先週、夏休みの旅行で、展望風呂のあるホテルへ行ってきました。ここのホテルは山のてっぺんにあるので、眺めが最高です。お風呂は1階ですが、露天風呂から海が一望できるのです。
夏休みということで家族連れが多く、ほとんど満室でしたが、もともとお風呂はかなり広いので、いつ行ってものんびり入れます。
夜は部屋から、暗い海を眺めていました。
すぐそばに港があるのですが、さまざまな船が一晩中行き交っています。
中でも漁船の出入りが激しい。
真っ暗な海を、小さな灯りが行ったり来たり。
沖にある島の灯台のあかりが、規則的に光ります。
この島、前から気になってました。港からフェリーで15分。以前にこのホテルに来た時には、なにも案内などなかったのですが。今回は部屋に、島へ行くフェリーのチラシが置いてありました。
島を、観光で売りだそうとしているのかな?
翌日はまっすぐ家へ帰る予定でしたが、急きょ、計画を変更。チェックアウト後に、島へ行ってみることにしました。
ホテルのフロントで、島に関するチラシがないかどうか聞いてみると、フェリーの時刻表と島の地図が印刷された紙をくれました。
それを見たとき、少しだけ違和感がありました。
あまりにも簡素すぎるような気がして(^^;
本気で観光地として売り出す気持ちがあるなら、もう少し力の入ったチラシになるんじゃないかな~と。その疑問の答えは、実際に島へ行ってみてわかりました。
島へ行く小さなフェリーは、ほぼ満席。
といっても、60代くらいのおばさま10人くらいのグループがいたから、というのが大きいと思います。
普段は赤字路線なのかな?という感じです。
15分で到着して、まずは港に設置された大きな看板の地図をじっくりと眺めます。おばさまグループは、地図のそばを通りかかった地元の婦人に声をかけていました。
「1時間後の便で帰るから、あんまり遠くには行けないんだけど、その時間で帰ってこられる観光スポットはあるかしら?」
うおー、もったいないですね。
と、傍で聞いていて思いました。せっかく来たのになあ。1時間で帰っちゃうのか。
私は4時間滞在する予定だったので、地図を片手にあちこち歩き回ろうと考えていました。
小さな島なので、2時間もあれば一周できると、地図には書いてありました。ただ、途中のぼり坂が続くところもあるようで、そうすると大変だろうから、楽な道だけをちょこちょこ、部分的に楽しめばそれでいいか、と。完全に一周しなくても、寄れるところだけ寄ればいいと、そう考えていたのですが。
まずは、島内にある、海の神様をお祀りする神社へGOです。
この地を踏ませてもらうご挨拶をしなければ、ということで、神社を最初の目的地にしました。
階段が半端ないです。かなりの急角度で、200段以上。夏の日がじりじりと照りつけ、汗が流れました。
やっとの思いで拝殿に到着。小さいけれど、霊験あらたかで、厳かな雰囲気。しっかりと手を合わせました。
次には、灯台に行こうと思いました。拝殿を出て、灯台に行く道を探しましたが、小さなけもの道らしきものしかありません。案内板もありません。まさかこの貧弱な道が、地図に書いてある道じゃないよなあ、ということで、せっかく上がった階段を下りていきます。
階段の脇に、わりとしっかりした横道があったのでその道を行ってみることにしました。どんどん下っていきます。ある程度下ったところで、通りがかりの地元の人らしきおばさまに遭遇。
「こんにちは」と声をかけると、「こんにちは」ととびきりの笑顔を返してくれました。
「もしかして、灯台へ行くの?」と聞かれたので、「そうなんです。今神社から来たんですけど道がわからなくて」と答えました。
するとおばさまは、気の毒そうに、「灯台へいく近道は、神社の裏にあるんだよ。また戻らなきゃいけないよ」とおっしゃいます。
うおおおー。下ってきた道を、また戻らなきゃならないのかーと悲しくなりつつ、詳しく話を聞いたところ、あの神社の裏手にあったけもの道らしき小さな道が、灯台へ行く道だと判明。
