岡さんとアンジョルラス

 もうすぐ日生劇場でまたレ・ミゼラブルが見られる。東宝のHPで岡さんがアンジョとして歌っているシーンを動画で見ました。そして思いました。

 岡さんは、本当はジャベールじゃなくてアンジョルラスなんだなあ。

 赤という色も似合うし、私が描くアンジョ像とかなり重なりました。ぜひアンジョルラス役で、舞台の上で見てみたいです。別に年齢が上だって、アンジョ役はやれると思う。サカケンアンジョも好きだけど、岡さんの方がもっと、アンジョらしいアンジョのような。

 若さという点では、他の人に軍配が上がるかもしれませんが。私が思うに、アンジョルラスにはブルジョワちっくな匂いがあるはず。岡さんにはそういう匂いを感じます。

 現在のジャベール役者の中では岡さんが一番好きだけど、ジャベールがひきずっているはずの影を、岡さんには感じない。そういう意味ではキャラ違いなんだろうなと思いました。きっとご本人も、どちらかを自由に選べるとしたらアンジョルラスの役の方を選ぶのでは?と思いました。

 ジャベール役に欲しいもの。暗さ。コンプレックス。融通のなさ。余裕のなさ。無骨さ。そういうものを満たして、かつ歌がうまい人は誰かなあと考えてみました。ちょっと今のところ思い浮かびません。

 ジャベールは雑草のイメージ。スマートな役者さんには似合わない役です。

2005年 レ・ミゼラブル観劇記 7回目

 レ・ミゼラブルを見に行って来ました。以下、感想です。ネタバレも含んでいますので、未見の方はご注意ください。

2005年5月8日(日)17時 帝国劇場

 私が持っているチケットは、これで最後。最後のレ・ミゼラブル。MY千秋楽。気合を入れて見ました。カード会社の貸切で、上手のわりと前方席。今回は、花はもらえませんでしたが、役者さんの表情や動きはよく見えたので、大満足です。

 なによりも、山口祐一郎さんが絶好調だったということ、そして司教さまが、高野二郎さんだったということがうれしかった。高らかに歌い上げる声。「あなたの魂、私が買った」を聞いたとき、絶対に高野さんだと確信しました。幕間に香盤表で確認したら、やっぱりそう。高野さんの声にこめられた厳粛な響きが好きです。これがあったからこそ、バルジャンは更生できたと思う。一人の人間を生まれ変わらせるにふさわしいパワーを持った声。バルジャンはきっと、雷に打たれたような衝撃をおぼえたはずです。

 ファンティーヌ役は、シルビア・グラブさん。私には、高嶋さんの婚約者という知識しかなくて、どんな方かなあと楽しみにしていましたが、わりと低い声でびっくりしました。井料さんやマルシアさんとは、全然違う個性です。とても上手に歌いあげていました。ただ、残念だったのは、終始悲しい声だったことかな。「夢やぶれて」を歌うとき、昔の楽しかった時代を思うときには、夢見るような響きがほしかったです。楽しかった過去を思い出し、うっとりするような声で歌った後で、厳しい現実を絶望的な声で歌った方が、メリハリがでていいと思うのですが。そういう点では、やはり山口さんは年季が入っている分だけ、上手ですね。

 二幕の最後、たった一人で死を迎えようとするバルジャンが、幼いコゼットをひきとった昔のことを思い出すとき、声が微笑むんです。もうおじいちゃんだから弱々しい声なんだけど、幸福な思い出に微笑んでいるのが、声だけでわかる。そういう微妙な表現が、山口さんは本当に上手だと思う。

 テナルディエの佐藤正宏さん。芸達者ですねえ。歌よりも、細かい動作や表情がすばらしかった。さすがワハハ本舗を率いている方だと思いました。存在そのものがコミカルです。最初の酒場のシーンはもっとはじけてほしいなあという気がしましたが、舞台が進行するにつれて、どんどん調子が上がってくる感じでした。声は少し濁るようなイメージで、それがまたテナルディエという役に合っていると思いました。

 アンジョルラスは東山義久さん。立ち姿がとてもきれいでした。ただ、声はどうしても坂元健児さんと比べて、物足りなく思ってしまう。すみません。私見です。一度坂元さんのアンジョルラスを聞いてしまうと、他の誰を聞いても物足りなく思ってしまうんです。「群れとなりて~」の響きが、とにかく圧倒的だから。

