屋上へ続く外階段

 水曜日の会社帰り。雨が降っていたが、私は歩きたくなって、電車には乗らずにそのまま家の方向へと向かった。

 ひたすら歩く。

 雨が降ると、空気中の淀んだ物質が綺麗に洗い流されるようで、湿った空気が心地いい。

 初めて通る道ばかりを選んで、ふと右手を見るとそこには。

 どーんと、存在感のある大きな建物が静かに佇んでいた。雨が洗い流す外壁には、一面にツタが絡まっていて、年月を感じさせる。工場か、体育館? 広い敷地をみれば、個人の持ち物とも思えないけれど。

 あたりは真っ暗。等間隔に並んだ街灯の光だけを頼りに、しばらく私は呆然とその建物を見上げていた。なぜか、心を打つ風景だったから。

 人の気配がない。

 もう使われていないのだろうか。それとも、夜だから静まり返っているだけなのか。外壁に、ほんのお飾りのようにちょこんとつけられた、ちゃちな外階段。それを昇れば、屋上に上がれるんだろう。

 高所恐怖症の私だが、思わず、その階段を上がる自分の姿を想像してしまった。屋上には、どんな光景が広がっているんだろうか。果たしてこの、誰からも打ち捨てられたような建物の屋上に、誰かが上ることなどあるんだろうか。外階段の鉄は、遠目にも、錆びて危うく見えた。

 しんと、埃臭い建物の内部に、もしもたった一人、立ち尽くしたら・・・。そんなことを考えると、不思議な気持ちになる。

 今度明るいときに、もう一度この場所に来てみよう。そう思った。

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