ダンス・オブ・ヴァンパイア観劇記 その16

 8月1日ソワレ。帝国劇場で『ダンス・オブ・ヴァンパイア』を観劇してきました。以下、ネタバレを含む感想ですので、舞台を未見の方はご注意ください。

 本日のサラとアルフレートは、私の一番好きなコンビ。剱持たまきさんと浦井健治さんでした。二人とも気品があって、どこか浮世離れしていて、おとぎ話に出てくる登場人物みたいでした。うーん、やっぱりこのコンビは好き。情けなさでいったら泉見アルフだってかなり熱演しているのだけど、浦井さんのはまた独特の情けなさなのである。

 浦井アルフで私が見逃せないシーン。それは、アルフが棺で眠る伯爵に杭を打とうとして、どうしてもできず断念するという場面です。教授に叱責され、「情けないです。でもできない」この台詞に泣きが入ってるところがおもしろい。浦井アルフの真髄はここにあるのだ、と私は勝手に思っています。ちなみに、泉見アルフの真髄は、たぶんヘルベルトに迫られて震えるところかと。泉見アルフに関しては、教授の顔色をいつも窺って、必要以上に笑顔なところも好きですね。

 サラに血を吸われた後、自分の血をなめて「悪くないね」というシーン。泉見アルフはいきなり悪人声で言うのですが、私は浦井アルフの自然な言い方のほうが気に入っています。吸血鬼化は徐々に進行するものだと思っているので(サラもそうだったし)、あのときはまだ、人のいいアルフのままでいいんじゃないかと思います。子供がおもしろいおもちゃを手にしたときのように、無邪気な喜びを表してほしい。

 伯爵は、今日も絶好調でした。この舞台は、伯爵に限らずカンパニー全体が、日ごとに進化していると思います。7月の初めに見たときと、熱気が違う。余裕が出てきて、役者さんがそれぞれ試行錯誤しつついろんな方向性を試しているように思えます。7月の初めに見ただけの人は、ぜひ8月以降もう一度見てみることをお勧めします。その違いに、驚くのではないでしょうか。

 伯爵が「その若さが枯れてもいいのか」と歌い始めるときの悪っぷりにドキドキしてしまいました。山口さんの声はもともとすごく甘い。「時はついに訪れ」で始まるのが、いつもの甘く優しい歌声だとしたら、この誘惑シーンはまさに「邪悪」という感じ。こういう歌い方する山口さんは新鮮です。サラをまっすぐに見据える姿も迫力だし、ガンガン押したかと思うと「教え込まれただろう」というところでは、フイっと追及の手を緩める。押しと引きのテクニックを駆使して、これでもかとばかりに歌い上げる。

 「抑えがたい欲望」では今回、私はかなり贅沢なことを試みてみました。途中、目をつぶって聞くというチャレンジです! 普段は伯爵の動きの一つ一つを見逃すまいと凝視しているのですが、たまには変わったことをしてみようかとしばし目を閉じました。

 視覚が遮断されるとそれだけ音に対する集中力が増すので、堪能しました。でも10秒ともたなかった。牧師の娘に会ったのくだりで伯爵の声があまりにも喜びに満ちて、顔を輝かせるその映像が脳裏いっぱいに広がったからです。実際には、座っているのはB席だったし肉眼なので、舞台上の細かい表情など目を開けたところで見えるはずもないのですが。でも、思わず目を開けずにはいられませんでした。

 ダンス・オブ・ヴァンパイアに通い始めた最初の頃は、「輝く髪の娘」が伯爵にとって一番なのかと思っていましたが、この頃の歌を聴く限り、「牧師の娘」に寄せる愛情も相当深かったのかなあという気がしてなりません。牧師の娘のことを思い出したときの、伯爵の嬉しそうな声。思い出だけで、こんな幸福な気分にさせるなんて。白い肌に赤い血のイメージがまた、扇情的で、印象深いです。

 

 鐘の音と共に去っていく伯爵の後ろ姿。大好きなのですが、今日はマントをバサっと動かすしぐさが見えました。こういう激しい動きは以前はなかったような気がするのですが、私が気がつかなかっただけでしょうか。それも、今日は2回くらいバサっとしていたような。

 ここは静かに立ち去る方が荘厳な感じでいいなあと思いました。もしくは、バサっとやるのなら一度だけ。過去の甘い感傷を自ら断ち切る意志を示す表現として、なら効果的だと思います。

 せっかくマント姿なのだから、それを翻すかっこいい姿を見たいなあという気持ちはあるのですが、場面を選ばないともったいないです。

 墓場のシーンは、歌う伯爵の横で、たぶん新上裕也さんが踊っています。視界の隅にその姿を見て、「見たい」と思うのですが、どうしても伯爵から目が離せなくて残念です。なぜあのシーンにダンスを入れたのか、その点は謎ですね。たしかに伯爵は動きも少ないし、それをかばう意味でダンスシーンを入れたんだろうけど。観客の目はどうしても伯爵にいってしまうだろうし、せっかくの新上さんのダンスがもったいなさすぎる。伯爵の動き、そして歌だけで、あの場面は十分だろうと思うのです。いろんなものを詰め込みすぎるとかえって、駄目になってしまう気がします。

 8月からはなにかが変わる、ということで、公式HPのリー君の言葉にわくわくしていたのですが。結局変わったのは、カーテンコール時に二階席にも煽り部隊が登場・・・・でした。これはちょっと、あんまりいい企画とは言えないかも(^^; 二階席に煽る人って必要かなあ。私はいらないと思います。

 たしかに二階は、一階以上に舞台との距離を感じる席ではありますが、カーテンコールはそれなりに盛り上がってますよ。まあ、7月の最初の頃は、たとえ一階席がオールスタンディングでも二階は誰も立たない状態が続きましたが。

 今は違います。二階もみんな、立ち上がってます。それは、伯爵がクイックイとスタンディングを煽る手つきをしているから。私が山口ファンだからなのかもしれませんが、あれをきっかけに立ち上がる人が多いような気がします。やはりみんな日本人だから「立っていいよ」という指示がないと、立ち上がるきっかけがつかめない人が多かったんじゃないでしょうか。自分から率先して、というのはなかなか勇気がいります。立ちたいけど、変なタイミングだと後ろの人に悪いなあとか、思ってしまう。。誰かが立てば、その後ろの人は視界が遮られてしまうから。

 伯爵自ら、「ほら、立って。立って♪」とやってくれると安心して立てるのです。

 二階に煽り部隊登場は、意味がないと感じました。十分熱いんだから、そこまでしなくてもいいと思う。一階と温度差があったって、それはそれでいいじゃないですか。わざわざ二階にやってくる部隊の人たちも、なんだか気の毒に感じてしまいました。

 カーテンコールで煽る伯爵を見るのは、ひそかな楽しみだったりします。カーテンコールの伯爵は、手拍子も含め微妙にレトロな感じで、それがたまらなく愛おしいです。

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