「抑えがたい欲望」そのタイトルは何を表すのか

 今日は、舞台『ダンス・オブ・ヴァンパイア』の中で歌われる「抑えがたい欲望」という曲について語りたいと思います。

 私は舞台を初めて観て、パンフレットを読み曲のタイトルを知ったときからこの、「抑えがたい欲望」という言葉がどうにもこうにも、気に入りませんでした。曲も訳詞も大好きなんですが、タイトルだけが思いっきり的外れのような気がして・・・。

 違和感の一番の原因は、「欲望」という言葉の語感だったりします。

 欲望って言葉を聞いて私が想像するのは、油ぎとぎとの、なにか悪臭を放つとてつもなく汚くてエグいもの、ですね。

 それも、普通の油じゃなくて、相当年数たって、黒く変質しちゃってるの。一度手に触れたらもう、否応もなくあちこちに広がっていって、それを拭おうと綺麗なハンカチなんかでこすっても、駄目で。ハンカチが汚れるだけじゃない。拭けば拭くほど、むしろその黒いシミは大きく広がるばかり。

 そんな、やっかいでけがらわしいもの。というイメージが、「欲望」という言葉にはあります。

 「願い」とか、「祈り」とかなら、とたんにそれは清々しく芳香さえ漂う、光をまとったなにか、に、なるんですけども。なんだろうなあ、「欲望」って言葉を聞くと、私はすごく、おどろおどろしい、触れてはいけないもの、を想像してしまうんですよね。

 ちょっとイメージしてみます。「欲望」・・・・うーん、やっぱり、あんまりよろしくないイメージしか浮かばない(^^;

 そんな、私にとっては禁忌のような言葉、「欲望」を。果たしてあの、墓場に立ち尽くすクロロック伯爵が抱いているのかといえば。

 なにか、もうそういうところは通り越しちゃってる感じがするのです。「欲望」を抱いていた人間時代の伯爵はもういなくて。あそこにいるのは吸血鬼になって久しいクロロック伯爵で。

 あのとき、墓場に独りきり立ち尽くして、胸の内を素直に吐き出す伯爵の姿を見ていますと。そこに見える一番大きな感情は、悲しみ、のような気がします。悲しくて、悲しくて。そして苦しい。もがいてる。

 曲のタイトルには、その「悲しみ」をイメージするような言葉が合うのになあ、と、私はぼんやりそう思うのです。でも具体的になにか例をあげようとすると、イメージは霧のまま、つかもうとしても手にはなにも残らない。言葉って難しいですね。きっと、ぴったりの言葉を聞けば「それだよ!! まさにそれ!!」って、言えると思うんですが。今自分で考えても、さっぱり浮かんできません。無理やり候補を挙げるならば。

☆闇夜の誓い→ラノベのタイトルぽい。
☆時間の囚人→洋書の翻訳ものでありそう。
☆伯爵の独白→ベタでなんの捻りもないけど、だからこそシンプルでいいかも?
☆解けない命題→吸血鬼である我が身の運命、伯爵はその謎を解きたいと考えているだろうから。
☆追憶の中で→ハーレクインのタイトルでありそう。
☆最後の支配者→SF物などの、洋書翻訳でありそう。
☆神への挑戦→ノンフィクションで、DNA解析にまつわる研究者の奮闘などを描いた作品ぽい。
☆月と吸血鬼→あの曲を歌うのは闇夜の設定だけど、舞台を見ていると月光の幻がみえる気がする。
☆祈りの果てに→伯爵は、もはや祈ってはいないか・・・。
☆世界が終わる日→永遠の命を与えられた伯爵に、その日がくる保証はない。

 ということで、結局コレだ!と納得するタイトルは考え付きませんでした。

 うーん。でもでも。あの墓場で、孤高の伯爵の立ち姿、そして歌声を耳にしてしまった者としては、「抑えがたい欲望」というタイトルは、やっぱりピンとこないのです。あの姿にこのタイトルかあ・・・と。

 と。ここまで書いて、ふと考え付いたのですが。
 もしかして、「抑えがたい欲望」とは、あの1617年。金の髪の娘(私のイメージの中では、太陽をそのままとじこめたみたいな、金髪なんです)の喉元に思わず喰らいついてしまった、その欲望のことを指しているのでしょうか?

 あのとき、愛しい娘を抱きしめたとき、自分の中に抑えきれないほどの黒い衝動が湧き出でた。その衝動が今の自分、醜い吸血鬼、残酷な永遠の命をもたらしたのだと、伯爵はそう言いたいのでしょうか。

 そして自分の体験を語り、もしかして、全人類に向けて宣言しちゃってるのでしょうか。

 お前たちだって、私と同じ立場になれば、「抑えがたい欲望」の前にひれ伏すことしかできないのだと。
 あの、凄まじいまでの「欲望」には、抗えないのだから、と。

 人は、欲望からは自由になれない。誰しもがそれぞれ、自分の中に「抑えがたい欲望」を抱いている。だからこそ、欲望が最後の支配者になるのだ、と。

 なるほどー。そう考えてみると、この「抑えがたい欲望」ってタイトルはぴったり当てはまりますね。
 私は現在の、苦悩する伯爵の姿と「抑えがたい欲望」が相容れないと思っていたのですが。もし「抑えがたい欲望」の囚人となった伯爵の苦悩、を考えるなら、タイトルとしては秀逸ですね。

 初演を観てから5年経つのに、曲のタイトルひとつでこれだけいろいろ語りたくなる作品。深いです。

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