私は美しい詩に出会うと、それだけでうっとりして夢心地になってしまうのですが、英語でそういう言葉に出会うことはなかなかありません。
やはり母国語ではないので、どうもピンとこないのです。
でも、この詩にあったときはそのみずみずしさに驚きました。
伊藤園のお~いお茶新俳句大賞。第八回英語俳句の部で大賞をとった作品です。作者はShoko Nozawaさん。
soft distant music
flowing from the room
in butterfly lines
(直訳:やわらかい音楽が遠い部屋から流れてくる…蝶が舞うように)
この詩。英語と日本語を並べてみても、はるかに英語の方が質がいい。日本語の直訳はなんてことのない言葉の羅列ですが、この英語の方は・・・。
一つ一つの言葉はありふれているのに、それを並べたときに新しい世界が開ける。どうしてこんなに心に響くのか、不思議な位です。選んだ言葉、並べた順番、それが詩という形になったとき、一つの物語になるのですね。
soft distant music という言葉に、 私はピアノの音を連想しました。自分が大きな洋館の応接間にいて、人を待っているのです。すると、どこからか柔らかなピアノの音が聞こえてくる。隣の部屋か、それとももっと遠くの部屋か。誰が弾いているのかもわからず、ひそやかにその音は忍び込んでくるのです。明るい、午後の陽射しが差し込む応接間。レースのカーテンの向こうに、緑が見えます。そしてのどかなピアノの音は、押し付けがましい強さではなく、ゆったりとその場を満たすのです。
in butterfly lines この言葉には酔いますね。buttefly lines 目には見えない音なのに、それが蝶のようにひらひらと舞う幻覚。音が踊っている。小さな妖精が、楽しげに羽ばたくように。なんて平和な情景だろうと思います。金色の、蜜を溶かしたような甘い空気。
作者は、お名前からすると日本の方でしょうか。やっぱりなあと思ってしまいました。日本人の感性は、外国人とはやはり違う部分があると思うので。日本独特の匂いを感じました。もしかしたら帰国子女の方かもしれませんが、少なくとも、日本で一定期間生活をしたことがある人が書いた詩だと思うのです。
いい詩は、鮮やかなイメージを喚起します。こんなに短い言葉の中に、どれほど多くの映像がつまっていることか。この詩を読むと一瞬、自分がその場にトリップしたような感覚に襲われるのです。