2005年 レ・ミゼラブル観劇記 3回目

2005年3月23日(水)13時 帝国劇場にて 2階A席

バルジャン=山口祐一郎

ジャベール=今拓哉

エポニーヌ=ANZA

ファンテーヌ=井料瑠美

コゼット=知念里奈

マリウス=泉見洋平

テナルディエ=徳井優

テナルディエの妻=瀬戸内美八

アンジョルラス=坂元健児

司教=高野二郎

 今日の公演は、1900回目の特別公演なのです。その特別カーテンコールを楽しみに、いそいそと出かけていったのでした。以下、ネタバレを含んでいますので、未見の方はご注意ください。

 

 山口バルは今日も絶好調。美声です。その声に包まれると、うっとりしてしまう。大好きな俳優さんだからその声が好きなのか、声が素晴らしいからファンになったのか、自分でもよくわかりません。ときどき、まだ山口さんを知らない真っ白な自分に戻って、なんの予備知識もなくこの公演を見たいな、と思ってしまう。そのとき、自分はどんな感想を持つのだろうか。

 ジャベール、今さんは可もなく不可もなく。ただ、下水道でバルジャンと対決するシーン、バルジャンの迫力がすごくて、それを引き出したジャベールはさすがだなあ、と思いました。あのシーン、ジャベール次第で、バルジャンの反応も違うと思うので。

 エポニーヌのANZAさんは、芝居の一つ一つ、歌の一節一節を、とても丁寧に作りこんでいるんだなと再確認しました。可愛い。個人的には、もう少し蓮っ葉な一面が欲しいです。エポニーヌの荒んだ心を、うまく表現してほしかった。

 ファンティーヌの井料さんは、弱いところがはまり役だという気がします。はかないイメージがある。実際、テナルディエ妻のようなずうずうしさがあれば、もう少し生きられたと思う。生命力の弱さを感じさせる点で、ファンティーヌのイメージには合ってます。

 コゼットの知念さんは、声を聴いた瞬間にびっくりしました。剱持さんや河野さんとは全然違うタイプのコゼットだったので。声に主張があるというか、個性的というか、目立ちます。意志を感じましたね。大人しいだけの、お人形さんじゃないコゼットという感じ。

 剱持さんと河野さんの声は、似ています。その2人の声に慣れていたので、今日の知念さんの声は衝撃でした。

 知念さん、元気があふれていて、いわゆるお嬢さま、というタイプではないです。バルジャンに大切に守られてきた深窓の姫君だけれども、隠し切れない庶民性があふれているというか・・・。品がない(^^; でも、とにかく印象深いコゼットです。忘れられない。心に直接響いてくるような、強い印象のコゼット。これがスターというものなのでしょうか。

 コゼットという役に合っているかどうかは、微妙・・・・かな。知念さんにスターオーラがあるのは感じましたが、それが強いので、全体の調和を考えるとどうかなーという気もするのです。知念コゼットにANZAエポニーヌだと、なにか逆のような感じもするし。

 マリウスの泉見さんは、素晴らしかった。今までのマリウスの中で、一番よかったと思います。なぜなら、コゼットに対する愛があふれていたから。もう、最初の出会い「ごめん・・・」から、魂がみんな、持っていかれてしまった演技が炸裂していました。マリウス、もうコゼット以外は目に入っていなかった。今日のマリウスを見ていたら、エポに対するひどい仕打ちも許せる気持ちになりました。ひどいことをしているといっても、それはもう、コゼットしか見えていないから。恋は盲目とは、よく言ったものです。2003年に見たときには、泉見さんにあまりいい印象はなかったので、その変貌ぶりにびっくり。岡田マリウスよりも、お気に入りになりました。優しいだけでなく、たくましさも感じて。

 バルジャンが大事な娘のコゼットを託すのに、たくましさのない男はふさわしくないだろうな~と思います。守り抜いていかなくては、いけませんからね。その点、泉見マリウスは3拍子兼ね備えていると思うのです。コゼットへの愛情、ふわっとしたお人よしぶり、たくましさ。

 

 たくましさを感じたのは、バルジャンが自分の素性をマリウスに告白するシーン。その事実をしっかり受けとめて、「コゼットのため」と返したマリウスの言葉に、凛としたものを感じました。男として、バルジャンの思いを受けとめたマリウスが凛々しかった。夫となる自覚のようなものを感じました。これから先、コゼットは自分が守り抜くという決意。