 グランテールは伊藤俊彦さん。この方のグランテール、好きです。お酒を飲みすぎたような声だとか、一人孤立したような存在感だとか、とにかく際立っている感じがします。ガハハっと豪快に笑うイメージなのに、最後バリケードを駆け上がっていくシーンはせつなくて。アンジョルラスを見つめる表情もいいですね。

 ガブローシュ君は、とにかく歌も演技もうまくてびっくり。今期の子役は、みんなうまいです。いつも感心してしまう。

 エポニーヌは笹本玲奈さん。可愛いエポニーヌでした。アクが少し足りないかな。エポニーヌの気の強さがもう少し前面に出てくると、もっといいのになと思いました。新妻聖子さんが完璧に演じてしまっているので、それを見た後だと少し、物足りなく感じてしまう。

 そしてマリウス。岡田浩暉さん。うわー、なんていい人なんだと叫んでしまいそうなマリウスでした。とにかく、いい人オーラが輝いている感じ。エポニーヌに髪を触られて嫌がるシーンも、他のマリウスは冷たい感じなのに、岡田マリウスは優しい感じだし。コゼットに一目惚れしてからは、ふわふわしてどこかへ飛んでいってしまいそう。可愛いです。

 コゼットは河野由佳さん。高音がとてもきれいで、存在自体に品があります。深窓のお嬢様というのはこういう感じの方なんだろうな、と思いました。いかにも、バルジャンの箱入り娘という感じです。岡田マリウスとはお似合いでした。

 一幕の最後、再び逃げるように旅立とうとするバルジャンが、昔の思い出の品を大事そうにトランクへしまうシーン。私は今までは上手の席に座ったことがなくて、よく見えなかったのですが。なにをしみじみ眺めているかを知って、胸が熱くなりました。コゼットの帽子(たぶん)。お人形。そして十字架。銀の燭台。特に、十字架を握り締めて「明日は~」と歌うところが、泣けました。バルジャンは懸命に生きていた、その一生懸命な気持ちが伝わってきたのです。いつも、十字架を胸に抱いて生きてきたのでしょう。十字架を握り締めることで、清らかな自分を保ってきた。その純朴な気持ちに感動しました。司教様の気持ちは、バルジャンにしっかりと伝わっていました。まるで小さな子供のように、純粋な気持ちで、彼はひたすら司教様の教えを守ってきたのです。

 これで最後・・・と思っていましたが、チケットが手に入ったら、また見に行ってしまうかもしれません。本当に、素晴らしいミュージカルです。

2005年 レ・ミゼラブル観劇記 6回目

 前日の土曜日に続いて、日曜日もマチネを観劇。少々体は疲れていたのですが、今回は2003年から数えても、今までで一番の良席だったので、楽しみに劇場に向かいました。以下感想ですが、ネタばれしてますので、未見の方はご注意ください。

2005年4月17日(日)12時 帝国劇場にて 1階S席

 最初に言ってしまいましょう。初めて、お花をゲットしました。大感激です。前方席だったので多少は期待していましたが、でも、競争は激しいと聞いていたので、諦めていました。出演者の方々が花を投げ始めたときも、それをぼーっと眺めているだけだったんです。そしたら、お花の方から私の膝の上に乗ってきました。びっくりして、呆然とするばかりでした。

 隣に座っていた男性が、一瞬手をのばしましたが、さすがに膝の上のものを取るわけにもいかず、そのままお花は私のものに・・・。

 オレンジのガーベラが一輪と、名前を知らない青と白の小さな花、そして黄色の小花です。今机の上に飾って、うれしく眺めています。運ってあるんですねえ。がんばってる人でも、とれない人はとれないし。もらうつもりがなくても、向こうからとびこんでくることがあるなんて。思いがけないことで、最初は戸惑ったけど、今こうしてお花を眺めているとしみじみ嬉しい。

 初の前方席での感想は、「前方席の人はこんな幸せを毎回かみしめてたのか!」ですね。それはお花ということではありません。俳優さんの表情が、本当によく見えるからです。私は今までB席が多かったので、表情の細かい部分などは全然見えませんでした。でもレ・ミゼラブルは台詞が全部歌で綴られていたし、歌はB席の一番奥でも十分よく聞こえたので、それで大満足していました。

