レベッカの目線、マキシムの目線 その1

 舞台『レベッカ』を見て、レベッカとマキシムの関係について考察してみました。以下ネタバレしていますので、ご注意ください。

 山口さんには、マキシム役が合っていると思います。実際に舞台を見て、そう思う。小説を読んで、心に描いていた通りのマキシムが、そこにいたから。

 それで、このところぐるぐる頭の中で回っているメロディがある。

>ああ消えるならば すべて消えてしまえ

 これです。何度も何度も、山口マキシムの歌うこのメロディと歌詞が、頭の中で回り続ける。1回しか観劇していないのに、ここのメロディラインはとても印象的なのだ。心のどこかで、マキシムは、もうずっと前から願っていたかもしれないですね。心の奥の奥の、そのまた奥の。誰も見ることのできない場所で、レベッカの幻影がマンダレイごと消えてしまえばいいと。

 心をすべて委ねた人。信じて、自分を明け渡した相手。マキシムにとって、レベッカはそんな相手だったのかなと私は思います。

 そしてレベッカも、きっとマキシムを愛してた。どうしようもないほど歪んだ、憎しみをちりばめた愛でマキシムを締め付けた。

 マキシムが自分に手をかけるよう仕向けるという、そのやり方にレベッカの執着を感じます。もしかしたら、ボート小屋ではファヴェルと待ち合わせていたものの、そこにマキシムが来ることをどこかで期待し、予感していたのではないかとさえ思います。

 レベッカほど頭のきれる人なら、きっと簡単だったはず。あからさまにならない程度に、自分の不品行を匂わす証拠を、あちこちにばらまいておくこと。それを手に入れたマキシムの出方を、レベッカはじっと、見ていたんじゃないかと。

 わざとマキシムの関心を買うように、これでもかとばかりに示威行動に出ているような。子供っぽさは、レベッカのあせりでもあり。

 だって、遊びたいならいくらでも、マキシムの気付かないところでやれるわけです。それだけの頭もあり、財力も、人脈もあるわけで。平穏にすませることはいくらでもできるのに、わざとマキシムに見せ付ける。なぜか。

 マキシムに、嫉妬に狂ってほしいから。

 マキシムに、言ってほしかったんでしょうね。

「君を愛してる。どうか僕だけを見て。君が他の人といるだなんて、耐えられない」

 モンテカルロの丘で、レベッカは仮面をとった自分を初めて、マキシムに曝け出しました。対するマキシムは、憤りながらも、虚飾の夫婦関係を生涯続けようと決めたわけで。

 これは、レベッカにはかなりの屈辱だったでしょう。

 なんとなくだけど、私の解釈だけど、レベッカはやっぱり、マキシムが好きだったんだと思うのです。だから、あの告白の後で、マキシムが現状維持を決めたことが、大ショックだったんじゃないでしょうか。

 それは、マキシムの「愛してない宣言」にも等しい。普通に考えて、愛してる人に「これから浮気しまくるけどよろしくね」なんて言われて、ああそうですかと耐えられるわけがない。それでもOKと思えるのは、相手のことをどうでもいいと思っているから。相手よりも、マンダレイの名誉を守ることが大事だと、そういうことだから。

 レベッカのマキシムへの執着には、自分を振り向いてくれなかった想い人に対する意地、それ以上のものを感じます。

 でも皮肉なもので、私はマキシムはレベッカに夢中だったと思うんですよね。気付いてないのはレベッカだけ。

 マキシムがすべてを知ったにも関わらず、レベッカと離婚しなかった本当の理由。

 どこかで夢見る部分があったんじゃないかと。一緒に暮らし始めたら、レベッカも変わってくるんじゃないかという淡い期待。それに、レベッカの告白があまりにも自分の理解の範囲を超えたもので、まさかそんな、と。信じたくなかった気持ち。

 自分をわざと、悪く見せてるんじゃないかと、悪ぶっているんじゃないかと、そんなかすかな希望にすがったのかもしれない。

 ボート小屋で、マキシムと向かい合ったレベッカ。

 余命わずかと知って、もう今さら、マキシムから愛されたいとは思わなかったのかもしれません。奇跡がおこって、もしマキシムが優しい笑顔で両手を広げてくれたとしても。すぐ目の先に、終わりの日が見えてる。去っていかなければならないのは自分だけ。その胸に飛び込んで、今さら夢を見ても、そんな幸福な日々はほんのつかの間。期限付きの虚しい夢。

 マキシムの魅力を、一番わかっていたのはレベッカだったのかもしれません。さんざん好き放題にしてきた末に出会った、初めて自分の心を動かされる相手。貴族の称号や、莫大な財産すら、個人の魅力の前には霞んで見える。世界の中心、女王のように振舞ったレベッカが、初めて屈服した相手、それがマキシムで。

 自分がいなくなれば、すぐにマキシムは後妻を迎えるだろう。

 マキシムの魅力は、自分が一番よくわかってる。

 誰もがマキシムに惹かれ、誰もがマキシムを愛するだろう。そしてその相手は、自分がこんなにあがいても得られなかった「マキシムの愛」を、たやすく手に入れるに違いない。

 レベッカはそう考え、一層深い、苦悩の海に溺れます。

 長くなりましたので、続きは後日。

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