 泉見マリウス、2003年とはまったく違う演技だと思いました。

 テナルディエ夫妻。徳井さんは、以前よりは歌に余裕が出てきたような感じです。でも、もっと強さがほしいです。「砦がおちてもおりゃ生きる」と言いきるだけの強さ。滑稽な独特の雰囲気は天性のものがあるのだから、そこに強さ、をプラスしてほしいです。観客が圧倒されるような強さがなければ、テナルディエの個性が生きないと思う。

 ずるく、たくましく、しつこく、です。

 瀬戸内さんも、強烈な個性がないのが惜しいかな。悪くはないけど、特に目立つ点もなく。

 アンジョルラス、坂元さんは、私の中ではミスターアンジョルラスです。やっぱり坂元さんの声の求心力はすごい。ああでなくては、学生のリーダーとはいえません。カリスマ性を感じました。学生たちの歌声が、いつも以上に生き生きと響いていたように思います。やっぱり、リードする声のレベルが高いと、周りもそれに引きずられるのだと思う。ぐいぐいとひっぱっていく坂元アンジョルラスの声が気持ちいい。安心して聴いていられます。

 マリウスと並んだときの、背の高さがちょっぴり残念。もう少し背が高いと、舞台上での見栄えがいいのですが・・・。でも、それを補って余りある、あの声!

 声に若さがあふれていて、情熱があって、そうだよな、若者はこういう存在だよな、と、つくづく思いました。時代を変えるエネルギーを、持っているのです。

 司教の高野二郎さん。朗々と響く声を聴いて、「今日も高野さんに違いない」と思って、後で香盤表を見たらやっぱり高野さんでした。司教さま役、はまり役です。

 ガブローシュは桝井賢斗くん。子役のガブローシュは今まであまり好きではなかったのですが、今日はよかった。高い声が幼さを感じさせて、健気でした。背も小さくて、学生たちに混じると、いかにも子供という感じ。懸命に生きているというのが伝わってきました。

 リトルコゼットの蛭薙ありさちゃん。歌もちゃんと感情こめて歌っていて、いい感じでした。バルジャンにお人形をもらって、ぐるぐるしてもらうシーン、はしゃぐ声がけっこう大きく聞こえて、本当に楽しそうだった。(あのときだけ、成り代わりたかった・・・・。バルジャンのグルグル、羨ましいです)

 特別カーテンコール。山口さんたら「ぼくは・・・」と言いかけただけで、会場からどっと笑いが。48歳にふさわしい一人称って、なんだろうかと思いました。難しい。「24年間生きてきて・・・」といういつもの挨拶。だんだん若返ってる気がする(^^;

 最後、なりやまない拍手の中。舞台の一番奥のセンターで、山口さんは深々とお辞儀。闇の中で、完全に姿が消えるまで、ずっと頭を下げていました。それを見ていたら、胸がいっぱいになってしまいました。

 

 外へ出ると雨。観劇の熱気を冷ますのには、ちょうどいい雨だったように思います。深く息を吸い込んで、歩き出しました。

2005年 レ・ミゼラブル観劇記 2回目

 レ・ミゼラブルを見に行ってきました。今年はこれで2度目です。以下、感想を書いていますが、ネタバレも含んでいますので、未見の方はご注意ください。

2005年3月15日(火)18時 帝国劇場にて

バルジャン=山口祐一郎

ジャベール=岡幸二郎

エポニーヌ=新妻聖子

ファンテーヌ=井料瑠美

コゼット=剱持たまき

マリウス=藤岡正明

テナルディエ=徳井優

テナルディエの妻=森公美子

アンジョルラス=小鈴まさ記

司教=高野二郎

 今回の主目的は、山口バルジャンと岡ジャベールです。山口さんに一番合ってるのが、岡さんとの組み合わせだと思うんですよ。私見ですが、とにかく一番好きな組み合わせ。司教さまとの出会いから慈愛を学んだバルジャンに対し、まるで機械のように無機質な感じのする岡ジャベールがよいのですよ。その冷たさが対照的で、見ごたえがある。

 それに山口さんは岡さん相手だと、全然容赦してない感じがして、迫力が増すのです。山口さんは相手によって自分の芝居を変えるけれど、岡さんを相手にしたときが一番、安心して全力を出せてる気がする。岡さんには、どう向かっていっても、必ず受けとめ、はね返す安心感があるのです。だから、レミゼラブルコンサートの頃から、私の一番好きな組み合わせは山口×岡でした。そしていざ、観劇した感想は・・・・。

 

