ドラマ『ガラスの家』最終回を見ました。以下、感想を書いていますが、ネタばれしていますので未見の方はご注意ください。
最終回はやはり気になる…ということで、見ました。いいなあと思うシーンも確かにあったのですが、全体的な感想としては、「もったいないなあ」です(^^;
設定とかキャスティングはかなりよかったと思うのですが、話の筋のところどころが、ちょっとなぜそこにいく?みたいな感じで、入りこめなかったり。
じっくんの言う悲劇、のスケールのあまりの小ささに、最後までどんでん返しを期待してしまったりとかね。
だって、村木という政治家に裏切られたことが、そんなに悲劇だとも思えなくて。就職先がひとつつぶれたとか、信じていた人にいざとなったら知らん顔された、とか、それを悲劇と呼ぶのだろうかっていう、ね。
それが、あの崖の上での悲愴な二人の姿とは、どうしても結びつかない。
あんな表情で立ち尽くすには、もっともっと、なにかすごいことがあったはずなのに。
崖のシーンそのものは、映像として美しかったと思います。
黎ちゃんに呼ばれて、振り向いた瞬間のじっくんの顔がよかった。巻いてたストールの、繊細な感じが印象的で。あれはじっくんの内面を表していたのでしょうか。演じていた斎藤工さんはモデル出身だそうですが、まさにモデル、という感じでした。その瞬間が、絵になっていた。
このドラマ、最初に斎藤さんの演じるじっくんを見たときには、全くなんの魅力も感じなかったのですが、回を重ねるごとにどんどん魅力的な男性になっていきましたね。
>ぼくは、お父さんのいい息子でいられなかった
このセリフは、ぐっときたなあ。
仁志は本当に今までいい子で来たと思うので。一般的に父と息子の対立は、息子の成長過程に必要な通過儀礼のようなものとはいえ、いい子の仁志が父を傷付けるような行動に出たこと、そりゃあもう、本人の中ではものすごく葛藤があったんだと思います。
黎さんのことも。公務員改革のことも。
それこそ何百回も、心の中で自問自答していたと思うのです。本当にこれでいいのだろうか。自分は間違っていないだろうかと。父と対立して選んだ自分の道が、正しいのかどうか。そんなものに答えはないからこそ、悩むわけです。数字で結果が出る問題でもない。答えは自分の中にしかない。だからこそ、なかなかふっきれない。
なにもかも失くした(実際には、要は仕事を辞めて恋愛もうまくいかなかった、ただそれだけなんですけどね)と思いこんで深く落ち込んだ仁志が、最後に辿りついたのが、飛行機事故のあの崖だったというところが、泣かせます。
小さな頃にお母さんを亡くして。傷付いたのは黎ちゃんや、かずさんだけじゃない。仁志はお母さんに会いたかったんでしょう。
私は以前の感想で、黎ちゃんとかずさんが惹かれあった理由のひとつに、同じ悲しみを共有できたから、みたいなことを書いたんですけど、それを言うなら仁志にもその資格はあるんだと、あらためて気付きました。
黎ちゃんと生きていくことを決めた仁志。黎ちゃんと再会した(黎ちゃんが追いかけて来てくれた)からだけではなく、その再会の場所が、あの崖だったというところがポイントだったかも。まるで亡くなったお母さんが後押ししてくれたような、そんな気持ちになったから、黎ちゃんとの新生活を始める勇気がもてたのかな。
私が仁志というキャラを好きになったのは、一貫した「静」の部分ですね。特に、黎ちゃんが仁志の部屋を訪ねてきたときのシーンに、彼の良さが表れていたように思います。
激昂しなかったから。
普通、もう少し荒れると思うんですよ。ああいう風に、いままでずっと拒絶されてきた黎ちゃんがいきなり、ぐいぐい迫って来て。180度態度が変わったら、もっと感情的になるんじゃないでしょうか。
俺がこんな状態だから、同情してるのかよ?みたいな。
そういう黎さんを素直に受け入れない、だけでなく。怒りの方向に、エネルギーが向いちゃいそうな気がするんです、普通は。自分への苛立ちも含め、黎さんに当たってしまってもおかしくない。でも仁志は静かだったなあと。
そもそも、訪ねてきた黎さんを部屋に入れてあげるという、地味な優しさだとか。私が仁志だったら入れてないです。なにを今更?と思うし、会わせる顔なんてないし、会いたくない。堕ちた自分を、みせたくない。黎さんがいつまでもドアの外で粘ったら、私だったら怒っちゃうかもしれない。いい加減にしてくれ。もう帰ってくれと。
部屋に入れてあげたのは、黎さんに対する優しさ以外のなにものでもないわけで。あのとき、仁志が黎さんに会いたかったとは思えないから。
一方的なこと言われて、いろんなことまくしたてられて。きっと仁志には仁志の言いたいこともあっただろうけど、それ以上に彼はあのとき、一人になりたかったはず。
では次に、かずさんについて語りましょう。最終回で際立った、かずさんの名セリフはこれ。
>君はなぜ仁志を好きになった?
離婚届をもらいにきたという黎に、そう尋ねたかずさん。直球すぎて、その向こうにかずさんの悲しさが透けてみえました。
うんうん、そうだよねー、気になるよねー。自分のなにが負けていたのだろうかって、聞きたくなるよね。答えは黎さんしか知らないんだから。でも黎さんにだって、本当のことはわからない。
なんだかわからないけど好きになる、それが恋愛だもんなあ。
私はこのセリフのときの、藤本隆宏さん演じる一成さんの声が好きです。やっぱりこの声も、静かなんです。いろんな思いをぐっと封じ込めた、とても静かな声。怒ったり、問い詰めたりはしていないのです。ただ、静かな問いかけ。
このときのセリフと対照的なのが、以前、黎さんを追っかけてたときのじっくんの声だったりします。ドア越しの告白。ドア開けてさえもらえないのに。
>身勝手でもいい。それでも黎さんが好きだよ
このセリフからあふれ出る仁志の若さと、かずさんの理性で感情を封じ込めた感じが、見事に対照的なんです。二人の個性の違い、年齢の違い、それが声に表れている。
声って大事だな。声にはどうしようもなく、心が表れてしまう。
このドラマは素敵なキャスト、たくさんの可能性を秘めた設定だったのに、最後は消化不良で終わってしまった感じがします。
たとえば残念だったのは菊池桃子さん演じる尾中が、あまり活躍しなかったこと。もっといろいろ話の筋にからんでくるかと思いました。不思議なキャラで裏がありそうだったのになあ。
それからかずさんも、もっと豹変するかと思いました。そのことでさらに家族がバラバラになり、黎さんや仁志が苦悩する展開かと思いきや、かずさんは意外に、最後までいい人…。
仁志を海外に異動させるときも、異動先がイギリスだなんて、親の愛以外のなにものでもないかと。むしろ出世コースに思えました。
あと、梅舟惟永さん演じる芥川賞作家の後藤に関しては、セリフにも行動にも全く共感できず、見ていて不快感だけが残りました。兄が無理だから弟にっていうのが、本当に理解できないです。受け入れる弟の気持ちもさっぱりわかりません。後藤とけんちゃんのコンビは、物語の中でむしろ、お話の興を削いでいたように思えました。
後藤とけんちゃんの仲を認めないかずさんは、ものすごくまともな親ではないかと思います。
結局もう少し、かずさんとじっくんの対決を違う方向から描いていたら、物語はもっと深くなっていたのではないかと、そんな気がするドラマでした。