以下の文章には、『レベッカ』のネタバレにつながるものもありますので、未見の方はご注意ください。
もうすぐ舞台『レベッカ』の初日である。なんだかドキドキする。どんな作品になるんだろう。Top Stageを読んだら、山口さんは「とにかく近いから」と強調していた。そうか、舞台と客席はそんなにも近いんだ。私のイメージとしては、『そして誰もいなくなった』のときの、ル テアトル銀座だったんだけど。そのときよりもっと近いんだなあ。
新しい劇場。シアタークリエを見るのも楽しみなのである。
初日のチケットはとれなかったので、私が見に行くのはもう少し先のことなのだけれど。
ところで、今日はもし私が小説の「わたし」だったら、なんてことをぼんやり考えていた。
絶対、ミステリーにならないなと思った。まず、一緒にドライブ行かないし(^^; 誘われても、断ってるであろう。自分とは住む世界が違うって、最初の出会いのときから実感しているだろうな。それに、ヴァン・ホッパー夫人が恐いから。
ただ話しているところを見られただけでも、ヴァン・ホッパー夫人はきっと不快になるだろうから。最初からそんな危険は冒さない。たぶん不自然で失礼なほど、私はマキシムには近付かないと思う。でも、遠くからそっと見てるかも。柱の影から。(家政婦は見た、みたいに・・・)
きっと「わたし」にとっての毎日はとても変わりばえのしないもので。ヴァン・ホッパー夫人が出すぎた真似を許さないだろうから、「わたし」の交友関係は限られたものどころか、ほとんどないはず。だからこそ、マキシムは新鮮で、気になる存在になるはずで。
それにヴァン・ホッパー夫人の、マキシムに対する畏敬の念みたいなものを感じるから。ゴシップの種にしても、どこか敬意を持って話してるように思えるのよね。あのヴァン・ホッパー夫人がそんな風に話すなんて、どんな人なんだろうって。きっとそういう意味でも、私が「わたし」だったら興味を持つだろう。
しかし、もし私が「わたし」だったら、物語は始まる前に終わってしまう。ドライブ行かないしね。それに、アメリカに急に旅立つことになっても、心残りはあるだろうけどマキシムの部屋に行く勇気はない。
たとえがんばって部屋へ行ったとしても、今日出発すると告げた後、マキシムの顔を見る自信がない。「それで?」と言われてしまったら立ち直れないだろうから、たぶん、答えを待つまでもなく、「それじゃお元気でっっっ!!!」と一方的に叫んで全力疾走で部屋に戻るね。顔すら見ないで。そのとき、たとえマキシムがなにか言いかけたとしても、きっと聞かない。聞こえない振りして、そのまま走り去るはず。
そして、一生あれこれと思い続けるだろうと思う。マキシムと亡くなった夫人の、ロマンチックな空想。いつかマキシムが再婚したと風の便りに聞いたら、「やっと愛する人を失った傷が癒えたんだろうか」なんて頓珍漢なことを思っているだろう。
舞台『レベッカ』は 竜 真知子 さんが翻訳と訳詞 をされているから、期待大なのだ。なんといっても、あの『ダンス・オブ・ヴァンパイア』の訳詞をされた方ですから。「抑えがたい欲望」については、さんざん過去のブログに書いたので、もうなにも言いますまい。こういう言葉のセンスって、一貫してると思うので、今回もきっと素敵な歌詞になっているはず。
演出は山田和也さんです。あの『ダンス・オブ・ヴァンパイア』を見てから、尊敬してます。ワクワクして待ってます。山田さんのセンスが好き。演出にも人の好みって分かれると思うんですが、『ダンス・オブ・ヴァンパイア』の演出センスは秀逸でした。私の心に直球で響きましたよ。
山田さんのいいなあと思うところはもう1つあって、一度細かく作り上げた後は、役者の盛り上がりに任せるという姿勢がまた、好きなんです。信頼なくしてはできない。
この信頼っていうのも、微妙な線で。任せすぎても、全体としてバラバラになる危険があるだろうし、かといって、ガチガチに固めたら面白くない。
その日の空気、掛け合いによって生まれる新鮮な「なにか」を、殺してしまう演出でないところが好きなのです。大枠を作り上げた後では、役者にすべてを任せるっていう姿勢がみえて、そこが太っ腹だなあと。自分に自信があり、そしてキャストに信頼を置いていなければ、できないことですよね。
私は、山口さんは繊細な人だと思っているので。それでいて、ひどく理性的。舞台の上でむやみに暴走することなんてないし、いつも冷静で、たとえ激情にかられても、それを俯瞰しているもう一人の自分を持っている人だと思っているので。
その山口マキシムがなにかを感じたなら、あますことなく観客にそれを伝えて欲しいと思うのです。余計なものや、マキシムでないものを、出すような山口さんではないから。
演出の山田さんは、そういう山口さんをよく、理解している方のような気がします。
たくさんの才能が織り成す『レベッカ』は、どんな作品になるのでしょう。もうすぐです。