だったのだと思います。

 そしたらその後、ジャベールを演じた今拓哉さんも、まるで山口さんに習うかのように、舞台上に落ちていたかけら?を拾い上げたのです。

 こういうのって、いいなあと思いました。優しさとか思いやりが伝達するのを見て、心が温まりました。

 山口さん以外の出演者、演出についての感想は、また後日書きます。 

相容れないバルジャンとジャベール

 6月に帝国劇場で上演される『レ・ミゼラブル』。山口祐一郎さんが出演する最初の日、6月16日のチケットをゲット。

 以下、レ・ミゼラブルについて語りますが、ネタバレを含みますので、舞台を未見の方はご注意ください。

 ああ、またあの山口バルジャンに会えるんだなあ。嬉しい・・・と思うのだが、ちょっぴり残念なことはジャベール。

 その日は今拓哉さんがジャベール役なのである。以前にも今ジャベールは見たことがあるが、印象が薄かった。バルジャンに対し、迫力負けしていたような。だから、対決シーンもイマイチだったのだ。ここらへんは個人の好みの問題かもしれないが、私は今ジャベールは苦手。

 以前、鈴木綜馬さんのジャベールというのもあったけど、それもあんまり好きじゃなかった。なんとなく、気高い感じなのだ。綜馬さんには皇帝の役がよく似合う気がする。

 舞台の上で、歌声には個性が現れる。綜馬さんの場合、バルジャンに食い下がる粘っこさが、あまり感じられなかった。争いごとは嫌いなイメージ。もめるようならあっさり引き下がるし、そもそもバルジャンの持つ善性はいち早く見抜いたんじゃないだろうか。昔のことは水に流してしまいそうな、それだけの知力を感じるジャベール。

 じゃあ、誰がジャベールとして適役かというと、私の好みはやはり岡幸二郎さん。なぜかというと、岡さんはたぶん、山口さんのことが嫌いだと思うから(^^;

 ジャベールって、大前提として、バルジャンが大嫌い、というのがなければいけないと思うのです。ジャベールにとって、バルジャンは宿敵。よくわからない、理解できない存在であると同時に、自分のアイデンティティや信条をぐらぐらと揺さぶる存在。

 だからこそ、バルジャンに負けたと思ったとき、彼は死ななくてはならなかったのではないかと思います。

 それだけの強い嫌悪感、そして嫌悪感を持ちながらも気になって仕方がないという存在。

 役を離れたところでも、岡さんは山口さんが苦手なのではないかという気がします。それは、以前山口バル×岡ジャベの舞台を見て、対決の歌を聴いた感想でもありますし、岡さんのブログを読んでの感想でもあります。

 もちろん、岡さんが「苦手だ」とはっきり書いているわけじゃありません。

 ただ、文章が醸し出すものってあるじゃないですか。

 人にはそれぞれ個性があって、たぶん岡さんから見た山口さんは、すごく「訳わからない人」だと思うんです。その「訳わからなさ」は、理由はともかく、形に見えるものではないけれど、たまらなく神経を逆なでするもののような。

 苛々する得体のしれなさ、みたいなものを、山口さんは持っていて、それは岡さんの繊細な神経をいちいち刺激しているような。

 そして岡さんは朗々とした素晴らしい声を持っているから、ジャベールとして山口バルジャンに向き合ったとき、その感情がうまく音に乗って、劇場の隅々にまで響き渡るのです。

 岡ジャベールは山口バルジャンを憎んでいるし、負けないし、どちらかが倒れるまで戦うという激しい闘志が垣間見える。これは、ジャベールの職務という一面を越えて、ジャベール自身、存在意義を賭けた戦いのような。

 この2人の対決シーンの迫力は、凄いです。だから今年の公演も、できれば山口バルジャン×岡ジャベールで見てみたい。そう思っています。

僕と結婚してください!