 だけど、前方席の素晴らしさを初めて知って、こんな世界があったのかと新鮮な気持ちでした。当たり前ですが、みなさん細かいお芝居をしてらっしゃるのです。歌に感情をこめるだけでなくて、ちゃんと演技もしてる。

 特に、バリケードのシーンのグランテールには泣かされました。いつもお酒を飲んでいるイメージしかなかったけれど、酒瓶をかかげてアンジョルラスと向かい合うシーンなど、両者の気持ちのすれ違いが伝わってきて、せつないものがありました。アンジョルラスが倒れたあと、狂ったようにバリケードを駆け上がって旗を振ったときには、泣きました。このシーンで泣いたのは初めてです。表情までしっかり見える席だから、伝わってくる情報量が全然違うのですね。

 学生たちも、遠くからみるとひとかたまりなのですが、近くでみるとそれぞれ違う人間で(当たり前といえば当たり前)、彼らが次々と倒れていくシーンは大迫力で、みんなそれぞれ人生がある若者だったのにと思うとぐっとくるものがありました。B席で見るのとは、また違う見方があります。できることなら、いつも前方で見たい・・・・前方がこんなにいいところだったとは・・・・というのが、今日の一番の感想でしょう。

 

 司教様から銀の燭台を渡され、???という表情のバルジャンを見て、思わず可愛いと思ってしまった。人一倍体の大きなバルジャンが、まるで子供みたいに思えました。こういう、歌ではない演技の部分は、やはり前方席でないとわかりづらいですね。

 今日のテナルディエは徳井優さんでした。歌にもっと余裕がでてくるといいなあ、とは前から思っていたのですが、今回近くで見て、やはり動作や表情はすごくうまいと思いました。たしかに、歌はまだ完成系ではないかもしれないけど、存在はすごくコミカルなのです。宿屋のシーン。カモが来た、とほくそ笑むところなんかは、いかにも小悪党という感じ。心根のいやらしさがにじみ出る笑顔で、思わずこちらも笑ってしまいました。悪党は悪党でも、なんというか、大きなことはやれそうもない感じなのです。ずる賢く、たくましく、自分が得することだけを考えている感じ。

 この表情の演技を、歌にも取り入れることができたらすごく面白いと思います。「へっへっへ」という下卑た笑いがこめられたような歌が、聞いてみたいです。

 テナルディエの妻役の瀬戸内美八さん。この方も演技派ですね。近くで表情やしぐさを見ていると、役になりきっているのがよくわかりました。歌以外の面でも、すごく芸達者という感じです。

 カーテンコール、このお二人はお互いにすごく気を遣っている感じでした。こういう悪役をやる人は、素顔はいい人が多いと聞きますが、その通りな気がします。実は徳井さんも瀬戸内さんも、すごくまじめで腰が低い人なんではないでしょうか。そんな印象を受けました。

 ガブローシュ。今日も局田さんではなく子役の男の子だったのですが、今回のガブローシュ役はみんなすごく上手です。歌、うまいです。2003年のときは、子供が演じるガブローシュはあまり好きではなかったのですが、2005年は違いますね。誰を見ても、すごいなあと思います。そのぶん、リトルコゼットちゃんがもう少しがんばってほしい。特に歌。完璧にならなくてもいいけど(コゼットの不安な気持ちを表すためにも)、ん?と感じさせない歌にしてくれたらうれしいです。がんばれ、リトルコゼット。

 ファンティーヌはマルシアさん。2005年にマルシアファンテを見るのは初めてですが、近くで見ると意外に儚い感じがするので驚きました。もう少し、強い感じの人を想像していたのです。歌声も、弱々しい感じで、生命力のなさが表現されてました。そういう点では、ファンティーヌに合っているのですが、なんとなく私は井料瑠美さんの方が好みなのです。どこがどうとは、うまくいえないのですが。敢えて言うなら、バルジャンに頼る気持ちは、井料さんの方があふれている気持ちがして。死の直前のファンティーヌは、たぶんバルジャンに頼りきっていたと思います。バルジャンもそれをわかって、なおさら張り切った部分があると思うのですよね。頼られれば頼られるほど、「この人を救うことこそ、俺の使命だ」、と気持ちは燃え上がったはず。

