禁煙の温泉宿へ行く

 週末、温泉に行ってきました。

 2泊3日の、のんびり旅です。案内されたお部屋が、素晴らしかった!

 本館と別館がありまして、私が泊まったのは別館なのですが、部屋が6つしかない古い建物。もともと老舗旅館だったものを、経営難からオーナーが変わって、数年前にリニューアル。

 3階建てで、エレベーターがないんです。本館の方が大浴場も近いし、最初は本館の方がいいかなと思う気持ちもあったのですが。チェックアウト時にはすっかり、別館のファンになってしまいました。宿の人に聞いたところ、やはりリピーター客には、別館が人気だとか。

 とにかく、静か。音がほとんど聞こえない。隣室の音も、外の音も。

 6部屋しかないから、廊下に出ても人と顔を合わせることが全くなかった。本館はかなりの客室数なので、大浴場へ行けば当然、それなりに人がいるんですけども。別館をうろうろしている分には、本当に静まり返ってました。

 観光用の温泉というより、湯治場として営業している温泉なのです。だから、子供はほとんど見ませんでした。のんびりしたかったから、それもありがたかったなあ。

 唯一、泊まりではなく日帰り入浴のお客さんと思われる家族連れがいて、その人たちは子供連れでした。かなり周囲から浮いていました。

 子供も、可哀想でね。普通の観光地の温泉なら、子供向けのゲームコーナーとかあるし、お土産コーナーも充実していて、飽きないと思うんですが。

 ここはお風呂がメインの湯治場だから、子供はつまらなかったらしく、駆け回ってそのたびに親に「おとなしくなさい」と怒られていて(^^;

 連れて来る場所が違うような気がしました。

 ここの温泉は、効能が抜群と言われていて、本格的に病気治療に来る人も多いんです。だから、年配の人ばっかりなんです。長期滞在用のプランもあるくらいで。

 子供は、うれしくてはしゃぐのが当然だと思うから、ちょっと場違いで可哀想でした。これは親が、もうちょっと考えてあげた方がいいと思いました。ファミリー向けの温泉は、他にいろいろあると思うので。そうすれば、ある程度子供たちものびのびできるのではないかなあ。

 とはいえ、お風呂場で子供に会ったのは唯一、そのときだけ。私もいろんなところに旅行しましたが、こんなに落ち着いた場所は、初めてです。ファミリーも、カップルもいない。平均年齢60才の静かな温泉宿。

 客層は、年配のご夫婦だったり、おばちゃんの友達同士だったり、そんな感じです。それに混じって、湯治に専念する長期滞在の独り客がいます。

 私はなにが気に入ったって、この宿の落ち着きと、それから建物(別館)の趣ですね。階段に敷かれた赤じゅうたんが重厚な雰囲気で、「千と千尋の神隠し」を思わせるような、不思議な気分になります。

 古い建物だから、リニューアルしたといっても、窓の木枠なんかが年代もので、そこがまたいいのです。部屋の前の廊下の窓を開けたら、そこに広がる景色にうっとり。

 廊下の窓からは、今は使われてない、さらなる別館の姿が見られるのです。廃墟、とまではいきませんが、人の気配の途絶えた背の高い建物が、夕闇せまる空の色をバックに佇んでいるその様は、私の心の琴線に触れました。

 そして、私の泊まった別館から渡り廊下を通じて、離れになっている平屋の一軒家へ屋根が続いているのですが、離れは一つだけじゃないのです。山の斜面に沿って、何軒かの趣の異なる家が見えて。

 ほとんどが、現在は客室として使われていないらしく、人の気配はありません。

 なんといいますか、長らく人が住まない建物特有の、侘しさが漂っていて。私はこの雰囲気が大好きなのです。かつては賑わったという余韻を残した建物の、セピア色の情景。老舗旅館の最盛期には、この離れにも、別館にも、多くの人が溢れたでしょう。そして今、人の気配のないこれらの建物に、静かに時だけが流れていく。

 建物はどれも、凝った作りでした。私の泊まった別館も、ただの長方形の建物ではありません。壁の凹凸や、ドアの向きが変わっていて、廊下を歩くだけで楽しかったです。階段を下りる途中に、いかにも部屋の入り口のようなものがあるのに、そこには壁しか見えず。

 部屋の避難図を確認してみました。それを見れば、建物の全体像、他の部屋のつくりなどもある程度わかります。それによると、階段途中にある壁の向こうには、もう一つ部屋があるということが判明しました!

 改装したとき、一部屋をつぶしてしまったんですね。板で壁を作ってしまった。でも、この向こうにはたしかに部屋がある。開かずの部屋です。この部屋の中は今、どんな状態なんだろう。どんな時間が流れているんだろう。そう考えると、壁の向こうに入ってみたいような気持ちになります。

 この宿のもう一つの特徴は、全館禁煙。なんて素晴らしい! 温泉地で全館禁煙というのは、珍しいのではないでしょうか? でもこれからは、禁煙が当たり前だと思います。たばこ臭い部屋になんて、泊まりたくありません。百害あって一理なしのタバコ。それに悩まされなくてすむのは、本当に嬉しいことです。オーナーは先見の明がある方なんだなあと思いました。

 タバコといえば、東海道新幹線のタバコはなんとかしてほしいです。いまだに喫煙車両があるのはどういうことかと。とっくに全車両禁煙になっているのかと思ったら、喫煙車両の案内があったので驚きました。

 公共の場は、全面禁煙にしてほしい。。

 誰にも迷惑のかからない場所ならともかく、公共交通機関での喫煙が許されるのはどうかなあと思います。

 今まで出会った人を思い返してみると、タバコを吸う人で尊敬できる人は一人もいませんね。逆に、ああ、この人はすごいなあとか、さすがだなあと思う人は、みんなタバコを吸わないです。それがわかると、やっぱりなあと思います。

 吸う人と吸わない人の間には、はっきりした境界線があり。

 喫煙の有無に、人生観が出ているのでしょう。

 素敵な温泉宿で、ゆっくりできた週末でした。 

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