 あれ、岡さんてこんなに声が若かったっけ?と思ってしまいました。それが第一印象。バルジャンに対して、ジャベールがこの声だと少し若すぎるかも・・・という危惧です。でも、迫力は山口バルジャンに負けてません。対決シーンには引き込まれてしまいました。やはり、岡さんうまいですね。なんとなくですけど、プライベートの山口さんと岡さんって、お互いに全然性格が違って、理解し合えないような気がします。もちろん舞台人として、互いに尊敬はしているでしょうけれど、人生に対する考え方とか、生きてきた環境がまったく別な気がするのです。そういうところが、バルジャンとジャベールを演じるときに、いい効果を生み出しているのかもしれません。相容れない2人、という雰囲気を感じるのです。馴れ合いではなく。

 山口バルジャンは、司教様との出会いから改心のシーンまでがものすごくよかった。レ・ミゼラブルの楽曲を、思いきり堪能しました。「ジャンバルジャンは死んで生まれ変わるのだ」のところが、特に好き。仮出獄許可証を破り捨てる動作と合わせて、一人の人間の壮大な再生物語を見ているのだと、胸がいっぱいになります。

「彼を帰して」の歌いだしが、いつも以上に優しい声でびっくりしました。いつも、こんな歌い方だったっけ?と。一つ一つの言葉を、ものすごく丁寧に、撫でるように歌っていました。

 エポニーヌの新妻さん。やはり、エポニーヌは新妻さんがいい。初日のANZAさんもよかったけど、新妻さんを聴いてしまうと新妻さんに魅入られてしまう。ANZAさんの声から甘さをとって、ちょうどよくコショウをきかせた感じ。気の強さだったり、孤独感だったり、プライドの高さだったり。私が想像するエポニーヌ像にぴったり当てはまる声でした。声量もあるし、聴いていて気持ちがいい。これから期待の女優さんだなあと思います。

 ファンテーヌの井料さん。はかないイメージでよかったです。病室でコゼットの幻を見るシーンでは、死期が迫っているのがひしひしと伝わってきました。前回の観劇記でも書いたけど、

「あのとき工場で~」とバルジャンに悪態をつくシーンもいい。どんなに怒っても、どこかか弱い印象があって、バルジャンが思わず守りたくなる気持ちも、わかります。

 コゼットの剱持さん。澄んだ声がコゼットにぴったりです。

 マリウスの藤岡さんは初めて拝見したのですが、今までマイベストだった岡田マリウスよりも、いいと思ってしまいました。なんていうのか、声に魅力があって、歌がうまい。凛としたものを感じます。優しいだけじゃなくて、自分の信念にプライドをもっているところがにじみでていて、こういうマリウスだからエポも惚れたのか、と納得してしまいました。

 テナルディエの徳井さんは、初めて見るのですごく楽しみだったんですけど、歌の部分がもう少しよければなあと思ってしまった。存在感としては、テナルディエにぴったりだと思います。背の低さだったり、しぐさそのものが面白くて、そこだけ見ると、ミスターテナルディエ。だけど、惜しいのは歌。下手じゃないんだけど、いかにも楽譜どおりに、きっちり歌ってますという感じで余裕がみえないんです。歌うことそのものに神経をとがらせて、そこに表情を乗せる余裕がない感じ。

 声だって悪くないし、舞台に立ったときに醸し出す個性的な雰囲気は天性のものなのに、歌だけが・・・・もったいないと思いました。もっと練習して慣れてきて、ずる賢さやお調子者の表現が歌にこめられたら、素晴らしいテナルディエになると思う。上手に、楽譜を崩していけたら、もっとおもしろいと思う。そういう徳井さんが見てみたいです。

 森公美子さんとの相性は、最高でした。

 テナルディエ妻の、森公美子さん。この方は、とにかく芸達者。余裕があるんだなーと思います。歌もセリフも演技も、完璧に頭の中に入っているので、毎回空気を読みながら絶妙のタイミングで客席を笑わせにくる。レ・ミゼラブルは暗い話だけど、森さんがいると救われる気がする。徳井さんとの相性がよかった~。徳井さんの歌にもう少し余裕がでてきたら、最強のコンビだと思いました。

 アンジョルラスの小鈴さん。個性的で、とても美しい声ですが、アンジョルラスというイメージではないかな~。学生のリーダーにしては、あまりにも大人の男性すぎる感じです。どちらかというと、太くて低めの声だから、若さあふれる・・・・というよりは渋い感じ。血気盛んなイメージはないですね。落ち着いた、大人の魅力という声です。アンジョルラスは少し、キャラが違うのではと思ってしまいました。

