ダンス・オブ・ヴァンパイア観劇記 その7

 ダンス・オブ・ヴァンパイアを帝劇で見ました。これで計6回観劇したことになります。

 7月12日ソワレ1Fセンター後方 サラ:大塚ちひろさん アルフレート:浦井健治さん

 7月13日ソワレ1Fセンター後方 サラ:剱持たまきさん アルフレート:浦井健治さん

 以下、ネタバレも含む感想ですので、舞台を未見の方はご注意ください。

  

 2日連続で見てきました。『ダンス・オブ・ヴァンパイア』恐るべし。どんどん進化してるような気がします。後になればなるほど舞台が洗練されていく。出演者の技量が上がっている気がします。やはり、慣れてくると余裕が出るんでしょうか。

 12日に気になったことといえば、シャガール役の佐藤正宏さんの声が、少し調子悪そうに聞こえたこと。気のせいかもしれないですが、お大事になさってください。単純で憎めない佐藤さんのシャガール、好きです。「娘はもう18~♪」という歌い始めの、夢見るような、親ばかっぷり炸裂のところがいいですね。あんまり単純すぎて憎めないキャラ。奥さんのレベッカも、なんのかんの言って愛してるし。愛人のマグダも、シャガールのことはまんざらでもない様子。本当に嫌なら、もっと冷たく突っぱねるでしょう。

 13日は、今まで見た中で一番感動した回でした。

 伯爵が出てくるポイントがすでにわかっているから、ちゃんと心の準備をして、歌詞も頭の中でなぞるようにして聴いたからよけい、感動したのかなあと思います。なにせ初回のときなどは、伯爵がサラを舞踏会に誘いに来たシーンで大爆笑して、その箇所をまともに聴けなかったですから。

 私的メインイベントの歌「抑えがたい欲望」の最後、山口さんの声が少し割れたというか、震えたような気がして一瞬びっくり。あれ、大丈夫かな、どうなっちゃうの?と思いながら聴き入っていました。その後、なにごともなくふうっと声が広がって劇場を充たして、これでもかーっとばかりに勢いを増したのはさすがです。山口さんてすごい。絶対期待を裏切らないもの。

 ここは、これくらい大きく歌って欲しいな~と思うと、必ずそこまで上げてくれる。途中、あれまだ声小さいなと思うのはあくまでも途中だからであって、そのまま驚異の肺活量で歌いきる。毎回、堪能してます。あの声に満たされると、細胞が活性化するのを感じます。帝劇の席のどの位置にいたって関係ない。そこにある空気が全部、山口さんの声でいっぱいになる。素晴らしいです。

 ダンサーの踊りもいいですね。一流のバレエの公演を見ているみたいで、美しいです。サラの夢の場面も、アルフレートの悪夢の場面も、両方好き。最後の総出演のところもいいし、ダンスシーンは目を奪われます。バックに流れる激しい音楽も、心拍数を上げる効果絶大です。見ているうちにドキドキして、自分も体を動かしたくなってしまう。

 歌っていなくても、肉体の動きで感情を表現するのですよね。芸術です。見ていると、伝わってくるものがあります。こんなに本格的に踊るのを見られるなんて、おいしすぎる舞台です。歌もいいしダンスもいいし、照明も美術もセンスが最高。

 最後にバンっと登場する伯爵の「してやったり!!」顔ですが、これを考えた人は偉い。これがあることによって、作品にうまくオチがついていると思います。誰が考えたんだろう。海外の公演でもこれはやってるんだろうか。もしこれが日本独自の演出なら、日本人のセンスってすごいかも。

 暗くならなくてすむのです。最後に笑って終われるっていいことです。後味の悪いミュージカルなんて嫌。あの伯爵の顔、見ているだけで幸せになります。数秒間しか見られないのが本当に残念。お守りにしたい。東宝様、ぜひあの顔写真のグッズを販売してください。

 13日はクコールが、伯爵に軽く頭突きしてました。教授とアルフレートに紹介するシーンです。いつもはすりすり甘えてるのに、今回は激しいバージョン。でも、私はいつものすりすりの方がいいと思いました。そのときの伯爵の甘い声が好きだからです。「くぅこぉおおる」(愛い奴め)という心の中の声を秘めた声。

