ドラマ『鹿鳴館』を見ました。以下その感想ですが、ネタバレを含んでおりますので、未見の方はご注意ください。
三島由紀夫原作かつ、時代が明治とくれば、見ないわけにはいきません。あの時代の文化が好きです。洋服も建築も。
キャスティングがばっちりはまっている役者さんと、違和感のある役者さんに分かれたような気がします。私がいいなあと思ったのは以下のキャスティング。
清原久雄役、松田翔太さん。
草乃役、高畑淳子さん。
飛田天骨役、橋爪功さん。
逆に、これはちょっと違う・・・と感じたのは以下の配役。
影山悠敏さん役、田村正和さん。
影山朝子役、黒木瞳さん。
大徳寺顕子役、石原さとみさん。
清原永之輔役、柴田恭兵さん。
テーマ音楽は、軽すぎるような気もしたのですが、全体の雰囲気とは合っていたかなあ。というのは、最後の影山伯爵と朝子のダンスシーンが、意外に軽いものに仕上がっていたから。あの場面こそ、このドラマの肝だと思います。それがあの重さなら、この音楽がふさわしいといえばその通りかと。音楽ばかり重厚なものにしても、バランスがとれない。
個人的な好みとしては、あの場面に凄みを感じたかったです。ぞくりと背中にくるような重さを、味わいたかった。
影山伯爵に浮かぶ疲労の色、朝子の能面のような顔、そして一瞬だけ、朝子が唇に微笑を浮かべたなら。鬼気迫る映像になったのになあ、と思いました。
我が子を失った今、朝子の狂気にも似た感情のほとばしりが透けて見えたら、見る者の心に深い印象を与えたドラマになったでしょう。
影山伯爵は、もう少し表情のない役者さんの方がよかったかなーと思いました。あくまで私の好みですけど。なにを考えているかわからない的な雰囲気が欲しかったです。田村さんだと、少し甘い感じになってしまうような。
そうですねえ、例えるなら、若い頃の露口茂さんのイメージ。冷徹な仮面が、感情に揺さぶられて剥がれていくところを、うまく演じて欲しいです。
朝子は、黒木瞳さんとはキャラが違いすぎると感じました。一番気になったのは、母性が伝わってこないこと。朝子は久雄を誰より愛していたはずで、時代背景もあり、手放さざるを得なかった悲しみがあったと思うのですが、黒木さんだとなんとなく「自分が一番」と感じてしまって。
子供だけでなく、影山伯爵をも愛していなかった、みたいな。いや、それでもいいのかもしれませんけど。たとえば、ひそかに清原を愛し続けながら違う男の妻である自分に苦悩するという点が見えたりするならば。
結局朝子は、子供より伯爵より清原より、自分が大事だったのかな、なんて、ドラマをみてそんな感想を抱いてしまいました。そうでなければ、最後のシーン、伯爵と踊るときのあの表情は出ないかなあと。
顕子役の石原さとみさんは、とても可愛らしくて、でも一味足りないのが残念でした。可愛いだけのお人形になってしまったところが・・・。あんまり同情できないキャラで、かといって悪役として個性が際立つとかそういう役柄でもないし。
見ている側に、同情でもいい、嫌悪感でもいい、なにか一つ、ピリッと感じさせるものがあればなあと思いました。
清原役の柴田恭兵さんは、醸し出す雰囲気が反政府主義者という感じではなかったような気がします。それと、朝子に久しぶりに再会したときの心の揺れみたいなものが感じられなくて、それが残念でした。
ただ、久雄の遺体を抱き寄せて涙するシーンは、かなり伝わってくるものがありました。虫の声しか聴こえない演出もよかったです。
では次に、私が秀逸と感じた3人の配役について。
橋爪功さんが演じた飛田。うまい! はまってます! 橋爪さんなのか飛田なのかわからなくなるくらい、ドンピシャの配役だと感じました。
影山が表の部分、飛田が裏の部分を担当して政治を動かす、その影の男としての凄み、胡散臭さ、冷徹さ。
影山伯爵に対して敬語を使いながらも、その実、対等であることは見てとれたし、朝子や草乃を一段下に見るような薄ら笑いには、ゾクゾクきました。修羅場をくぐってきた冷徹さがありました。伯爵さえその気になれば、彼はなんのためらいもなく、朝子でさえもその手にかけるだろうなあ、と感じました。
これ、橋爪さんが演じなかったら、ドラマがもっともっと、軽いものになったと思います。橋爪さんの演技があったからこその、鹿鳴館でした。ブラボー。
女中頭の草乃を演じた高畑淳子さん。さすがの迫力だったのは、影山伯爵に迫られた後の豹変ぶりです。コロっと態度が変わったところがすごかった。
こぼれおちる色気というか、視線に含む媚態がなんとも・・・。
しなだれかかるような馴れ馴れしさは、さすがとしかいえません。言葉尻はあくまで女中頭としての品位を保ってますけれど。目で語る部分が大きかった。
そして、清原久雄役、松田翔太さん。虚勢と弱さのバランスが最高でした。青年なりの理想や苦悩がそこにはあったし、共感できました。
ピストルを手にしたときの震える心、見ている側にがっつり伝わってきましたもん。その純粋さが招く結末が、予想できただけに、物語としての悲劇性は倍増です。
わかっていて、そこに進まねばならない。
そうしなければ、生きていけない。
久雄は弱い人間だったと思います。でもその弱さに、共感しました。
鹿鳴館の内装はどれも素敵でした。日本のドラマはあまり予算もないと思うので、いかに本物らしく作るか美術さんは大変だったと思うのですが、安っぽくなくしっかりした造りに見えました。花をたくさん使っていたのもよかった。
それから衣装。どれも派手でないしっとりとした落ち着いた色で。ドレスも均一ではなく、少しずつデザインが違ったし、髪形もそれぞれで見ていて興味深かった。私は特に、顕子が着ていたピンクのドレスがお気に入りです。幼さの残る顕子によく似合ってました。
鹿鳴館のダンスシーンは、うっとりするような華やかさでした。これを見ただけでも、このドラマを見た価値はあったと感じました。せっかく作ったセットや衣装。これを使って、また同じ時代のドラマを作って欲しいなあと思います。