ダンス・オブ・ヴァンパイア観劇記 その22

 昨日の続きです。『ダンス・オブ・ヴァンパイア』の観劇記ですが、ネタバレを含んでいますので、舞台を未見の方はご注意ください。

 教授の「死ぬほど安全だ」の後にいきなり登場する伯爵コウモリ。私はこの歌い方がとても気に入っています。教授やアルフの無力さをおちょくる余裕、自分や息子を抹殺しようとした怒り、そういうものが混ざってとても艶のある歌い方だと思うから。

 サラ入浴シーン乱入時と同じ、クレーンを使った空からの登場なのですが、ここはコメディという感じがしないんですよね。むしろ、伯爵の凄みを感じるのです。

 言葉の一つ一つが圧倒的な力で、教授チームとの力の差を見せ付けるような歌い方をしている。おのれこしゃくな、この私を杭ごときで葬り去ろうとは・・・的な怒りがにじみでていて。でもそれは伯爵のプライドというか美学のために、表面上は貴族的な、慇懃無礼な態度になっていて、そこがゾクゾクするのです。これで歌の下手な人だったらつまらないシーンだろうけど、山口伯爵が歌うからこそ、伯爵の底知れないパワーが感じられて面白い。

 これからどうなるのだろうか。この人はどんなふうに教授やアルフを追いつめるのだろうか。観客はワクワクしながら対決の行方を見守るのです。

 「抑えがたい欲望」は、いつも以上に語っている感がありました。歌というよりも、語りに音楽が付いてきたというイメージです。歌うというよりも、台詞をしゃべっているような印象を受けました。そして、予言をし、歌い上げた後、全身で「どうだ!!」訴えかけているのがとにかく力強くて。もう迷わないと決めた人間の覚悟を見た思いです。

 ところで、二幕最初の吸血鬼肖像画シーン、墓場、舞踏会などに、東京ディズニーランドのホーンテッドマンションを連想してしまったのは私だけでしょうか? ホーンテッドマンションの雰囲気、私は大好きです。ディズニーランドに行ったのはもう何年も前のことなのでそんなに詳しくは覚えていないのですが、洋館好きな私の好みにぴったりマッチしてました。

 特に、ホーンテッドマンションの中で、亡霊たちがダンスを踊っているというのがとても物悲しくて印象に残っているのです。もう体はこの世に存在しないのに、それでも魂だけが毎夜毎夜、踊り続けるというのが、とても哀しい話だと思いました。

 今回の美術担当の方は、やはり頭の隅でこのホーンテッドマンションを意識されていたんでしょうか。

 中でも、私が好きなのは肖像画です。たくさんの肖像画が並んでいるのをみると、一瞬意識が別世界に飛ぶというか、その一枚一枚の背景を思ってしまうのです。吸血鬼として永遠の命を生きるまでのその人の人生。赤ん坊だった頃には、どれだけ多くの人が可愛がってくれたんだろうかとか。大人になるまでには、いろんな毎日があったんだろうなとか。

 肖像画が並んでいるのをみると、人生の重みに圧倒されます。一人の人生だって振り返れば本当にいろんなことがあっただろうに、それが何人も何人も積み重なるとよけいに。

 伯爵が城の吸血鬼達を煽る、電飾の階段シーンはエレクトリカルパレードですね。初めてディズニーランドでエレクトリカルパレードを見たときの感動が蘇りました。夢の国というか、別世界にいる気持ちになります。その夢のような舞台の壇上で、独特のリズムで体を揺らしながら吸血鬼達を扇動する伯爵の姿。いつ見ても心を打たれます。もう、転がりだしたボールは止められない。伯爵は人の血を吸い、欲望のままに生き続ける。その伯爵の覚悟が伝わってくる。もう神様など信じない。もう神様には頼らない。欲望こそが最後の神になる。そう言い切った伯爵だからこそ、迷いがない。