 13日は久しぶりに、というか私にとっては2度目の剱持サラバージョンでしたが、私はサラに関しては剱持さん派ですね。大塚さんを聴いた後で剱持さんを聴くと、違いがはっきりわかります。これは好みの問題だと思うのですが、大塚ちひろサラは小悪魔すぎるんです。意地悪とも、残酷とも感じるくらいに知恵がある。アルフレートを手玉にとりすぎ。手のひらで転がしすぎ。

 私の好みとしては、サラはあくまで無邪気な存在であってほしいんですよ。若い娘なりの残酷さは、その一歩手前の微妙な位置で踏みとどまっていてほしいという思いがあるんです。無意識にわかっていることでも、意識では気付いてほしくないというか。無邪気さが意識的にではなく、結果的に罪になるような雰囲気を望みます。その点では、剱持さんの透明感はぴったり。

 歌声も、透き通って妖精みたい。お城や伯爵、外界への憧れを夢見る女の子の幼さが、よく表れていたと思います。大塚さんは現実感を感じさせるイメージなんですよね。今、この現代にいる女の子という感じ。剱持さんは、絵本の中に存在する女の子のイメージ。

 お風呂のシーンも、剱持さんだとむやみに色っぽくなくていいです。自分の魅力に気付いているようで気付いていない、そういう微妙なラインが伝わってきます。子供時代の意識が抜けきってないのがいいのです。レディよ、もう18よと言いながら、本当にそう思ってるのかなあと思わせるような動作や口ぶり。可愛いです。

 そして伯爵。

 魅力的すぎ。観客婦女子全員の心を鷲掴みですね。あんな七色の声で歌われたら、誰が逆らえるというのでしょう。サラの心をつかむことなんてたやすいこと。サラが、アルフレートの制止にも関わらず「いいの、もう」と、お城に向かって走り出すシーンが好きです。サラの心が、完璧に奪われたのがわかる。陶酔しきった、夢見るような目、もうお城しか見えてない。若いということは、燃えやすいということです。

 

 私の好きなシーン。好きな台詞などを挙げてみます。

 ありすぎて困る・・・・。観劇記はこの先もずっと書き続けると思うので、そのときそのときでだんだん書いていこうとは思いますが、まずは思いつくものから。

 「粉々になって」これ歌ってるときの伯爵が大好き。なんて優しい目でサラを見るんだろうと思います。後方席だから表情までよく見えないのですが、もうね、声にあふれてるんです。感情が。だから容易に想像できてしまう。螺旋階段を上がってくるサラを迎える、伯爵の目。

 「お前を呼んでる」これは血を吸った後の伯爵とサラのやりとりの一部。私と同じセンスを持つ山口ファンなら、「あ、あそこの台詞」とわかってくれるでしょう。ニュアンスが、「粉々になって」と同じ。ひたすら甘く、優しく、溶けてしまいそうな声。聴いてるだけでうっとりです。

 ああそれから、壇上で吸血鬼たちを煽るシーンもいいですね。ロック調で激しく歌い上げる。「それで満足か?」衣装もかっこいい。黒地で、胸には白っぽい装飾。オールバックによく似合います。宣伝写真よりも、動いて舞台に立っている姿は数倍素敵です。

 宣伝写真で思い出しました。読売新聞に全面広告が出たのですが、写真の構成が今ひとつで残念でした。一番大きな写真は、山口さんが歌っているところの写真。なんでこれなんだろう・・・。それよりも、帝劇の柱に貼られているクロロック伯爵の画像にしたら、絶対インパクトあるのに。

 帝劇正面入り口を入った、右手の柱にその巨大ポスターはあります。柱の二面を使った状態なのですが、この伯爵の写真がものすごくかっこいい。なぜこれをもっと使わないのか不思議です。私だったら、これをメインに広告に載せますね。本当はサラに噛み付く画像でもいいんだけど、全面広告だと刺激が強すぎるかなと思うので、それは2番目の大きさで。

 耽美でゴシックでゴージャスで荘厳で、激しくてせつない舞台。それが『ダンス・オブ・ヴァンパイア』です。私はこの舞台のテイスト、大好きです。

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