映画『探偵物語』の感想

映画『探偵物語』を久しぶりに見ました。以下感想を書いていますが、ネタバレしていますので未見の方はご注意ください。

この映画、大学受験でしばらく芸能活動を休止していた薬師丸ひろ子さんの、復帰第一作ということで話題になりましたね。同時上映が「時をかける少女」でしたが、この二作品は対象年齢が違いすぎたと、今さらながら思います。

「時をかける少女」は小学生にもお勧めできる作品ですが、この「探偵物語」は大人向き。

昔見たときには、なんだかよくわからず、あまりいい印象がありませんでした。覚えてるのは、ラブホテルの殺害シーン、女性の裸だったり、松田優作さんの恐い印象だったり。

そしてあの、エンディングの長い長いキスシーン。かなりドキドキしたのを覚えています。優作さんが恐かった(^^; ひろ子ちゃんを食べちゃうんじゃないかというくらいの勢いだったので。

そしてあらためて、今この映画を見まして。

大人になってみると、印象が違うな~と思いました。

薬師丸ひろ子ちゃん演じる女子大生、新井直美が、松田優作さん演じる探偵、辻山と一緒に、殺人事件の解明に挑む、というあらすじなのですけれど。

登場人物に味があって面白いです。

最初から最後まで、直美の父親は登場せず。広いお屋敷で長谷沼さん(岸田今日子さん)と二人きりの描写は、直美の孤独感をうまく表現していたと思います。

家が無駄に広い、というね。

快く思っていない長谷沼さんと二人きりって、実質あの家に一人で住んでいるようなもので、直美が誰かを(恋人を)求める気持ちはよくわかりました。

そしてその恋人候補が、大学の先輩で永井(北詰友樹さん)であることも、必然だった。

これがまた軽くてダメな人なんだよね。ダメなんだけど、でも直美が憧れる気持ちがよくわかる。遊んでてカッコよくて、女扱いに慣れてる感じ。

直美がどこかで、傷ついてもいいって思ってるのが伝わってきたなあ。

一週間後には、彼女はアメリカへ行っちゃうわけで、なにか思い出がほしかったんだろう。暖かくて、それを思い出すだけで、「自分にだって素敵な思い出がある」なんて夢をみられるような。

辻山が、「直美の叔父です」と言って、永井をホテルから追い出すシーンは笑ってしまった。

そりゃ、永井もゴタゴタはごめんだと逃げ出すはずです。

辻山には、永井の気持ちなんか、手に取るようにわかっただろうし。仕事(直美のボディーガード)ということ以前に、直美を哀れむ気持ちもあったと思う。目の前の偽りの幸せに手を伸ばしても、どうせ、後で泣くのは目に見えてたから。

この映画で光っていたのは、辻山の前妻役の幸子(秋川リサさん)。

秋川さん、いい味出してました~。辻山とお似合いだったです。どうしようもなく弱い人間で、ずるくて、だけど憎めない。幸子は一人で暮らせない人間なんだろうと思いました。とにかく誰かが傍にいてくれないと、一日だって過ぎていかない人なんでしょう。

辻山とも、憎みあって別れたわけじゃないっぽい。

だから、関わりを持ち続けようとする。なにかあれば頼ろうとする。

それって、辻山にとっては、すごく迷惑なことなんですけどね。もう関係ないのに。困ったときだけ巻き込むってどういうことだよ、という。

だけど、完全にそれを突っぱねることのできない優しさが、辻山の魅力で。

幸子と辻山、ある意味お似合いでした。

でもこの二人は、長く一緒にいちゃいけませんね。

どちらのためにもならないと思う。

その点、最後にきっぱり別れを告げた辻山は、さすがでした。

いつもヨレヨレのスーツ着てる辻山ですが、なんだかカッコイイのです。なんでだろう。背が高いからかな? 直美との身長差がすごかった。

できればあまり部屋に入れたくない辻山と、強引にでも入ってしまいたい直美との、心理戦が面白かったです。

事件が解決した後、ちゃぶ台でお茶を淹れる辻山の姿が、妙にアンバランスで。

すっきり片付いた畳の部屋。お互いに落ち着かなくて。

直美が告白しようとした瞬間、そうさせまいと口をはさんだ辻山の優しさにじ~んとしました。

それを言っちゃあおしまいよってことですよね。言わせまいとした辻山の気持ちが、なんとなくわかります。だって、言われたって、受けとめることなんてできないから。

直美のことを大切に思うからこそ、その気持ちを十分理解した上で、言わせまいとしたんですね。言わなければ、直美が傷つかずにすむから。

しかし直美本人は、もうヤケクソとばかりに、帰り際に言い捨てて出て行ってしまいましたけど。若さは無敵ですなあ。周りをみる余裕がないというか、とにかく言わずにはいられなかった。胸にある気持ちを吐き出さずにはいられなかったということで。

そしてあの有名な、空港でのキスシーン。

昔見たときには、あまりに生生しくて、激しくてドン引きだったんですけど。今回あらためて見て、辻山の優しさがよくあらわれたシーンなのだ、ということに気付きました。

はじめ、彼は本当におずおず、と怖れるように手を重ねてるし。

最後、がばっと抱きしめてるところがいいなあって。すごく大切なものを、全身全霊で抱きしめてるって感じで。小柄な直美が、身動きできないくらいに抱きすくめられてる姿に、愛情を感じました。あのハグには、辻山の気持ちのすべてがこもっていたんだと思います。

辻山だって、直美のこと好きになってたはず。だけど、彼に抱きついたままの直美の腕を、外したのは彼のほうでした。

そして最後に、軽い小鳥キス。そのとき直美が、すがるような目で辻山を見るのがせつなかったです。「行くな」って言ってほしかったんだろうなあ。「待ってる」っていう言葉でもよかったはず。でも辻山は一切視線を逸らさずに、目だけで別れを告げた。

言葉がなくても、わかりあっちゃう空気がなんとも言えませんでした。

今さらなにも請うこともしない、直美の姿もよかった。

そしてずーっと、ずーっと見送っている辻山の姿に誠意を感じましたね。目をそらさないで、最後まで見ててあげる、見送ってあげるっていう。だってそれが最後だから。もう会うことはないから。どんなに寂しくても、背中を向けたりしなかった。

これ、主題歌がまたいいんですよね。

透明感のあるひろ子ちゃんの歌声が、胸に響くエンディングでした。

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