 フィナーレ。踊っているときに一番目立つのは吉野圭吾ヘルベルト。華があるって、こういうことを言うんでしょうか。すごく目立つ。前にいるからではありません。多分舞台上のどこにいても、吉野さんは目立つ。つい視線が吉野さんに吸い寄せられてしまう。

 

 劇中、ダンスで目立つといえば、ミニスカでブーツの女性吸血鬼も動きがきれいで、いつも目を奪われてます。「悪夢」のシーンもそうだし、教授たちが城を訪れる直前のシーンのソロも、楽しみにしてます。あの方はなんて名前の人なんでしょう。「悪夢」ではブリッジ状態でベッドの下から這い出してくるのでびっくりしました。細い体だけど、全身に筋肉がしっかりついてるのですね。あれはなかなかできるものじゃありません。私もつい家で、ブリッジのまま移動にチャレンジして挫折しました。相当筋力がないと無理です。よたよたしてるところを見せず、百パーセント成功させないといけないのだからプロだなあと思いました。

 「悪夢」では新上裕也さんにも注目してます。伯爵の化身として踊るのですが、とにかく全身に神経がゆきわたっている感じで、見ごたえのあるダンスだなあと思います。指先をカクカクさせるのは非人間的な動きで伯爵の怖さを感じさせるし、アルフとの対決、サラとの絡み、どれを見てもワクワクする踊りです。長い足をぐるっと回転させるシーンでは、いつもその長さに感動します。もともとの体型というのも、ダンスには必要なのだなあと。足の長さは、後からどう努力しても伸びないですから。その天性の体型に鍛錬した肉体。無駄な肉が全然ついてない。少しでもあれば、それはもう客席からまる見えです。

 どこからどう見ても、贅肉がない。ダンサーでプロなのだから当たり前といえばその通りなんですが、でもすごいと思いました。ただ痩せてるだけでも駄目だし。きっちり、美しい筋肉をつけて見せることに徹する。プロの技を見せてもらいました。

 カーテンコールの伯爵。本当に嬉しそうでした。補助席も全部埋まってたし、観客の熱狂が広い帝劇を一つにまとめていて。「さあ、立って」という伯爵の合図で、オールスタンディング。私、ちらりと後ろを振り返ったら、二階席を含め客席のほぼ全員が立ち上がって手拍子している姿が見えて、圧巻でした。これは舞台上の出演者から見たら、壮観だと思う。誰も立たずに終わっていた回も以前はあったのだから。

 伯爵をはじめ、本当に一人一人がヴァンパイアとして力を尽くした結果だなあと思いました。全員ががんばったから、この作品がどんどん命を吹き込まれていったんだと思う。こういうのは、表面的なことではありません。うわべだけなら、そういう空気には観客は敏感だし、シビア。立たない人は立ちません。

 でもこれだけ多くの人が立ち上がり、券も完売で補助席も全部売れて、みんなが最後には嬉しそうな顔をして手拍子している。こんなに一体感が味わえる作品は、なかなかないと思います。

 今日のソワレの出来はよかったのでしょう。それは伯爵の笑顔にも表れてました。今日は穏やかというより、ギラギラした笑顔。パワーがあるというか、聖者でない笑顔です。

 最後、教授のかざした十字架を前に、伯爵が派手にぶっ倒れた瞬間、キャストからも歓声というか笑い声がおきていて、それがすごくカンパニーの仲のよさを感じさせて、好感が持てました。お互いに認め合っているカンパニーなのですね。そしてあの倒れる勢いのすごさ、よほど、山口さんはノリノリだったと思われます。腰と頭は大丈夫だったかしら(^^;

 こういう舞台は、いったん裏にまわると嫉妬や足のひっぱりあいがあると聞きますが、今日のこの一瞬のエピソードで、カンパニーの仲の良さがわかって嬉しかったです。だから作品がよいものに仕上がったのだと思います。

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