2005年3月9日(水)13時 帝国劇場にて 2階B席
バルジャン=山口祐一郎
ジャベール=今拓哉
エポニーヌ=ANZA
ファンテーヌ=井料瑠美
コゼット=剱持たまき
マリウス=岡田浩暉
テナルディエ=駒田一
テナルディエの妻=瀬戸内美八
アンジョルラス=東山義久
司教=高野二郎
レ・ミゼラブルを見てきました。以下、ネタバレありますので、未見の方はご注意ください。
山口バルジャンの初日です。2003年の公演は、とりつかれたように何度も見ました。そして、コンサート形式の東京公演、大阪公演も見ました。2005年の公演で新しいバルジャンを見ることができるかどうか、わくわくしながら観劇です。
民衆が歌う「明日は~」の歌の中で、一際高く響く山口さんの声が、大好きです。その力強い響きが、全体をしっかりと締めています。涙が流れて、でももうすぐ一幕が終わるのがわかっているから、急いで涙をふき、鼻水をふき、明るくなっても恥ずかしくないように準備をします。でもやっぱり、泣いてしまうのですね、あの場面では。
山口バルジャンは、初日の前に雑誌でこんなことを語っていました。再演でも、今までの形は壊して、最初から作り直す、と。最初から作り直すというバルジャン像がどんなものか、非常に興味をそそられたのですが、実際見た感想はというと、たしかに2003年や、レミコンでのバルジャンの歌とは一味ちがう。
今回は、怒りのバルジャンという印象です。パン1つの罪で、19年も地獄のような牢獄に入れられたという怒り。妹の子供が餓死するのを見かねた、という当時の社会状況の中で、世を恨み、社会を恨んだ男のうっ積したエネルギー。自らが受けた不当な扱いを思い出せば、あっという間に凶暴なバルジャンが顔をのぞかせる、という印象でした。神に魂を委ねたという思い、信仰が、それをなんとか押しとどめている。神様への思いだけで、自分の中の凶暴性をコントロールしているという感じです。2003年の、別所哲也さんが演じたバルジャンに、傾向は似ていたかもしれません。
ときおり顔をのぞかせる、激しい怒り。それをなだめる理性。そして、神様に祈るときの純粋で清らかな心。揺れる心はどれもが、バルジャンの真実。生身の人間の不完全さが、ありのままに表現されていたように思います。聖人君子ではないバルジャンを感じました。
だから、よけいにせつなかったです。バルジャンは、とても一生懸命でした。たぶん神様を信じることが、彼の生きる支えになっている。人間の弱さです。なにかにすがることで、なにかに頼ることで生きていける。神様を信じる力は、そのままバルジャンの心の弱さでもあります。
ジャベールの今さんは、平凡にまとまりすぎているような気がしました。個性がほしいです。できれば、ぞっとするような冷たさを感じさせてほしかった。
エポニーヌのANZAさん。2003年にも出てましたが、前回よりもいい感じです。とにかく可愛らしいのです。2003年のときの私のお気に入りエポは新妻聖子さんでしたが、ANZAさんは、その次に好きでした。ただ、あまりにも可愛らしい声なので、エポというキャラには合わないのかも、という気がしないでもありません。甘い、砂糖菓子のような声です。声量もあるし、とにかく声そのものが目立つ。可愛いという印象。
私、エポニーヌはちょっとひねていて、やさぐれた人だと思っているので、その点では新妻さんが演じるエポニーヌの方が好きです。気の強さ、みたいなものが伝わってくるので。コゼットと対照的なものを求めてしまうので、その点ANZAさんは可愛すぎるきらいがあります。
ファンテーヌの井料さん。2003年のときにはあまり好きではなかったのですが、今回はすごく惹きつけられました。市長に「からかわないでよ。あのとき工場で~」と歌うシーンが特によかった。歌に感情がこもっていて、夢やぶれてのシーンもすごかった。
コゼットの剱持さん。2003年のときには、私は剱持さんより河野さんの方が好きだったのです。なぜかわからないけど、「感動したな」というときには、いつも河野さんコゼットだったので。だけど、今日の歌はよかった。思わず引き込まれた感じです。最後、死にかけたバルジャンにすがりつくシーンなど、すごくうまかったと思います。
マリウスの岡田さん。やっぱりマリウスは岡田さんでないと・・・・と思いました。2003年のときも、やっぱり岡田マリウスが一番好きでした。お坊ちゃんぽくて優しくて鈍感で、あまり頼りにならない若者、という私が思うマリウスイメージそのもの。エポニーヌやコゼットに注ぐ愛情がよいのです。
テナルディエの駒田さん。今ひとつノリが悪かったような気がしました。もっと思いきり弾けちゃってもいいかな、と。無難にまとめている印象です。お調子者のときは思いっきりバカ騒ぎしたり、下水道のシーンでは思いっきり悪に徹したり、というメリハリがほしかったです。
テナルディエの妻の瀬戸内さん。やっぱり無難な印象。2003年のときの、森公美子さんの印象が強すぎるのかもしれませんが、あれくらい個性的に演じてほしいなと思ってしまいます。でも、妻役なので、テナルディエとのバランスをいろいろ考えて演じてらっしゃるのかも。そういう意味では、夫婦のバランスはうまくとれていたように思います。どちらかが突出して目立つということはなかったです。
アンジョルラスの東山さん。声もいい。立ち姿もかっこいい。だけどカリスマ性を感じる、というところまではいきませんでした。学生をまとめるオーラを感じたかったです。
そして、司教役の高野さん。2003年のときにも感じていたのですが、この方の声には威厳があるのです。そしてこれは、実はとても大切なことだと思う。固く閉ざされたバルジャンの心を、変えるだけの力がなくてはいけないのだから。
高野さんが歌い上げると、説得力があります。厳かな響きがある。歌を聞いているだけで、教会のイメージが浮かんできます。バルジャンでなくても、思わず聞き入ってしまう。その独特の力は、2005年も健在でした。高野さんが司教様役でよかった。
子供時代のコゼットちゃんは、少し歌が不安定なようで残念でした。ときおり、声が小さかったり、音程がふらついたり。でも、それがよけいに「幼さ」を感じさせて、コゼットの置かれた境遇の厳しさを、思い知らされる効果も生んでいました。
ガブローシュ君は、うまさが際立ちました。2003年のときは、局田さん以外のときはどうしても不自然さを感じてしまったのですが、今年は子役がとにかくうまい。そして、自然でした。これも個人的な好みかな、と思うのですが、2003年のときは、子供が子供を演じるあざとさ、みたいなものを感じてしまったのです。歌も演技もうまいんだけど、なにか「つくられた感」を感じてしまうというか。逆に、大人である局田さんが演じると、それが自然に思えてしまって、不思議でした。