 そういう儚いファンティーヌ像に、井料さんは合っているような気がします。すごく弱い感じ。保護欲をかきたてられる存在なのです。

 アンジョルラスは坂元健児さん。待ってました。ずっと待ってました。やっと、坂元アンジョに再会できました。やっぱりアンジョルラスは声にパワーがなくっちゃいけません。坂元さんの声には圧倒的なパワーがあって、それはやっぱり際立っています。坂元さんを聞いた後だと、他の人が物足りなくなってしまうのです。「群れとなりて~」だとか、歌い上げるシーンは坂元さんにしか出せない味があると思います。

 司教様。前日に続き、高野二郎司教じゃなかったのがちょっぴり残念でした。高野司教の歌が懐かしいです。また聞きたくなってしまった。いかにも年をとった聖職者という感じの説得力のある声。厳格さと、慈愛をあわせもったその声。

 マリウスは泉見洋平さん。近くでみると、なんとなく知念里奈さんに似ているような気がしました。顔立ちをみると、全体の雰囲気が知念さんに似てる。似たもの同士のマリウスとコゼットのカップル。初々しい雰囲気がいい感じでした。

 近くで見たからこそ、感動が深まったシーンはいくつもあります。たとえば、愛をささやきあうマリウスとコゼットに近付き、「俺のものじゃない」とバルジャンが歌うシーンです。このときの表情に、泣きました。複雑な、喜びと悲しみと入り混じった表情なのです。娘に頼もしい恋人ができたことを喜ぶ一方で、大切な宝物を手放す寂しさをおさえられない、という表情。必死に喜ぼうとしているんだろうけど、快くコゼットを託そうとしているんだろうけど、でもさびしいんですよ。

 山口ファンの私としたら、山口さんにそういう顔をされてしまうと・・・・。やはり泣けてしまいました。ずっと一人で生きてきたバルジャンは、コゼットを育てることで、自分自身も癒されていたんですよね。そしてまた一人になる。それは自然の流れなんだけれど、理性ではわかっていても顔の表情がその理性を裏切っていました。年老いて、とてもさびしそうなバルジャン。この歌のとき、こういう表情をしていたんだなーとしみじみ。

 お前がいてくれるから、静かに死んでいける、と告げるシーン。バルジャンはコゼットではなく、マリウスを見てました(私の見間違いでなければ)。今までずっと、コゼットに言っているのかと思っていましたが、マリウスに言っていたとは。やっぱりバルジャンは頼りになります。マリウスに、コゼットの今後を、しっかりと頼んでいたのですね。さすが、市長にまで上りつめた人だと思いました。死に際し、こう頼まれた以上、コゼットを守り抜かねばマリウスの男がすたります。

 カーテンコール。最近のカーテンコールでは、最後の最後は山口バルジャンにスポットライトが当たるようになりましたね。そういう締めをしないと、いつまでもいつまでも拍手が鳴り止まない。帝劇の広い舞台の上で、白いスポットライトを浴びて歓声に答える山口さんの姿はまぶしいです。役者として、のっている時期というのはこういうことをいうんだと思う。役者という厳しい世界で、ここまで上りつめた影には、人には言えない努力と苦難の歴史があったんだろうなあ。そして今この瞬間、満席の観客の賞賛を一身に浴びて。

 その影に、いろんなものを犠牲にしてきたんだろうなあ、と考えてしまいました。もう平凡な生活なんて無理。そしてたぶん、平凡な、庶民のささやかな幸せみたいなものを望むことも、難しいのかもしれない。ここまで有名になって、注目される存在になってしまっては。だけど役者としては、これ以上はないくらいの幸せを手に入れたんですよね。役者なら誰もがそれを目指し、トップを夢見てる。

 

 いろんなことをしみじみと考えながら、家路についたのでした。

2005年 レ・ミゼラブル観劇記 5回目

 レ・ミゼラブルを見てきました。今週はかなり忙しく帰宅も深夜になることが多かったのですが、週末のレミゼ観劇を、心の支えにがんばった一週間でした。以下、ネタばれしてますので、未見の方はご注意ください。

