ダンス・オブ・ヴァンパイア観劇記 その21

 8月17日ソワレ。帝国劇場で『ダンス・オブ・ヴァンパイア』を観劇してきました。以下、ネタバレを含む感想ですので、舞台を未見の方はご注意ください。

 今日の席はS席前方の上手です。前方席で見るのは今日で最後なので、舞台の映像をしっかり記憶に焼きつけておこうと気合を入れて出かけました。

 本日は剱持たまきサラ&泉見洋平アルフレートという私の好きな黄金コンビ。特に泉見さんが絶好調でした。この舞台が始まったばかりの頃は、ここまで熱く演じてはいなかったと思うのですが、発散するエネルギーがすごかった。

 前の方で見るとよくわかるのですが、表情がくるくる変わる。教授の横でニコニコしてたかと思うと不安な目をしたり、大げさにおどろいたり、サラにぽーっとなったり。とにかくひとときもじっとしてない。落ち着いてない。飽きない演技です。

 教授を吹雪の中で探す場面、新聞記事の見出しを想像して自分のことを「優秀な助手、アルフレート」といって喜んでいるときの表情がおもしろかった。能天気というかなんというか、自分も教授も命の危険にさらされてるのに、それでいいんかい!と突っ込みたくなりました。

 そんな駄目駄目くんな泉見アルフを見ていたら、彼を誘惑する伯爵の気持ちが少しわかったような気がしました。たぶん、伯爵はアルフのだめっぷり、お人よしっぷりに苛立たしさを感じたと思うのです。特に、教授に対する盲目的な信奉ね。教授は自分で思っているほど優秀な学者ではないのに、泉見アルフはもう、疑うことを知らない。インプリンティングされたアヒルの子供みたい。

 もしもし?君ね、わかってんの?君の信じるあのお人はね、君が思っているようなお偉い学者さんなんかじゃないのよ。

 伯爵の心中に、そんな言葉が浮かんだことは想像に難くありません。

 教授と一緒に楽しげに踊っているアルフを見て、私もそう思ってしまいました。

 以上のような状況をふまえて、伯爵のアルフ誘惑の歌を聴くと、また一味違う感慨があるのです。「老いぼれに頼るな 愚か者に従うな 決して奴には理解できない」これは、伯爵の本心だと思いました。ところでスポンジを扱う伯爵の手つきが妙に妖しくて・・・。これってそういう意味?暗示なのか?だとしたら、本当に大人な舞台ですね。要所要所にいろんな意味がある。

 伯爵が歌うときの独特の手の動き。これは批判の声の方が多いみたいですね。しかし私はこの動きが好きなのです。逆に、この動きがないと落ち着かない。あの歌とあの手振りはセットでないと嫌なのです。一幕の最後、「解き放て今つかめ自由を」のところなんて、あの手が催眠術の役割を果たしていると思う。目が釘付けでした。手が、言葉を語ってる。あの手の動き、説得力があります。

 伯爵の手と言えば、もう一つ私の大好きなシーン。それは、教授とアルフがお城で伯爵やヘルベルトと初対面する場面です。伯爵は、息子を彼らに紹介した後くるりと後ろを向きます。そして右手だけを水平に近い高さに上げる。その伸ばした指先の美しさ、です。これは前方席ならではの味わいでした。揃えた指先。伯爵が下手に移動すると同時に、その指先がゆっくりと空気を撫でていく。うっとりして見つめていました。

 伯爵の、サラ入浴乱入シーンですが、久々に笑いました。だって、近くで見るとコメディですよ、やっぱりこれ。いきなり乱入して大真面目な顔で歌ってる。コウモリの羽は、なぜか安っぽく光ってるし。しっかりと裸のサラを見つめながら、「まやかしだぞ 戒めなど」とか、顔だけ見てるとその真面目なところがおかしくて、おかしくて。あなたのやってること、のぞきですから(^^;「私こそ待ちわびた天使」だなんて、天使はお風呂場を覗きません!!

 周りの観客が全員、真剣に伯爵の歌に聴き入ってる状況がまた、笑えました。真剣なのぞき。そしてそれを真剣に見つめる観客。

 歌だけ聴いているとたしかに、すごく魅力的で、聴きほれてしまうのも無理はないと思います。でもあの状景を見たら、歌とのギャップがすごすぎて笑ってしまう。山口さんも、意識してわざといつも以上に真面目な顔をしているのではないかと思いました。あそこは、山口さんの中で、コメディという位置付けなのだということを確信しました。

 

 

 二幕で特筆すべきは、泉見アルフの「サラへ」。今まで見た中で、一番の熱唱だったかも。一幕であんなにも子供っぽく、頼りない存在だったアルフが、全身全霊で歌い上げるサラへの思い。感動してしまいました。成長してます。演出家の山田さんが、この舞台を「少年の成長物語」と位置づけていたのは、このことだったのかなと思いました。今日の「サラへ」を歌っていた泉見アルフは、立派な青年でした。頼もしいと思ってしまった。

 誰かを守ろうとするとき、きっと人間は強くなるのですね。自分ではない誰かを意識して、その人のためなら命をかけるという決意をするとき、少年は男になる。あの歌は女性には歌えない歌だなあと思いました。最後の絶唱なんて、アルフの全身が燃えているように見えてしまった。体の奥底から、アルフの激しい思いがあふれて、それがライトに照らされて燃え上がっているようで。鳥肌が立ちました。

 

 剱持サラは、声と雰囲気の透明感は素敵なのですがもう少し声量が欲しい。泉見アルフの熱唱を見てしまうと、伯爵とサラのデュエットが物足らなく思えてしまって残念でした。声量があれば、もっと迫力が出ます。表現力はあるのに、声量が追いついてない。肺活量や声帯といった、先天的なものだから仕方ないのかな。これは、練習でどうにもならない部分なのだろうかと考えてしまいました。

 伯爵とサラのデュエットといえば、「いけない理性を持て」と言った次の瞬間、サラに顔を寄せる伯爵が面白かった。この早業。自分で言ってるのにね、理性を持てってさ。言ってから一秒もたたないうちにもう、欲望に負けそうになっているところが笑えます。そんなに面白い伯爵なのに、サラをすっぽりマントで包み込んで去っていく姿は非常にかっこいい。なんなんだ、この人は。そんな伯爵だからこそ、サラも、そして観客も引き込まれてしまうのですね。

 ちょっと長くなりすぎましたので、続きはまた明日書きます。

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