2005年 レ・ミゼラブル観劇記 6回目

 前日の土曜日に続いて、日曜日もマチネを観劇。少々体は疲れていたのですが、今回は2003年から数えても、今までで一番の良席だったので、楽しみに劇場に向かいました。以下感想ですが、ネタばれしてますので、未見の方はご注意ください。

2005年4月17日(日)12時 帝国劇場にて 1階S席

 最初に言ってしまいましょう。初めて、お花をゲットしました。大感激です。前方席だったので多少は期待していましたが、でも、競争は激しいと聞いていたので、諦めていました。出演者の方々が花を投げ始めたときも、それをぼーっと眺めているだけだったんです。そしたら、お花の方から私の膝の上に乗ってきました。びっくりして、呆然とするばかりでした。

 隣に座っていた男性が、一瞬手をのばしましたが、さすがに膝の上のものを取るわけにもいかず、そのままお花は私のものに・・・。

 オレンジのガーベラが一輪と、名前を知らない青と白の小さな花、そして黄色の小花です。今机の上に飾って、うれしく眺めています。運ってあるんですねえ。がんばってる人でも、とれない人はとれないし。もらうつもりがなくても、向こうからとびこんでくることがあるなんて。思いがけないことで、最初は戸惑ったけど、今こうしてお花を眺めているとしみじみ嬉しい。

 初の前方席での感想は、「前方席の人はこんな幸せを毎回かみしめてたのか!」ですね。それはお花ということではありません。俳優さんの表情が、本当によく見えるからです。私は今までB席が多かったので、表情の細かい部分などは全然見えませんでした。でもレ・ミゼラブルは台詞が全部歌で綴られていたし、歌はB席の一番奥でも十分よく聞こえたので、それで大満足していました。

 だけど、前方席の素晴らしさを初めて知って、こんな世界があったのかと新鮮な気持ちでした。当たり前ですが、みなさん細かいお芝居をしてらっしゃるのです。歌に感情をこめるだけでなくて、ちゃんと演技もしてる。

 特に、バリケードのシーンのグランテールには泣かされました。いつもお酒を飲んでいるイメージしかなかったけれど、酒瓶をかかげてアンジョルラスと向かい合うシーンなど、両者の気持ちのすれ違いが伝わってきて、せつないものがありました。アンジョルラスが倒れたあと、狂ったようにバリケードを駆け上がって旗を振ったときには、泣きました。このシーンで泣いたのは初めてです。表情までしっかり見える席だから、伝わってくる情報量が全然違うのですね。

 学生たちも、遠くからみるとひとかたまりなのですが、近くでみるとそれぞれ違う人間で(当たり前といえば当たり前)、彼らが次々と倒れていくシーンは大迫力で、みんなそれぞれ人生がある若者だったのにと思うとぐっとくるものがありました。B席で見るのとは、また違う見方があります。できることなら、いつも前方で見たい・・・・前方がこんなにいいところだったとは・・・・というのが、今日の一番の感想でしょう。

 

 司教様から銀の燭台を渡され、???という表情のバルジャンを見て、思わず可愛いと思ってしまった。人一倍体の大きなバルジャンが、まるで子供みたいに思えました。こういう、歌ではない演技の部分は、やはり前方席でないとわかりづらいですね。

 今日のテナルディエは徳井優さんでした。歌にもっと余裕がでてくるといいなあ、とは前から思っていたのですが、今回近くで見て、やはり動作や表情はすごくうまいと思いました。たしかに、歌はまだ完成系ではないかもしれないけど、存在はすごくコミカルなのです。宿屋のシーン。カモが来た、とほくそ笑むところなんかは、いかにも小悪党という感じ。心根のいやらしさがにじみ出る笑顔で、思わずこちらも笑ってしまいました。悪党は悪党でも、なんというか、大きなことはやれそうもない感じなのです。ずる賢く、たくましく、自分が得することだけを考えている感じ。

 この表情の演技を、歌にも取り入れることができたらすごく面白いと思います。「へっへっへ」という下卑た笑いがこめられたような歌が、聞いてみたいです。

 テナルディエの妻役の瀬戸内美八さん。この方も演技派ですね。近くで表情やしぐさを見ていると、役になりきっているのがよくわかりました。歌以外の面でも、すごく芸達者という感じです。

 カーテンコール、このお二人はお互いにすごく気を遣っている感じでした。こういう悪役をやる人は、素顔はいい人が多いと聞きますが、その通りな気がします。実は徳井さんも瀬戸内さんも、すごくまじめで腰が低い人なんではないでしょうか。そんな印象を受けました。

 ガブローシュ。今日も局田さんではなく子役の男の子だったのですが、今回のガブローシュ役はみんなすごく上手です。歌、うまいです。2003年のときは、子供が演じるガブローシュはあまり好きではなかったのですが、2005年は違いますね。誰を見ても、すごいなあと思います。そのぶん、リトルコゼットちゃんがもう少しがんばってほしい。特に歌。完璧にならなくてもいいけど(コゼットの不安な気持ちを表すためにも)、ん?と感じさせない歌にしてくれたらうれしいです。がんばれ、リトルコゼット。