 司教さま、高野さんは、厳かな声が心に沁みました。やっぱり司教さまは高野さんでないと、落ち着かないです。高野さんの声を聴くと安心する。

 ガブローシュの局田さん。なんでこの方の声はこんなにもせつないのか。歌声を聞いただけで、涙が出そうになります。虚勢を張っていても、ガブローシュの生きてきた人生の過酷さが伝わってくる声なのです。元気であればあるほど、けなげに思えて泣けます。女性なのに、どうしてこんなに少年役が似合うんでしょう。子役がやる以上に、リアルさを感じます。私の中では、ガブローシュといえば局田さんです。

 本日のリトルコゼットちゃんは、ものすごくきれいな声でびっくりしました。きっちり歌いあげてます。ただ、あまりにもきれいできっちりしているから、コゼットの不安とか悲しみが伝わってこないのが残念でした。バルジャンと手をつなぎ、森を歩くシーン。歌の中に、バルジャンに対する感情が全然感じられなかったのです。初日は逆に、歌が不完全な分、そこにコゼットの戸惑いが感じられたかな。どちらが好みかというと、やはり感情表現を優先させてほしい。いくら上手にうたっても、そこに心がないと悲しいのです。

 小さな子だから、歌を歌って、そこに感情をこめてというのは難しいと思うけれど、どちらかといえば歌を崩してでも、自分の気持ちを表現してくれた方が、観客に伝わるものが大きいはず。

 娼婦同士の罵りあいシーンの女性陣2人が、すごく迫力あって印象に残りました。あれ、なんていう役なんだろう? 「あたしのこのショバ荒らすのか~」「梅毒を撒き散らし~」のシーンです。いつも以上に、迫力があった感じ。

 帝国劇場は、健康増進法の施行に伴い、全館禁煙となりました。あの煙りくさい一角がなくなって、空気がきれいになりました。帝劇、グッドジョブ。どこの劇場でも、禁煙にしてほしいです。煙は流れてくるので、一ヶ所で吸われると辺り一帯がみんな臭くなるのです。臭いだけじゃない、健康にもものすごく悪い。

 いまどきタバコを吸ってる人って、ちょっと・・・・・な人が多い気がする。

2005年 レ・ミゼラブル観劇記 1回目

2005年3月9日(水)13時 帝国劇場にて 2階B席

バルジャン=山口祐一郎

ジャベール=今拓哉

エポニーヌ=ANZA

ファンテーヌ=井料瑠美

コゼット=剱持たまき

マリウス=岡田浩暉

テナルディエ=駒田一

テナルディエの妻=瀬戸内美八

アンジョルラス=東山義久

司教=高野二郎

 レ・ミゼラブルを見てきました。以下、ネタバレありますので、未見の方はご注意ください。

 山口バルジャンの初日です。2003年の公演は、とりつかれたように何度も見ました。そして、コンサート形式の東京公演、大阪公演も見ました。2005年の公演で新しいバルジャンを見ることができるかどうか、わくわくしながら観劇です。

民衆が歌う「明日は~」の歌の中で、一際高く響く山口さんの声が、大好きです。その力強い響きが、全体をしっかりと締めています。涙が流れて、でももうすぐ一幕が終わるのがわかっているから、急いで涙をふき、鼻水をふき、明るくなっても恥ずかしくないように準備をします。でもやっぱり、泣いてしまうのですね、あの場面では。

 山口バルジャンは、初日の前に雑誌でこんなことを語っていました。再演でも、今までの形は壊して、最初から作り直す、と。最初から作り直すというバルジャン像がどんなものか、非常に興味をそそられたのですが、実際見た感想はというと、たしかに2003年や、レミコンでのバルジャンの歌とは一味ちがう。

 今回は、怒りのバルジャンという印象です。パン1つの罪で、19年も地獄のような牢獄に入れられたという怒り。妹の子供が餓死するのを見かねた、という当時の社会状況の中で、世を恨み、社会を恨んだ男のうっ積したエネルギー。自らが受けた不当な扱いを思い出せば、あっという間に凶暴なバルジャンが顔をのぞかせる、という印象でした。神に魂を委ねたという思い、信仰が、それをなんとか押しとどめている。神様への思いだけで、自分の中の凶暴性をコントロールしているという感じです。2003年の、別所哲也さんが演じたバルジャンに、傾向は似ていたかもしれません。

 ときおり顔をのぞかせる、激しい怒り。それをなだめる理性。そして、神様に祈るときの純粋で清らかな心。揺れる心はどれもが、バルジャンの真実。生身の人間の不完全さが、ありのままに表現されていたように思います。聖人君子ではないバルジャンを感じました。

