月の光が差し込む家

 週末は某祭を見に行っていたのですが、泊まったホテルの向かいにある、マンション最上階の部屋が不思議でした。窓から、木が顔を出していたから。

 どういう構造になってるんだろうか。窓開けっ放し?天窓というか、斜めになった窓から70センチくらい、木が飛び出しているのだ。

 そこのマンション、最上階だけはワンフロア、1世帯という贅沢な作りっぽくて。とにかく窓が多い。天気のいい日にはさぞかし、光があふれるんだろうなあと想像できる。

 ホテル側に向いた壁は、ほとんど窓。それも変わった形で、大きな一枚の窓は、カマボコ型。そこに、縦横の格子が入っている。

 屋根も、ほとんどが窓。これは一般のおうちなのだろうか。それとも、別荘?

 そこは13階で、他の階の部屋は洗濯ものが見えたり、生活感があるのだけれど。

 この13階だけは他の階と作りが全然違うし、ベランダにも何も物が置かれていない。夜になっても、明かりがつかないところを見ると、誰も住んでいないのか。祭前夜というのに、ひっそり静まり返ってる。それとも、私が見た夜はたまたま、留守にしていたのか。

 マンションの窓はすべて、マジックミラー。目の前にホテルがあるからこその、配慮だろう。落ち着かないものね。マジックミラーだけに、外から中の様子は全然わからず、余計に興味がそそられました。

 中、どうなってるのかな。どんなインテリアで統一されてるんだろう。室内であれだけ大きな木を育てるなんて、どういう人が住んでいるんだろうか。

 植物を育てるなら、ベランダの方が自然なのになあ。あえて室内で育ててるのか。

 最初は小さな鉢の、観葉植物で。それがどんどん大きくなって。大きな鉢に植え替えて、それがもっともっと成長していって。

 天井よりもっと背が伸びたから、あの窓を開けたのか。頭がつっかえないように。でも雨の日は、どうするんだろう。

 窓から顔をのぞかせた木は、最初戸惑ったかもしれない。ずっと室内育ちで、外の風を知らなかったら。でもすぐに、強い太陽の光や、風の心地よさに慣れて、もっと外に出たいと背伸びしたんだろうな。

 ベランダになにも置かれていないから、生活感はなくて。

 外からわかるのは、最上階だけの変わった構造と、窓の多さ。最上階だけはこれ、特別に設計してありそう。

 想像だけど、大きなリビングは意外と、ガランとしてそうだなあ。濃い色の床には、テーブルもなにもなくて。月が明るい晩には、天井の窓一面から、青い光が静かに差し込んで。

 それで、そこに住む人は大の字になって寝転がって、月を眺めるとか。

 いいなあ。きっとすごく静かな家なんだろうな。物音は聞こえなくて、視線の先にはただ夜空と月があって。床の固さと冷たさが、肌に心地いいんだろうな。

 あんまり不思議な家で、中の様子を見てみたいと、思ってしまいました。本当に、どんな人が住んでいるんだろう。ホテルからの眺めは夜景もきれいだったけど、それよりなにより、マンションの不思議な光景が忘れられません。

 たしか、大和和紀さんの『眠らない街から』という漫画だったと思うのですが、一晩中月下美人が咲きつづけるのを見てた、というシーンがありまして。その幻想的な光景に憧れました。部屋の中が、温室みたいに植物であふれてた。その光景と重なりました。あの漫画の部屋が現実にあるとしたら、こんな感じなのかなあと。

 そうそう、高校時代いつも、自転車で通りかかる道沿いにあったビルもそうだ。あの漫画のイメージに近かったっけ。2階にサンルームがあって、外から室内の植物がよく見えた。どれだけたくさんの鉢植えを育ててるのか、通りかかるたびについ、見上げてしまった。

 家には住む人の個性がにじみでています。気になる家を見ると、想像がふくらむのです。

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