 ファンティーヌはマルシアさん。2005年にマルシアファンテを見るのは初めてですが、近くで見ると意外に儚い感じがするので驚きました。もう少し、強い感じの人を想像していたのです。歌声も、弱々しい感じで、生命力のなさが表現されてました。そういう点では、ファンティーヌに合っているのですが、なんとなく私は井料瑠美さんの方が好みなのです。どこがどうとは、うまくいえないのですが。敢えて言うなら、バルジャンに頼る気持ちは、井料さんの方があふれている気持ちがして。死の直前のファンティーヌは、たぶんバルジャンに頼りきっていたと思います。バルジャンもそれをわかって、なおさら張り切った部分があると思うのですよね。頼られれば頼られるほど、「この人を救うことこそ、俺の使命だ」、と気持ちは燃え上がったはず。

 そういう儚いファンティーヌ像に、井料さんは合っているような気がします。すごく弱い感じ。保護欲をかきたてられる存在なのです。

 アンジョルラスは坂元健児さん。待ってました。ずっと待ってました。やっと、坂元アンジョに再会できました。やっぱりアンジョルラスは声にパワーがなくっちゃいけません。坂元さんの声には圧倒的なパワーがあって、それはやっぱり際立っています。坂元さんを聞いた後だと、他の人が物足りなくなってしまうのです。「群れとなりて~」だとか、歌い上げるシーンは坂元さんにしか出せない味があると思います。

 司教様。前日に続き、高野二郎司教じゃなかったのがちょっぴり残念でした。高野司教の歌が懐かしいです。また聞きたくなってしまった。いかにも年をとった聖職者という感じの説得力のある声。厳格さと、慈愛をあわせもったその声。

 マリウスは泉見洋平さん。近くでみると、なんとなく知念里奈さんに似ているような気がしました。顔立ちをみると、全体の雰囲気が知念さんに似てる。似たもの同士のマリウスとコゼットのカップル。初々しい雰囲気がいい感じでした。

 近くで見たからこそ、感動が深まったシーンはいくつもあります。たとえば、愛をささやきあうマリウスとコゼットに近付き、「俺のものじゃない」とバルジャンが歌うシーンです。このときの表情に、泣きました。複雑な、喜びと悲しみと入り混じった表情なのです。娘に頼もしい恋人ができたことを喜ぶ一方で、大切な宝物を手放す寂しさをおさえられない、という表情。必死に喜ぼうとしているんだろうけど、快くコゼットを託そうとしているんだろうけど、でもさびしいんですよ。

 山口ファンの私としたら、山口さんにそういう顔をされてしまうと・・・・。やはり泣けてしまいました。ずっと一人で生きてきたバルジャンは、コゼットを育てることで、自分自身も癒されていたんですよね。そしてまた一人になる。それは自然の流れなんだけれど、理性ではわかっていても顔の表情がその理性を裏切っていました。年老いて、とてもさびしそうなバルジャン。この歌のとき、こういう表情をしていたんだなーとしみじみ。

 お前がいてくれるから、静かに死んでいける、と告げるシーン。バルジャンはコゼットではなく、マリウスを見てました(私の見間違いでなければ)。今までずっと、コゼットに言っているのかと思っていましたが、マリウスに言っていたとは。やっぱりバルジャンは頼りになります。マリウスに、コゼットの今後を、しっかりと頼んでいたのですね。さすが、市長にまで上りつめた人だと思いました。死に際し、こう頼まれた以上、コゼットを守り抜かねばマリウスの男がすたります。

 カーテンコール。最近のカーテンコールでは、最後の最後は山口バルジャンにスポットライトが当たるようになりましたね。そういう締めをしないと、いつまでもいつまでも拍手が鳴り止まない。帝劇の広い舞台の上で、白いスポットライトを浴びて歓声に答える山口さんの姿はまぶしいです。役者として、のっている時期というのはこういうことをいうんだと思う。役者という厳しい世界で、ここまで上りつめた影には、人には言えない努力と苦難の歴史があったんだろうなあ。そして今この瞬間、満席の観客の賞賛を一身に浴びて。

 その影に、いろんなものを犠牲にしてきたんだろうなあ、と考えてしまいました。もう平凡な生活なんて無理。そしてたぶん、平凡な、庶民のささやかな幸せみたいなものを望むことも、難しいのかもしれない。ここまで有名になって、注目される存在になってしまっては。だけど役者としては、これ以上はないくらいの幸せを手に入れたんですよね。役者なら誰もがそれを目指し、トップを夢見てる。

 

 いろんなことをしみじみと考えながら、家路についたのでした。

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