 だから、よけいにせつなかったです。バルジャンは、とても一生懸命でした。たぶん神様を信じることが、彼の生きる支えになっている。人間の弱さです。なにかにすがることで、なにかに頼ることで生きていける。神様を信じる力は、そのままバルジャンの心の弱さでもあります。

 ジャベールの今さんは、平凡にまとまりすぎているような気がしました。個性がほしいです。できれば、ぞっとするような冷たさを感じさせてほしかった。

 

 エポニーヌのANZAさん。2003年にも出てましたが、前回よりもいい感じです。とにかく可愛らしいのです。2003年のときの私のお気に入りエポは新妻聖子さんでしたが、ANZAさんは、その次に好きでした。ただ、あまりにも可愛らしい声なので、エポというキャラには合わないのかも、という気がしないでもありません。甘い、砂糖菓子のような声です。声量もあるし、とにかく声そのものが目立つ。可愛いという印象。

 私、エポニーヌはちょっとひねていて、やさぐれた人だと思っているので、その点では新妻さんが演じるエポニーヌの方が好きです。気の強さ、みたいなものが伝わってくるので。コゼットと対照的なものを求めてしまうので、その点ANZAさんは可愛すぎるきらいがあります。

 ファンテーヌの井料さん。2003年のときにはあまり好きではなかったのですが、今回はすごく惹きつけられました。市長に「からかわないでよ。あのとき工場で~」と歌うシーンが特によかった。歌に感情がこもっていて、夢やぶれてのシーンもすごかった。

 コゼットの剱持さん。2003年のときには、私は剱持さんより河野さんの方が好きだったのです。なぜかわからないけど、「感動したな」というときには、いつも河野さんコゼットだったので。だけど、今日の歌はよかった。思わず引き込まれた感じです。最後、死にかけたバルジャンにすがりつくシーンなど、すごくうまかったと思います。

 マリウスの岡田さん。やっぱりマリウスは岡田さんでないと・・・・と思いました。2003年のときも、やっぱり岡田マリウスが一番好きでした。お坊ちゃんぽくて優しくて鈍感で、あまり頼りにならない若者、という私が思うマリウスイメージそのもの。エポニーヌやコゼットに注ぐ愛情がよいのです。

 テナルディエの駒田さん。今ひとつノリが悪かったような気がしました。もっと思いきり弾けちゃってもいいかな、と。無難にまとめている印象です。お調子者のときは思いっきりバカ騒ぎしたり、下水道のシーンでは思いっきり悪に徹したり、というメリハリがほしかったです。

 テナルディエの妻の瀬戸内さん。やっぱり無難な印象。2003年のときの、森公美子さんの印象が強すぎるのかもしれませんが、あれくらい個性的に演じてほしいなと思ってしまいます。でも、妻役なので、テナルディエとのバランスをいろいろ考えて演じてらっしゃるのかも。そういう意味では、夫婦のバランスはうまくとれていたように思います。どちらかが突出して目立つということはなかったです。

 アンジョルラスの東山さん。声もいい。立ち姿もかっこいい。だけどカリスマ性を感じる、というところまではいきませんでした。学生をまとめるオーラを感じたかったです。

 そして、司教役の高野さん。2003年のときにも感じていたのですが、この方の声には威厳があるのです。そしてこれは、実はとても大切なことだと思う。固く閉ざされたバルジャンの心を、変えるだけの力がなくてはいけないのだから。

 高野さんが歌い上げると、説得力があります。厳かな響きがある。歌を聞いているだけで、教会のイメージが浮かんできます。バルジャンでなくても、思わず聞き入ってしまう。その独特の力は、2005年も健在でした。高野さんが司教様役でよかった。

 子供時代のコゼットちゃんは、少し歌が不安定なようで残念でした。ときおり、声が小さかったり、音程がふらついたり。でも、それがよけいに「幼さ」を感じさせて、コゼットの置かれた境遇の厳しさを、思い知らされる効果も生んでいました。

 ガブローシュ君は、うまさが際立ちました。2003年のときは、局田さん以外のときはどうしても不自然さを感じてしまったのですが、今年は子役がとにかくうまい。そして、自然でした。これも個人的な好みかな、と思うのですが、2003年のときは、子供が子供を演じるあざとさ、みたいなものを感じてしまったのです。歌も演技もうまいんだけど、なにか「つくられた感」を感じてしまうというか。逆に、大人である局田さんが演じると、それが自然に思えてしまって、不思議でした。