2005年4月16日(土)12時 帝国劇場にて 1階S席

 友人から譲ってもらったカード会社貸切のチケット。今回は、バルジャン×ジャベールが、私の好きな山口×岡コンビでした。だけど、一幕目の岡さんは、ちょっぴり迫力不足な感じで、あれ? 岡さん? 岡さんだよねえ? と、まるで別人のような気がしてしまった。

 しかし、二幕の独唱では、さすがの貫禄。岡さんのジャベールは、とても冷たい感じがするところが気に入ってます。他の方だと、なんとなく人の良さみたいなものが伝わってくることがあるんですが、岡さんのときは、本当に冷徹な雰囲気なのです。素の岡さんにも、そういう面があるのだろうかと、失礼なことを考えてしまったこともあります。それだけ、独特なんですよねえ。あの空気感は。

 山口×岡のバルジャべコンビは、見ごたえがあります。それだけの力量を持った役者さんで、お互いに何の遠慮もなく、全力でぶつかっている感じ。

 たぶん、山口さんと岡さんは、日常でも、性格は全然違うのではないでしょうか。私は山口ファンなので、岡さんのことはよく知らないのですが、たぶん(単なる私の直感)2人はあまり共通点を持たない人間同士だと思うのです。お互いの感性や、考え方が全然違う感じ。

 舞台の対決シーンなどでは、それがいい効果をあげていると思います。山口バルジャンという男をまったく理解できず、戸惑い、混乱するジャベールがそこにいるから。山口バルジャンも、岡ジャベールを扱いかねて、苛立っているのが客席によく伝わってきます。

 

 エポニーヌの新妻聖子さん。この方の演じるエポニーヌには、隅々にまで細かい役作りを感じます。歌がうまく、歌に関しては余裕があるため、感情表現に細かい気遣いをすることができる感じ。マリウスの前で、精一杯甘えてみせるところだとか、叶わない思いを嘆くところだとか、いかにも女の子、という感じで可愛いです。独唱シーンも、うっとり聞いてしまいました。

 気の強さが感じられる可愛さ、というところがポイントです。弱い子ではなかったと思うので。それなりにつらい経験をしてきて、だけどまだ子供で、マリウスに純粋に心を捧げるところが切ないです。

 新妻さんの歌は、本当にうまいと思う。声の強弱や息遣いなど、惚れ惚れします。

 コゼットの知念里奈さん。前回より、余裕のようなものを感じました。気のせいか、歌がどんどんうまくなっている~。高音、とてもきれいでした。お嬢様というよりは庶民性を感じますが、本来コゼットはそういう女の子だったのかも・・・と思いました。聞いていて、「もっと聞きたい」と思わせる声ですね。個性的で主張があります。無味無臭ではない感じ。どんどん成長して、すばらしいコゼットになる予感がします。

 

 アンジョルラス、岸祐二さん。声の低さが、学生のリーダーにしては大人な感じに思えてしまって、ちょっと違和感ありました。もう少し、若さがあふれる感じだともっとよかったかなと。立ち姿はきれいでした。さすがリーダー。低い声は素敵なのですが、アンジョルラスとしては、なにかが違う感じがしてしまう。むしろ、グランテールとか、どうでしょう? グランテールって、声の低いイメージがあるんですよねえ。お酒飲んでるから、喉も荒れているイメージがあって。

 

 リトルコゼットちゃん。歌が不調な感じでした。残念。歌いながら動作するのは、いろんなところに注意を向けなければならないから難しいけど、次回はがんばってほしいなと思いました。小さい子だから、歌に完璧を求めるのは酷かなと思うのですが、ガブローシュ役の子がすごく歌が上手なので、つい比べてしまう。

 久しぶりに見たレ・ミゼラブル。

 私は2005年のレ・ミゼラブルに関しては、見所の9割を、第一幕に求めてしまいます。あくまで、私は、という話です。他の人は他の人で、それぞれ楽しみにしている見所があると思うのですが、私は一幕の最初から、バルジャンが改心するまでのシーンで、その日の涙の9割は流してます。

