お正月は地上波であんまり見たい番組がないので、主にアニマルプラネットだとかFOXテレビ、それからディスカバリーチャンネルばかり見ていた。
唯一楽しみにしていたのが、この『雪之丞変化』だったりする。
タッキーが女形ということで、きっと似合うんだろうなあとワクワク。以下、ドラマの感想ですが、ネタバレ含みますので未見の方はご注意ください。
タッキーの女形姿が、思っていたほどぐっとこなかった(^^; タッキーって意外に男っぽいんだなあと。むしろ、普段の雪之丞の姿の方が綺麗だったり。
あと、雪之丞としてはもう少し凄みがほしかったなあと思った。
私、栗本薫さんが書いた小説『吸血鬼』や『地獄島』に登場する夢之丞に、今回のタッキーを重ねて見ていた部分がありまして。
普段は優しい顔しか見せない人が、一人のときに見せるぞっとするほど暗い目とか、瞳の奥に宿る激しい炎だとか、そういうのがあればなーと思いました。栗本さんの小説だと、「外面如菩薩内面如夜叉」って言葉が頻繁に出てきます。
私はそんな一人の役者の姿を見たかったなあと。
それにしても、雪之丞の両親は2人とも親失格ですね。
そもそも子供の目前で死ぬってひどすぎる。しかも恨みを子供に託すなんて・・・。目に見えない鎖で子供を縛り付けて、その人生を自分の復讐のために使うなんて、ひどすぎると思いました。
母親もそうです。
たとえなにがあったとしても、自害してなんになるのでしょう。子供が一人残されて、幸せになれるというのでしょうか?
恥だろうがなんだろうが、子供のために生きるのが親だろうにと思いました。
それと浪路。いかにもいいとこのお嬢さんらしい清純さのある女優さんで、それはよかったんですけど脚本が・・・。
私は原作を読んでいないので、これは原作通りなのかどうかわかりませんが、全く浪路に共感できなくてしらけてしまった。
浪路がわがまますぎて。浪路が不幸になっても同情できなかったのです。
雪之丞が自分を利用していたことを知って憤るところまではいいとして、その後に、ただ相手が憎いとしか思えないのは、どんな甘ちゃんのお嬢さんだよと。
雪之丞が復讐するまでの道のりを思えば、自分の父親を恥ずかしく思うのが自然の流れではないですかね。父親がなにをやってきたか、そしてそのおかげで贅沢ができた自分を、振り返ることはないんだろうか。
もちろん、そういう父の元に生まれたということに関して、浪路にはなんの罪もありませんが。
もし私が浪路なら、怒りの後にはそれ以外の感情がわいたと思うのです。やっぱり雪之丞が好きだから。その気持ちには変わりはないわけで。雪之丞が自分を好きかどうか、そんなことは関係なしに相手を愛しく思うから。
復讐のために鬼になった相手が、可哀想で。のほほんと生きてきた自分を恥じるでしょう。
それに、浪路は父親のことも上様のことも、軽んじていたでしょう? 父に対しては、自分が失踪したらどんなに心配するか、大奥への手前、立場をなくすだろうなんてことも全く思い至らない様子で。そのことに対する申し訳なさが全く感じられなくて。
上様は・・・。浪路はお手つきになることで、特権を手にしていたと思うんですけどね。そういういいとこだけもらっておいて、「だってあの人嫌なんだも~ん」的な軽さがどうにも。
「私の死に様を覚えておきなさい」的なことを言って、雪之丞の目前で自殺する浪路ですが、最後まで自分のことしか考えてないんだなあって、あまり同情する気持ちになれませんでした。
雪之丞が、好きで愛を謀ったわけではないのに。
雪之丞には暗い過去があり、それに自分の父親が関わっていた。
そして雪之丞は決して、「バカめ、ひっかかったなー。やーいやーい」と喜んでいるわけではないのに。
愛した相手の苦悩を、どうしてわからないんだろう。それがわからないのは、雪之丞の表向きの美しさしか愛してないから?
そもそも、最初に愛を誓わせて、無理やり紙に署名させる行為があざとい感じで、嫌だなあと。
言質をとるってことですよね。
私ならこう演出したと思います。
雪之丞の真の目的を知った浪路は、最初は怒りで取り乱しますがすぐに、思い返すのです。幼い日からの豪奢な生活のこと。その影で、泣いていた親子がいたこと。しかし父は、自分にとっては優しい血のつながった真の親。その人を憎めるはずなどなく。
雪之丞への恋心は、自分でもどうしようもできないほど燃え上がって、心は千千に乱れます。
怒りを通り越して、静かな決意を秘めた浪路は、まっすぐに雪之丞に向き合って。父の所業を謝罪し、しかし私にとっては大切な肉親で、憎みきることはできないと心情を吐露します。
あなたが私を利用したことはよくわかりました。しかし、私があなたを好きになった気持ちには、何の嘘もありません。
ごめんなさい。どうか、私を殺すことで、復讐を遂げてください。私にできることはこれくらいしかありません。
浪路がその後で自害したら、私はドラマを見ていて泣いてしまっただろうなあ。こういう設定は泣けます。板ばさみになってしまうせつなさ。
悪人でも、父は父。そして雪之丞に寄せる大きな愛。
もし脚本がこうなっていたら、浪路役の戸田恵梨香さん、この辺りの微妙なところを上手く演じてくれたんじゃないかと思います。しかしここまで設定を変えてしまうと、もはや『雪之丞変化』じゃなくなってるかしら(^^;
ドラマを見ていてハマリ役だったのが雪之丞の師匠役の市川左團次さん。なんだろうこの、大物オーラは。酸いも甘いも噛み分けた感じが素敵です。訳ありの雪之丞を引き取って育てただけはあるなあと。厳しくも暖かくって、こういう感じなんだろうなあと、納得の配役でした。