※文中に一部、『ダンス・オブ・ヴァンパイア』のネタバレにもつながる箇所がありますので、未見の方はご注意ください。
悲しい夢を見て、泣きながら目を覚ました。起きてひとしきり泣いた後、頭の中でダンス・オブ・ヴァンパイアの『抑えがたい欲望』という曲がぐるぐる回っていた。相当、あのミュージカルにはまってしまったみたいだ。この舞台、見終わった後の余韻がすごい。じわじわひたひた、確実に押し寄せてくる感じ。その力強いエネルギーに、自分の心が触発されたのを自覚した。
クロロック伯爵。そしてあの詞。あの曲。心にぐさぐさ突き刺さります。誰もいない、月も出ない闇夜で、回顧する幸福な過去の情景。
そして静かに、だけど確信をもって断言するんですよね、伯爵は。神はいないし、奇跡もない。最後に残るのは欲望だけだと。
なんだかねー。この伯爵という人物に、やけに感情移入してしまう自分がいます。この人は傍から見ていて、とても余裕しゃくしゃくなお人なんですけれども。全部を手に入れて、もうこれ以上は欲しい物ないでしょ?ってくらい頂点に立ってるのに、どうしようもなく空虚。それが、ぞっとするほどの孤独感につながっている。まして、この人は永遠を生きてる人なわけで。
終わりがないままに、満たされない心を抱えて生きるのはどんな気持ちだろうか?と思ったりします。
神はいない、と言いきる絶望。これは相当ですよ。だって、神様がいないと考えるのは怖いですから。でもそう言いきるまでに、彼はどれだけ繰り返し失望してきたんだろうと思いました。
信じて、でも駄目で、信じて、でも駄目で、何度も何度も、繰り返しそれを学習してしまって辿り着いたのがその結論なのだとしたら。
クロロック伯爵が欲しかった救いは、大仰なものではなかったはずです。自分の感情を共有する相手。でも、それだけがどうしても手に入らない。他のものはなんでも叶うのに、素朴で単純で、純粋な願いだけがいつも打ち砕かれる。
物質的なものを充たすことより、精神的なものを充たすことの方が難しい。心の本質って、いったいどこにあるんだろう。気持ちはどこからやってきて、人間の行動を支配するんだろう。
クロロック伯爵に永遠の幸福などないと断言されてしまうと、とても悲しい。なんだかね、ミュージカル見てるうちに、すっかり伯爵に魅了されてしまって、言うことに信憑性を感じてしまうから。そんなこと言わないでよと思いながら、同時に深く納得している自分がいます。続かない幸福は、いっそ最初から存在しない方が楽なのです。幸福の甘美な味を知ってしまったら、失ったときの喪失感は大きい。
欲望に従えってどういうことかなあと思います。欲望は私にとって罪悪感とワンセットなのです。楽しいことだけが続くのは申し訳ない。苦しい思いや我慢をしなくては罰が当たるって、心のどこかでずっと思ってきたような。
欲望っていうと、字から受けるイメージがネガティブなものですが、「自分の心が本当に欲しているもの」と考えると、ずいぶん印象が違う。自分の心が本当に欲しているものはなにか、あんまりそんなこと考えたことなかったなあ。深く、深く、自分自身に問いかけてみると、今まで見えなかった自分が見えてくるような。
遅発性の毒のように、伯爵の言葉が効いてきます。
単純に笑っちゃうおもしろいミュージカルでもあるのですが、そこにこめられた多くの暗示が、静かにじわじわ侵食してくる感じ。
ああ、私このミュージカルが好きだ、と強く思った朝でした。