『早春物語』の感想

『早春物語』を、久しぶりに見ました。以下、感想を書いていますが、ネタバレしています。未見の方はご注意ください。

もう20年以上前に製作された映画です。時代の違いが画面いっぱいにあふれ出して、昭和の香りがなんとも懐かしく。

赤面するような、違和感のあるセリフも多々ありましたが、全体に流れる穏やかな雰囲気がよかった。

この頃の、角川映画が好きなんですよね。なんというか、女優さんをきれいに撮ってる感じがする。その子の良さを、その年代にだけしか出せない、一瞬で変わっていく輝きをちゃんと、切り取ってると思うのです。

『早春物語』の撮影当時、原田知世さんは17才。若いですね~。知世ちゃんが演じるのは、沖野瞳という高校生。林隆三さん演じる、商社マンの梶川真二、42歳と知り合い、好きになっていく・・・というお話です。

久しぶりに見て、あらためて梶川さんのカッコよさを確認。これは惚れるでしょう。17歳だったら尚更、夢中になるでしょうね。

劇中、タバコ吸ってるのは残念ですが。

この時代は、今ほどタバコの害が言われてなかったから、仕方ないのかな。

瞳と一緒にいるときにタバコを吸う梶川さんは、居心地の悪さをごまかすために、タバコを吸って気持ちを落ち着けているようにも見えました。居心地が悪いっていうのが適切な言い方かどうかわかりませんが、あまりの年齢差に、落ち着かないというか。

瞳の積極さは、若いからこそ許される、無鉄砲さなのかなと思って見ていました。梶川さんにとって瞳は、恋愛対象としてはあまりに幼く、それこそ、話していて新鮮な「気晴らし」のような存在だったと思うのですよね。これは、劇中で本人も、そんなようなことを言っていましたけど。だから別に、追いかけるような対象でもなくて。

会社名すら教えていなかったのに、探し出してアポイントメントもなしにいきなり訪ねてくるって、分別のある大人がしたことだったら恐いかも。瞳は梶川には、20才だと年をごまかしていましたけどね。

瞳の亡くなった母が、梶川の昔の恋人だったことを知り、しかも出世のために母を捨てたのだと知って、彼を憎む瞳ですけども。う~ん、そんなことよりも、母親と昔つきあいのあった相手だと知った時点で、普通はドン引きではないかなと・・・。捨てたとか捨てないとか、そんなものはお互いの自由意志なわけで。

私が梶川さんを素敵だなと思うのは、瞳を相手にするとき、一貫して紳士的なんですよね。子供扱いしていないところがいい。

子供だと思って軽くみるところがあってもおかしくないかな、と思う年齢差なんですけども。表面上は丁重で、ちゃんと敬意をもって接してるというか。瞳が、それに合わせて精一杯背伸びをするのが、見てるこちらが恥ずかしくなるような感じでした。

左遷が決まって、酔っ払ったあげくに昔なじみのお店の女性と、ホテルに帰ってきたシーン。梶川さん独身だし、別に瞳とつきあってるわけじゃないんだから、瞳があれこれ文句を言う筋合いなんてないんですが。瞳の前だと、神妙なところが真面目だなあって。だって女性と二人、ホテルのエレベーターに乗ったところで、急に瞳が飛び込んでくるんですよ。そしたら「ごめん、今日は帰ってくれないか」だったかな、そんなことを、瞳じゃなくて、女性に対して言っちゃうんですよ。

いや、それ、瞳に言うべきセリフじゃないのか(^^;

と一瞬思って。でもよく考えると、梶川さんは瞳の姿を見た瞬間、自分の理性を取り戻したのかなあと。別に享楽的に逃げても構わない状況ではあるのですが、結局、お酒と女性に逃げてる自分の姿に、はっと気付いた、みたいなところがあるのかなあって。

若さって潔癖だから。純真だったときの自分の姿を、見るような錯覚があったのかもしれないと思いました。それで、瞳の目に映る自分を、瞬間的に恥じた、というかね。

「私、帰らないわよ」と怒る女性。エレベーターという密室の中で気まずい3人。部屋のある階に到着して扉が開いたとき、誰も動かなくて、どうなることかとドキドキしました。結局女性は帰りました。大人だな~。まあ、帰れと言われて、残っても仕方ないか。

梶川さんが部屋に瞳を招きいれるときの、「どうぞ」っていう声が好き。自分を恥じてる声だったな。お酒と女性に逃げた自分を、反省してる声。

しかし、その前に、部屋に未成年を入れてはいけないと思う。そうか、この時点ではまさか17歳とは思ってないか。

瞳も堂々と入っていくし、おいおい、それはまずいだろうと。

部屋での梶川さんはあくまで、大人の対応だったなあと思います。これが梶川さんじゃなかったら、どんなことになっていたか・・・。

その後、病院のシーンで、お母さんとの思い出を瞳に聞かせるところがよかったです。それで初めて、梶川さんが独身な理由が、わかったというか。

梶川さんはずーっと、瞳のお母さんの思い出をひきずってたんだなあと。もちろん、頭では整理された過去の話なんですが、感情の面で。どうしてもわりきれないところがあったんだろうなあ。

お互いに嫌いになって別れたなら、すっきりですけど。そうじゃなくて、好きでも別れざるを得なかったら、そりゃあ忘れられないと思う。

梶川さんは、自分が瞳に誤解されたまま悪者になってることには頓着しなかったでしょうが、瞳が真剣に自分をみつめる目にほだされて、本当のことを話す気持ちになったんでしょうね。

その前に、梶川さんが「人間には回復する力がある」みたいなことを話していたけど、それをなにより裏切ってるのが今の梶川さんで、せつない気持ちになりました。回復する力があるって、自分に言い聞かせてる言葉だったのかもしれません。そう言って、自分を騙すようにして生きてきたのかなと。

その後、キスシーン。

生生しいというか、赤面するくらい長くて、アイドル相手にいいんだろうかというようなキスでしたが。

私はこれ、瞳にキスしたんじゃなく、瞳のお母さんにキスする気持ちだったんだと思いました。時を超えて、封印していた記憶が蘇って、気持ちが高ぶったというか。あくまで、瞳に対しては恋愛感情とか、ない気がするのです。可愛いとか、愛しいという気持ちはあったとしても。

空港の別れのシーンにも、それは表れていたように思います。きっぱりと別れを告げて、すっきりした顔で颯爽と去っていく瞳に対して。梶川さんも、やれやれ、と苦笑しているように見えました。

そして、きっと梶川さんも、瞳のことは遠い記憶にしてしまうだろうなと、そんな気がしたのです。少なくとも、引きずったり、傷つくことはなかったでしょう。つまり、そういうことで。

梶川さん、優しい人だなあと思いました。瞳に対しては、最初から最後まで本当に、包みこむような愛情で。無茶をする瞳に対して、恐い姿を見せたりもしたけど、それもまた瞳のためを思ってのことだと。

むしろ、恐い思いをさせたのは愛情かもしれません。そうでもしないと、瞳はいずれまた、無茶をやらかすかもしれないし。そのとき相手は、梶川さんではないわけで。そしたら傷つくのは瞳なわけで。

エンディングに流れる主題歌がまた、よかったです。

>もとのわたしに もどれなくても

>かまわないから 抱きしめてとだけ

瞳の心情、そのまんまだなと思いました。心に残る映画です。

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