佐村河内さんとゴーストライター

 佐村河内(さむらごうち)守さん、ゴーストライターに曲を作らせていたんですね。びっくりしました。

 私が以前に書いた、佐村河内さんの自伝の感想、記事を削除しました。万一、あれを見て「読んでみよう」と思われる方がいたら申し訳ないので・・・。だって、本の内容も嘘だと思うから。

 今回の件で、ゴーストライターをしていた新垣隆さんの会見は、とても誠実なものだったと思いました。今、新垣さんが真実をあきらかにしなかったら、被害に遭う人は増えたでしょう。

 人間性の違い、というものを、すごく感じました。

 他人の作った曲で賞賛されることに、全くなんの疑問も感じず、ますます増長していく人と。
 自分の作った曲が武器として使われることに、罪の意識を感じ、耐えられなくなった人と。

 武器、という言葉は激しすぎるかもしれませんが。結果的に、武器になってしまっていたんだと思うんです。
 聴力をすべて失い、24時間なりやまない耳鳴りの中で、あれほどの素晴らしい交響曲を書きあげた人、という栄光は。
 佐村河内さんにとって、新垣さんの作った曲は、究極のアイテム。それを振りかざせば、反論できる人はほとんどいない。

 新垣さんが今回、真実を明らかにしたのは。
 障害のある少女に、佐村河内さんが高圧的な態度をとったことが大きいのではないかなあと思いました。
 高圧的な態度に出る背景に、自分の作った曲の威光があったならば。それはたとえ意図的ではないにせよ、共犯になるわけで。

 たぶん、この少女ひとりだけの問題ではないでしょう。表には出てこないけれど、有名な作曲家という看板の前で、理不尽なことがあっても飲みこまざるを得ず、嫌な思いをした人は他にもいたんではないでしょうか。新垣さんが黙っていたら、これからもそういう人は増えていったはず。

 新垣さんが提供したのは20曲以上。700万円前後を報酬として受け取っていたそうですが、これは素人が考えたって、報酬に見合わない労力だったと思います。交響曲を書くのに、どれだけの時間がかかることか。
 それに、あれだけ人気が出た作曲家としての、佐村河内さん自身に入ったであろう収入と比較すれば、あまりにも少なすぎます。

 新垣さんは、本当に音楽が好きだったんでしょう。
 お金の問題ではなく、自分の作った音楽が世に出て、みんなが喜んでくれることが、嬉しかったんでしょう。

 けれど、その音楽を身にまとった人間が、勝手な振る舞いに及べば。それを見て、人として良心が痛むのは、当然のことです。

 自分の作った音楽が、詐欺師の道具として利用されるならば。道具を作った人間も、責任は免れない。そういうことだから、告発に踏み切ったんだと思います。その勇気は称えたいです。

 いつ、どのタイミングで告白をするのか。
 オリンピック前、高橋大輔選手がフィギュアスケートで滑る前であることを批判する人もいますが、私は、滑る前でよかったんではないかと思いました。曲そのものに、罪はないです。その曲の良さは、何も変わらない。むしろ、汚れた虚飾を脱ぎ捨てて、本当に美しい作品として使われることができ、良かったのではないかと思います。
 高橋選手の大活躍を祈ります。

 もし自分が新垣さんの立場だったらと考えると、そこに至るまでの新垣さんの苦しみがみえてきます。

 恐いです。大きなお金が動いている。佐村河内さんひとりだけの問題ではありません。その周囲に、多くの人間がいる。
 その人達は、真実を知ってなお、甘い汁にたかり続けた。その人たちがどう出るか。

 そして、自分の今の職も。やめざるをえなくなるかも。また、将来も、大好きな音楽に関わっていくことが、難しくなるのかもしれません。

 言えば、つらいことばかりです。
 けれど、真実を告白した。その勇気を考えれば、新垣さんは正しい決断をしたのだし、結果は、それでよかったのだと思います。私は、新垣さんを佐村河内さんと同じだとは、思いません。

 今さら・・・という言葉を言い訳にして、ずっと黙り通す道もあった。けれどきちんと告白したことで、新垣さんは真の音楽家だということを、はからずも証明したのだと思います。新垣さんは本当の、音楽家です。

 では、結局のところ、一番に責められるべき人は誰なのでしょう?

 佐村河内さんを特集し、持ちあげたテレビ番組の責任は、重いのではないかなあ・・・。気付いてなかったはずはありません。ドキュメンタリーで、本人の言い分をそのまま流したらプロじゃないです。ある程度、きちんと裏付けとるのは当たり前だし、それをやったら破綻を見抜けたわけで。

 見抜いてなお、虚偽を放送した責任は重いです。
 名前は出てこないけれど、全部知っていてこの詐欺に加担し、私欲を満たした人物こそ。さもしい人間だと思いました。

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