ダンス・オブ・ヴァンパイア観劇記 その6

 7月9日ソワレ。帝劇で『ダンス・オブ・ヴァンパイア』を観劇してきました。これで4度目の観劇です。以下、ネタバレを含んでいますので未見の方はご注意ください。

 どうやらこれは、後からじわじわくる作品のようです。見てから一定時間たつと、また見たくなる。あの曲、そして映像が思い出されてならず、ついふらふらと劇場に向かってしまうという・・・・。

 2003年に山口祐一郎さんのファンになってから、一番好きなのはバルジャン役でしたが、(見たい聴きたい役という意味で)今日、私の中でクロロック伯爵がバルジャンを超えました。すっごく個人的な嗜好ですが、クロロック伯爵はあまりにも魅了的です。ダンスオブヴァンパイアの上演を去年からずっと楽しみにしていましたが、まさかここまではまるとは思ってもみなかった。自分が一番驚いてます。

 今日で4度目の観劇。今まではS席でしたが今日は初のB席。さすがに伯爵の表情までは見えなくて、それが少し残念。視力が8くらいあったら見えるのかな。などとくだらないことを考えつつ、それでも十分ヴァンパイア達の世界にひたってきました。

 サラ役は大塚ちひろさん、アルフレート役は浦井健治さんです。

 大塚さんは、歌うまいです。うまいんだけど、私のイメージするサラとはやっぱり違うんだなあと思いながら見てました。でも伯爵とデュエットするとき、かなり声が出てたからそこはすごいなあと。サラががんばると、それに合わせて伯爵の声量も増すので、ファンにとっては嬉しいことです。

 浦井さんは、雰囲気がすごくいいですね。歌声とか立ち姿が、アルフレートにぴったり。泉見さんと比較したときに、天然型だなあと思いました。そのまんまで、不思議な雰囲気を醸し出してる。おっとりした、浮世離れした王子様。泉見さんは努力型というイメージで、細かいお芝居だったり歌だったり、あふれるエネルギーを感じますが、浦井さんはそのまんまでアルフレートになりきっているというか。

 ヘルベルトと絡むシーンで、その違いを一番感じました。泉見さんは猛攻にガタガタとかなり大げさに震えていてそれがまた笑いを誘うのですが、浦井さんはあんまり震えてなかったように思います。二階席から見たから、それで震え方が違ってみえたのかなとも思いますが。

 ヘルベルトといえば、吉野圭吾さん最高! 『MOZART!』のシカネーダー役から注目してましたけど、この役はまってますね。他の人でやることを想像できないですもん。すべての動きが、言葉が、緻密に計算されつくしている感じ。慎重に練り上げられた妙技を感じました。

 ヘルベルトの出てくるシーンは、見逃せないです。

 アルフレートを誘惑し、2人で踊るシーンは笑ってしまいました。「パラダイス」という言葉は、台本通りなんでしょうか。若い恋人同士が「二人のため世界はあるの♪」とお花畑にいるようで、うきうきのヘルベルトとおよび腰のアルフレート。繰り広げられるラブラブムードはヘルベルトによる一方的なもの。アルフレートの意志を100パーセント無視して勝手に盛り上がるヘルベルトに爆笑しました。

 吉野さんで唯一、「ここが惜しい」と思うのは、初めて教授とアルフレートに会ったときの歌。「退屈にさよなら~」という箇所。ら~の部分が、もっともっと広がるといいなと。声がぶわーっと広がっていく感じに終わると、凄みが増して盛り上がるのではないでしょうか。ここだけ、いつも消化不良な気持ちになってしまう。もっと大きくなればいいのに。もっと、声が劇場中に広がればいいのに、と期待してしまいます。

