『ニューヨーク恋物語』感想

 『ニューヨーク恋物語』を見ました。昔のドラマなので、今見ると出演者がみんな若い、若い! 以下、ネタばれありますので、ドラマを未見の方はご注意ください。

 主人公の芽野明子を演じる岸本加世子さん。演技もお化粧も、濃い感じです(^^) 真っ赤な口紅には、時代を感じました。たしかに昔は、こういうはっきりした色の口紅流行ったなあ。

 そして明子が恋する謎の男、田島。田村正和さんが演じてらっしゃいますが、これがまた、えらくカッコイイのです。なんだこの不思議なオーラは?というくらい、ニューヨークの街が似合ってらっしゃいます。

 なんだろう。負けてないっていうのかなあ。あのエネルギッシュで洗練された街に、すっと溶けこんでるのがすごいです。その街で生きる人、そのものになりきっていて、それがいいんですよ~。さまになってます。

 このドラマ、明子は田島に惚れこんで、仕事もなにも投げ出してしまうほど尽くすのに、結局、田島は明子に感謝以外の気持ちを抱かなかった、というところが、せつなく、またリアルでもあります。

 実際、田島が実在するとしても、明子のようなタイプには惚れなかっただろうなあって思う。

 明子本人にも、それがわかって。悲しいけれど、彼女は自ら別れを選ぶのです。アル中で廃人のようになった田島を、立ち直らせた彼女は、また独りで日本へ帰っていきます。

 

 明子が自分でも言っていた通り、田島は明子に感謝はしていたけれど、それは恋愛感情ではなかった。
 もうこれは、どうしようもないですね。好きになろうとして、好きになるものではないし。恋愛って、どうしようもない、自分でも自由にならない感情の流れだから。

 明子がずっと田島と一緒にいたら。
 延々と嫉妬し続けることになったと思います。田島が惹かれる女性、すべてに対して。

 ドラマを見ていて。もう、最初から最後まで、明子に恋愛感情を抱かない田島と、そんな田島を好きになった明子の、すれ違いぶりが明らかでしたね。
 うわー、これはせつない、と思いながら見てました。

 どんなに好きでも。もうこれは、理屈じゃないんですね。田島にとっての恋愛対象にはならないんだから、どうしようもない。
 彼は、助けてくれたことには、感謝してると思います。田島は明子を、恩人だと思っているでしょう。もし明子が困って助けを求めることがあれば、全力で助けてくれると思う。でもそれは、恋人の窮地に心を痛める男性の視点では、ないんですよね・・・。
 あくまでも、恩人に対しての、感情しかない。

 友人のような、パートナーであろうとする田島と。
 恋人同士になりたい明子と。

 埋まらない溝が、悲しかったです。

 

 最後、明子が日本に帰ったのは、大正解だと思いました。このまま田島の傍にいれば、つらい思いをするだけだから。

 そして別れ際、最高の思い出をくれた田島は、優しい人です(^^)

 決して、本心からの言葉ではないけれど。飾り物の甘い囁きをくれたんですよね。

 きっと、明子が欲しかったであろう言葉。

 もうあの場では、いいんです。明子もわかってるから。それが嘘だって。でも、いいじゃないですか。二人はもう会うこともない。最後に、明子が望むなら甘い言葉のひとつやふたつ。

 明子の意向に副おうとする田島。
 素直に受け入れる明子。

 去って行った明子に、涙する田島。
 でも・・・その涙さえ。恋人に対する涙ではなかったと、私は思います。どん底の自分を、全力で救ってくれた親しい友人、深く関わり合った人との別れの寂しさ、なのだと思うのです。

 タクシーに乗った田島。サングラスで瞳の表情は見えないけれど、運転手に行き先を告げる声はすでに、過去を振り切っており。

 井上陽水さんの名曲『リバーサイドホテル』が流れだす頃には、田島にはまた新たな、明子のいない日々が、始まろうとしていて。

 心に残るドラマでした。 

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