 ここのシーンの山口祐一郎さんはすごい、といつも思います。最初の囚人シーンから、もう釘付けで見てます。他の人より、頭一つ高い囚人の姿から、目が離せません。特に改心のシーンは、心にズシンと響く声なのです。「先も見えない闇を這い出そう」ここのバルジャンは本当にすごい迫力。これを歌えるということは、山口さんも地獄を見たことがあるんだろうな、と思います。実際に地獄を見て、そこから這い上がった人なのではないでしょうか。もちろん、経歴は華やかだけど、いろんな紆余曲折はあっただろうし。だからこそこの歌が歌える、という気がするのです。だからこそ、聞くものの心に直接訴えかけてくるなにかがある。

 金曜日の夜くたくたに疲れて帰ってきたので、本当なら土曜は午後まで寝ていたかったのですが、出かけていって観劇したかいがあったと思いました。山口さんの声を聞くと、なにかパワーをもらった気がします。

 せっかく日比谷まで出たので、前から目をつけていたマキシム・ド・パリの期間限定ショートケーキを買ってみた。一個700円という値段に、相当期待を膨らませていたのだが・・・・・ま、こんなもんかなという感じ。たしかにおいしいけど、ちょっと値段が高すぎて気軽には食べられない。国産イチゴを使っているということで、素材に気をつかっているのはうれしい。私は食材はできるだけ国産を選ぶようにしているので、この、「国産イチゴ使用」という宣伝には、かなり心ひかれました。

 逆に言えば、ほかのお店のショートケーキのイチゴは、外国産のものが多いんだろうか。食の安全を考えれば、食品はできるだけ、日本産のものを使ってほしいなあ。

 などと考えつつ、観劇の余韻の中、心地よい眠りについたのでした。

2005年 レ・ミゼラブル観劇記 4回目

2005年3月30日(水)18時 帝国劇場にて 1階A席

 

 山口さん演じるバルジャンに、涙・涙の観劇となりました。泣きすぎて、疲れきって、家へ帰ったらバタンキューで眠りました。

 

 今回の司教さま、なんとなく迫力がないなあと思ったら、高野さんじゃなかった。残念。あの独特の迫力は、高野さんにしか出せないものなのか。今回演じていた方も、決してだめではないんだけど、あの高野さんの声にある「説得力」がないのだ。

 エポニーヌ。見ているときに、「あれ、ANZAさんうまくなったなあ。女の子らしい甘さと同時に気の強さが出てきた?」と思って、後で香盤表を確認したら、新妻さんだった。新妻さんの演じるエポはやはりいい。

 リトルコゼット。今日の女の子は、正直、それほど歌がうまい子ではなかったと思う。でも、そこがよかった。不安そうな、警戒心を秘めた声。リトルコゼットの場合、歌がうまいと逆にダメなんだなあということを再認識した。一生懸命うまく歌おうとすると、その姿勢がコゼットのキャラから逸脱してしまう。

 考えてみると、幼いながらも、テナルディエ夫妻ではなくバルジャンを親として選ぶ決断は、勇気のいるものだ。初めてあった大男のバルジャン。優しい言葉をかけてはくれるものの、彼女はバルジャンを、最初から全面的に信頼していたわけではないと思う。

 テナルディエの元で暮らすことに、限界を感じていたということ。そこが出発点だ。

 山口バルジャンがリトルコゼットに歌う歌は、優しさにあふれていてうっとりしてしまう。森から宿へ帰ってくるとき、慈愛に満ちた声が、テナルディエの姿を見て嫌悪感に変わっていく。取引を終え、「~どこか二人の空」と歌うときの、バルジャンの幸せそうな声。不器用な手つきで、コゼットに旅支度させるときは、いつもどきどきする。間に合わないのではないかとハラハラしてしまう。

 コゼットを抱き上げ、ぐるぐると回転するシーン。いったん下ろして、仲良く手をつないで、それから向かってくる人々の群れから守るように、また抱き上げて去っていくあのシーン。大好きです。

 コゼットを抱き上げて、まっすぐに歩いていくバルジャンの背中が、ことさら大きく見えます。背中で語っているのです。「この宝物を、絶対に守り抜く」と。

 このレ・ミゼラブルという舞台。出ている方々はみな、さすがと思う人ばかりなのですが、舞台というのは不思議なもので、うまさだけではない、なにかキラリと光るものを持った人が目立つのですね。その「キラリ」は、練習すれば得られるものではなく、天性のものなのだと思います。芸術の神様が微笑んだ人には、なにか特別な力が宿るのでしょうか。

 その「キラリ」は心にズシンと響きます。