 教授とか伯爵は観客に思いっきり聞かせるシーンがあってそのたびに満足してるから、ヘルベルトにも同じレベルで歌ってほしいなと期待してます。

 吉野さん、華がありますね。登場すると目が釘付けになってしまう。最後まで目が離せません。

 シャガール役の佐藤正宏さん。彼もはまり役だと思いました。憎めないキャラを演じさせたら天下一品。やってることは無茶苦茶なんだけど、声にも姿にも「単純です。なんにも考えてないです」的空気があふれていて、なんだか可愛らしい。

 サラを心配して風呂場の扉を封鎖してしまうシーン。「おやすみそっと」とか言いながら、夜中だというのに、客がいるというのにすごい音を立てて釘打ってるし。自分が一番睡眠の邪魔してるということに、気付いていないのが笑えます。

 サラ大事。サラを泣かせるやつは承知しないぞ・・・と思ってるのは結構ですが、その一方でマグダに夜這いする自分を疑問視しない単純さ、おもしろいです。彼の中では、両方がなんの矛盾もなく存在してるんだろうなあと思うと笑えました。

 ベジタリアンになるとか、簡単に誓ってしまう調子のよさも、「シャガールってそういう人だよな」と納得してしまいました。絶対口先だけだな、と、言った瞬間に観客全員が思ってるはず。

 教授役の市村正親さん。よくあれだけの台詞がよどみなくすらすら出てくるなあと、感心してしまう。全然つっかからないのです。同じメロディで違うバージョンの歌詞を何度も歌わなくてはならず、混同してしまわないかなと見ているこっちは思うわけですが、さすがの貫禄。

 この役も、市村さん以外では考えられないし、きっと他の人が演じたんでは違和感を感じてしまうと思う。霊廟シーンでのアルフレートとのやりとりには、いつも笑わせられます。

 歩き方、ちょっとしたしぐさも可愛らしくって、教授になりきっている感じ。市村さんてシリアスなイメージがあったけど、コメディ合ってますね。

 そしてクロロック伯爵役の山口祐一郎さんは。もうね、どうにでもしてくださいってくらい魅力的です。(笑)どの場面も、瞬きするのが惜しいくらい凝視してしまいます。歌うときには、全身が耳になって音に耳をすませてしまう。余裕たっぷりで、皮肉で、いつも鷹揚としているのに墓場のシーンの孤独感といったら! 伯爵の心の奥底に眠る激しい渇望や怒り、諦め、あますことなく表現してます。それに、昔の懐かしい記憶を呼び起こすときの優しいお顔はもう・・・・胸にぐさっときます。歌詞もいいのです。『抑えがたい欲望』この曲に関しては、訳詞完璧だと思いました。一つの詩として成立してる。

 かっこいいだけじゃなくて、面白いキャラでもあるし、哀愁も漂ってるし、見れば見るほど惹かれてしまいます。独特の間のとり方も、いいですね。「諸君、ディナーの時間だ」の声色が好きです。そうか、こういう声も出せるんだなあと妙に感心。欲望に身を任せて、邪悪な心のおもむくままに快楽を味わう。その一方で苦悩に沈む。深い設定ですね。

 そこに立っているだけでなにかを感じさせる姿。オーラがあります。背中で物語ることができるなんて、なかなかいないです。山口さんというより、クロロック伯爵のファンになってしまいました。

 ロビーに飾られた出演者達の肖像画。幕間と終演後と、微妙に違ってるんですね。こういう細かい演出、素敵だなあと思いました。天井をとびまわってるマスコット、リー君も可愛い。それに、柱に巻きつけられた巨大クロロック画。

 このセンス、大好きです。

 その点、グッズが惜しいなあと思う。トマトジュースは売ってほしかったし、伯爵の顔の巨大タペストリーとかTシャツ、販売してくれればいいのに。特にあの、伯爵の最後の顔。あれは、劇中で使うだけなんてもったいなさすぎる。売ればかならずヒットするのになあ。

 この作品は、『エリザベート』好きな人には嫌われ、『エリザベート』苦手な人には好まれるテイストじゃないかと思いました。私はこの作品、大好きです。

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