「私も前から気になってたんだけど、案内がなにもないみたいだねえ。しょっちゅう、観光客が間違えてこの道を下りてくるんだ」とのこと。そのたびに、教えてあげているそうです。
今来た道を、また戻らねばならないことにはがっくりしましたが。それでもおばさまの親切が身にしみます。もし声をかけてくれなかったら、このままもっと下の道まで、下りてしまっただろうから。お礼を言っておばさまと別れ、もう一度拝殿のところまでのぼります。
あらためて、けもの道の入り口に立ちました。
ありえん(^^; ありえないわ。案内板なしで、ここに踏み入る勇気はないよ。さっきおばさまに詳しく道を聞いたからここがそうだと確信できるけど、そうでなかったら、観光マップに載っている道には見えない・・・。
うっそうとした森の中、小さな道をたどって灯台へ歩を進めます。ずっとのぼり坂が続きますが、途中、横道はありません。ひたすら前へ進むか、元来た道を戻るか、それしかできません。
夏の草の繁殖力は凄まじい。数日前に、歩きやすいよう草を刈り取った形跡はあるのですが、それも部分的なもので。なかなか道の全てを整備するのは難しいようでした。両側から浸食してくる草に、道はともすればすっかり、覆われてしまいます。
どのくらい歩いたのか。汗をぬぐいつつ、ようやく灯台に辿り着きました。昨日の夜、部屋から眺めたあの灯台の光がここだったのかと思うと、感慨深いものがあります。
今後あのホテルに泊まるたび、灯台の光を眺めるたびに、思い出すことでしょう。
灯台の脇には、打ち捨てられた小屋がひっそりと佇んでいました。今は灯台は無人で運営されているようですが、昔はこの小屋に、管理人が泊りこんでいたのでしょうか。
ツタに覆われた小屋は、ずいぶん長いこと人の手が入っていないようです。すっかり廃墟です。内部は時間がとまったまま、静かに埃だけが積もっているのだろうかと想像しました。周りには背の高い雑草が生えそろっていて、玄関に近付くことすらできません。
もし本当に観光地化するのなら、ここを東屋にして、休憩所として使ってもらえばいいのに、と思いました。山道をずっとのぼってきたのに、休憩スペースがないのは気になります。
さて地図上ではこの先、さらに道を進むと、石灰岩が風化してできた白い岩肌と青い海が一望できる、絶景ポイントがあるとのこと。
戻るか進むか迷いましたが、せっかくなので、さらに進んでみることに。
すると、向こうから歩いてくる人影が見えます。
挨拶して、この先がどうなっているか聞いてみました。すると、歩きにくい道なので、断念して戻ってきたとのことでした。
たしかに、今までの道も、歩きにくいといえば歩きにくいかも。気軽にふらふらといく感じではないです。まさに山登り、という感じなのです。
行けるところまで行ってみよう。
私は歩き始めましたが、その後もしばらくのぼり坂が続き、決して楽な道ではありませんでした。
そしていつしか。峠を越えたのか、ずっと下り坂が続きます。楽は楽ですが、怖くもあります。もし戻るときには、逆に、これがのぼり坂になるのですから。
山の中で、一切横道はありません。
もう、進むか、戻るしか選択肢はなく。
途中、誰にも会いませんでした。道が厳しすぎて、観光客はここまで来ないものと思われます(^^;
歩いて歩いて、ビューポイントの東屋に到着。少し休憩して、すぐにまた歩き始めました。港から離れてしまったため、船の出る時間に間に合うのかどうか、それが気がかりでした。
肝心の景観はたしかに綺麗だったけれど、だからといってそこで1時間眺めているようなものでもなく。
道は途中、さらに悪くなる個所もあったりして。
水たまりを避けて、ギリギリ端っこを通るのはスリルがありました。
背の高い草をかきわけて進んだときには、気分はもう、探検隊です。ホテルでもらった地図を見る限り、遊歩道的なものを想像していたのですが、それは違っていましたね。
山を抜け、海岸沿いを歩いたときには広々とした海が気持ちよかったです。地元の方なのか観光客なのか、一組のカップルが楽しそうに波打ち際で戯れていて。それを高い位置から眺めていたのですが、ほのぼのとする光景でした。
