雨上がりの街

 映画を見た後、雨上がりの街を歩いて家まで帰りました。到底、バスに乗る気にはなれませんでした。
 雨は、すべての穢れを流してくれたようで。空気まで清浄になった気がします。

 いつも通る道とは反対の、イチョウの並木道を通りました。ここのイチョウは、銀杏が落ちないので臭くないのです。
 黄色くなった葉が落ち、歩道に降り積もっています。避けて歩こうにも、一面を覆い尽くしていて無理です。そっと枯葉の上に足を下ろすと、雨に濡れた葉はカサとも音をたてず。ふんわりと体重を包み込みました。まるで、絨毯の上を歩いているみたいです。

 ふかふかのイチョウの絨毯が、どこまでも続いていて。歩いていると、いろんなことを思い出しました。映画だけでなく、ずいぶん昔のことも。

 行く手の上空に、満ちていく途中の月が見えました。明日は上弦の月です。

 美容院に寄って髪を切ったので、いつもとは違うシャンプーの匂いがします。髪に手をやると、いつもと違う自分で、不思議な感触です。

 ここの美容院。行くたびに違う匂いのシャンプーで、それがひそかに楽しみだったりします。ポイントが貯まると、シャンプーをくれるのですが、同じシャンプーでも家で洗った時と、なにかが違うような気がして。

 だから、その美容院で髪を切り、シャンプーをするのが楽しみです。ふわっと、なにかの拍子に微かに香って、一日いい気分になれるから。ワックスやジェルを、おつけしてもよろしいですかと聞かれるのですが、たいてい断ります。
 さらさらになった髪のまま、歩くのが好きです。そのままどこかへ出かけるときには、何かつけてもらうときもありますが。

 もう、後は家に帰るだけで。自由だから。

 空気のひんやりした冷たさも、好きです。この季節にしかない、せつなさがあります。

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