 行ってきましたレ・ミゼラブル山口バルジャンの千秋楽。一幕はいろんな想いがこみあげて、激しく消耗です。もうぐったりして、幕間はヘロヘロでした。

 一幕のあの空気は、なんなんでしょうね。バルジャンの気持ちに、自分の気持ちが重なる瞬間があるのです。だから、一幕のバルジャンを見ていると心を動かされます。今日が山口バルの最後ということで、舞台全体が熱かった。

 そして、二幕が終わり。カーテンコールの最後、舞台の上には山口さんが一人。客席全体が、固唾をのんで見守る中。山口さんは思いきりこう叫んだのです。

「僕と、結婚してくださいっっっ!」

みんな大爆笑でした。

 そのままスタスタと歩き去る姿がまた、山口さんらしかった。

 まさか山口さんからプロポーズの言葉が聞けるとは思いませんでした(^^)私はやっぱりチケット運がいいみたいです。今日の舞台が見られたことに感謝です。

 疲れきって、家にふらふらしながら帰ってきたのですが、どうしてもこの感動を書いてから寝たかったのです。最高の一日でした。 

レ・ミゼラブル観劇記 1回目

 日生劇場のレ・ミゼラブルを見に行ってきました。

 今日は舞台の神様が降りてきた日でした。大満足です。私はチケット運が相当いいみたいで、今日の席も最高でした。見やすかったし、生の音楽と声に包まれて、うっとりです。

 山口バルジャンは、最初の第一声「自由なのか~」が、ちょっと元気なかったような気がしました。いつもそこで、さすが山口さん、と思うのですけど。でも後半に向けて、どんどん調子が上がってくる感じで、終わったときには見てるこちらがもうぐったりしてました。

 エネルギーをもらえるミュージカルではあるのですが、いろいろ考えさせられる点もあり、それなりに観客としても体力を使うのです。

 今回よかったのは、岡幸二郎さんのジャベール、新妻聖子さんのエポニーヌ、局田奈都子さんのガブローシュでした。

 岡さんのジャベールは、前半山口さんとの対決で全くひけをとっていない! 見てて気持ちがよかったです。ほとばしるエネルギーが感じられました。山口さんも本気で立ち向かっていたと思います。声も艶があってすごくきれい。魅力的だなあと思いました。ジャベールはバルジャンと絡むシーンが多いので、岡さんがジャベールで本当によかった。

 あと、立ち姿もきれいですね。すらっとしていて背が高くて。山口さんが背が高いから、向かい合ったときに身長差がない方が迫力があると思います。

 局田さんのガブローシュは、子供にしか思えません。本当に大人の女性が演じているのか?と疑問に思ってしまうほど、役にはまっている。それも、懸命に虚勢をはっている雰囲気が伝わってくるので、よけい健気なんですよね。子供は子供で、人生の選択肢もあんまりなくて、でも無邪気に未来を信じている。その姿が泣かせます。

 そして新妻聖子さん。私はこの方のエポニーヌが大好きです。

 今回はいつも以上に、エポニーヌに感情移入してしまいました。「銭などないよ~」と歌うシーンが一番好き。

 マリウスに恋をして、でも報われなくて、それでも卑屈にならずにいるところがすがすがしい。コゼットの手紙をバリケードに届けるとき、マントの裾をさっと翻して舞台の奥に消えていく。あのとき、死を覚悟していたことを、背中が雄弁に物語ってます。

 恵みの雨を歌いながらマリウスの腕の中で死ぬとき、目の前には天国が見えていたんでしょうね。暖かな雨の中、安らぎに包まれた穏やかな死。エポニーヌの人生は厳しいものだったけれど、最後があんな感じだったのは救いでした。

 新妻さんの声に含まれる「強がり」と「悲しみ」のバランスが好きです。

 山口バルジャンに関しては、ラストシーンに驚きました。最後、本当に天に召されたようにみえたから。すべての苦悩から解放され、穏やかに微笑む姿が印象的でした。

 今までは豊かな声量にうっとりすることが多かったけど、今回はとにかく「囁き」にやられたという感じです。囁くような歌声(それでも十分な声量ですが)の美しいこと!もう舞台に釘付けで、動く映像と共に十分歌声を堪能しました。

 マリウスの手紙を読んだとき、声に苛立ちと嫉妬が含まれているのもよかった。あれは怒れる父親の声でしたね。

 舞台を真剣に見たので、終わったときにはもうぐったり。帰宅したらよれよれという感じでした。でもどうしても感動を文字にしておきたかったので、眠い目をこすりつつ書きました。さすがに疲れたのでもう寝ます。