のぼったり、下ったりを繰り返して、ようやくまた街中の集落に戻ってきて、ほっとしました。ここまでくれば、安心です。港まですぐですから。これで船に乗り遅れることはないでしょう。
結局、島を一周してしまいました。途中休憩を入れつつ、約3時間の行程でした。
とにかく、これは途中でや~めた、というのができない道だということがポイントです。途中で横に抜ける道がない。山の中がほとんどなのでしかたないんですが、これは地図に注意書き入れておかないと、困る人もいるだろうなあと思いました。
遊歩道的な感覚で気楽にチャレンジすると、しまった、ということになると思います。
そして、島を一周した後、港の周辺をいろいろまわったりして思ったことなんですが。
これはあれですね。
観光地化を推進しようとする人たちと、それに反対の人たちがいて、一枚岩じゃないんですね(^^;
だから、中途半端なことになってしまっているんだと思います。
島の主な産業は、漁業です。
豊かな海で、港には魚市場もありますが、観光客が買うことはできません。観光客向けに、時間を決めてフェリーの待合所近くで売れば、喜んでお土産に買う人はいると思うんですけど(私も新鮮な魚、買いたかったなあ)、そういうのは一切なしです。
たぶん、漁業関係の方からすると、観光客は邪魔なだけなんでしょう。今のままで十分やっていけているのなら、観光地化することに、メリットはそれほどないわけで。
港の周辺を歩いているとき、それはなんとなく感じました。冷ややかな態度、というか。
別に観光地化しなくても食べていける、という方たちにとっては、観光客が増えればうるさい、というのはあるでしょうね。確かに、集落の中を見知らぬ人が歩き回るということ自体、ストレスといえばストレスになりうる。
ただ、島を観光地として売り出すことで、活性化しようとする方たちの気持ちもわかります。おそらく、若い人なんだろうな。
島に、漁業以外の道を作ろうとして、がんばっているんだと思います。
しかし、この小さな島の中で、新しいことを始めるというのは、とてもとても、難しいことなのだろうと思いました。しがらみを無視することはできない。強引なことをすれば、狭い集落の中で居づらくなってしまいますしね。
あの、草だらけの道も。
観光地推進派の誰かが、黙々と草を刈っていたのかもしれません。すべてに手が届くわけではないから、草に負けている部分もあったけれど。島の、漁業関係の重鎮から怒られながらも、一生懸命アイデアを出して、ホテル関係者にもチラシを配って、がんばっているのかなと思うと、ほろりと感傷的な気分になりました。
私はこの島が好きです。やっぱり、船でしかいけない島というのは、独特な雰囲気がありますし。人気のない山の中、自然の素晴らしさも堪能できます。
だけど、また行きたいかと問われると、・・・・ですね。
歓迎されてない感じがするので(^^;
私が泊まったホテルにはチラシは置いてあったけど、チラシ自体簡単なものだし、ホテルがあまり積極的に島の観光を勧めてない理由も、わかりました。観光地としては、?マークがつく段階です。
逆に、へたにお勧めしたら、後でクレームがついてしまうかもしれない。道の案内板の欠落も、痛い。観光地として最低限の土台が、整っていない状態なので。
港の近くにある公園。そこのトイレの汚さも、問題の根の深さを表しているように感じました。
きっと人間て、みんなが一丸になればすごい力を発揮するんですよ。豊かな自然に恵まれたあの島も、その気になれば、すぐに人気の観光地として、みんなに知られる存在になる。
ちょっと足をのばしてみようか、そうやってみんなが、気軽に出かける島になれるのに。
だけど、反対する人たちがいれば、前へ進もうとする力は打ち消されて、行きどころを失ったエネルギーは、中途半端にゆらゆらと彷徨う。
観光地化することが絶対にいい、とは言いませんが。
もったいないような気持ちになった、旅でした。