ダンス・オブ・ヴァンパイア観劇記 その11

 7月18日マチネ。帝国劇場で『ダンス・オブ・ヴァンパイア』を観劇してきました。以下、ネタバレも含んでいますので未見の方はご注意ください。

 仕事の調整をしながら連日の観劇、さすがに疲れがみえてきました(^^;今日は少し体調が悪く、一幕の途中で帰ることを検討するくらいでした。でも久しぶりの良席。一階前方下手で見られるのは限られた日しかありません。

 見ているうちに、だんだん私の体調も回復。恐るべし、ヴァンパイア効果。カーテンコールの頃には、8割方回復です。最後まで見られて本当によかった。「抑えがたい欲望」が聞けて本当によかった。

 今回気付いたのは、教授の台詞違い。わざとなのか、アドリブなのか、うっかりなのかは不明。いつもと違うところが少なくとも3箇所。その1つで特にドキドキしたのが霊廟シーン。「早く私を・・・」の台詞を、本来言うべきタイミングよりずいぶん早く言ってしまって。その言ってしまったタイミング自体は、話の流れからいって全然おかしくはないのだけれど、そこでその台詞を言ってしまうと、本来言うべきタイミングのときに空白ができてしまうわけで、作詞するのかな?と注目して見守りました。

 結局、先ほどと同じ台詞を少し装飾するような形で言っていました。違和感なし。さすがプロです。

 プロと素人の差って、なにかアクシデントが起きたときに現れるのかなあと思いました。前回の山口さんもそうだけど、台詞がとんで頭が真っ白になった状況でも、全然慌てない。その場で登場人物になりきっていれば、なんらかの言葉は勝手に出てくるわけです。もちろん、台本にはない、自分というフィルターを通したものですけど。堂々と、観客に気付かせることなく演じきるというのは、さすがプロの技だと思いました。

 山口さんは、「抑えがたい欲望」の最後、ブレスを入れずに一気に歌いきっていました。ここ、ブレスを入れるパターンと入れないパターンと、その日によって変えてるみたいなんですが、私は入れないパターンが好き。限界まで細くなった声が、途切れることなくふわーっと広がって豊かに爆発する、その一連の流れが好きです。これができるのは山口さんしかいないから。

 久しぶりの前方席ということで、表情がよく見えました。やっぱり「粉々になって」「お前を呼んでる」のときの表情は素晴らしいですね。あと、牧師の娘のときに下手からよく見えるお顔が・・・極上でした。噛み付き前後にサラを抱きしめる腕や手の動きは、あんまり色っぽくなくて、いかにも「お仕事です。きれいにみえるようにがんばってるよ!」というのが伝わってきて、微笑ましかった。遠くから見るとセクシーですが、近くで見ると計算がみえる。感情におぼれず仕事に徹する、これもプロの仕事ですね。まあ、いちいち若い娘さんに反応していたら、役者の仕事なんてやってられないとは思いますが。

 サラと見つめあうシーン、かすかに首を傾ける顔がこの日の一番の衝撃だったかもしれません。もうね、なんて顔するんだ・・・というくらい優しいお顔。下手はその顔がよく見えるので、釘付けでした。

 同じ事を考えていたのは、私だけではなかったはず。なぜなら、伯爵がニコッと微笑んだ瞬間、私の周囲の観客から(複数)ため息のような、悲鳴のような小さな声が漏れたから。あの表情をまともに見てしまったら、みんな同じこと思うんだろうな、という実感がありました。

 不気味だの、恐怖を与えるだの、そういう従来の吸血鬼像とは全く違う。なんて明るく優しく笑うんだろう。その一方であの「抑えがたい欲望」を歌うんだから、内面に抱える闇はどこまでも深い。先にあの歌を聴いてしまっているからよけいに、あんなふうに微笑む伯爵を見てせつない気持ちになるのです。

 「昼間は何にもできません」は、やっぱりさらっと流してました。これからはこのパターンでいくんだなあと思いました。あそこは、遊び過ぎないようにしているのかも。その後のアルフレートへのお説教へつながる流れを作るために。

 スポンジを取ろうとすがる、アルフレートをはねつける動作が好きです。格の違いを見せつけている感じで。あの動作一つを見ても、伯爵とアルフの勝負の行方がわかる。あの伯爵に勝てるわけがない。サラもアルフも、伯爵の手の上で踊らされる。

 「欲望に従え」という言葉、今の私にはずっしり響く言葉です。変な意味でなく、自分が本当に好きなこと、やりたいことはなんだろうなあ、て考えるのです。今年に入って、運命の流れがずいぶん変わってきたことを実感するけれど、今この時期に、こういう作品が上演されて、それを見ることができる状況。

 これも一つの必然かなあと思うのです。我慢することは得意だしずっとそうしてきた。欲望に従う、なんてもっとも自分がやってはいけないことのような気がしていた。でも、それは違うんじゃないか?

 日々「欲望に従え」という伯爵の甘い歌声を聴き、フラフラと帝劇に通いつめながら、真剣に考えています。

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