ベートーベン 交響曲第7番 第2楽章

ベートーベンが好きである。巨匠二人のうちどちらが好きかと問われれば、モーツァルトよりも断然ベートーベン派。なかでも、この交響曲第7番の第2楽章は、聞いていると不思議な思いにとらわれる。

なんとなく、頭の中で映像が浮かぶのだ。音楽から喚起されるイメージは、中世のお城のような室内。階段の上から、舞踏会に集まった人々を見下ろしているような感じ。大きく広がったドレスの裾。そういう女性の一人を、上から眺めている映像が浮かぶ。全体的に、青のイメージ。陰謀や中傷や、さまざまな思惑が渦巻く中に、その音楽が鳴り響いている、という感じなのだ。

この曲を初めて聴いたのは小学生のときで、ずっと気になっていた。でも、これがベートーベンの交響曲だとは知らなかった。わりと最近そのことを知って、「やっぱりベートーベンのセンスは好きだなあ」とつくづく思った。

葬送行進曲風、と評した人がいて、そう言われてみると、そういうふうにも聞こえる。ともかく、この曲を聞くと、なんともいえない不思議な気持ちになってしまうのはたしか。私はクラシックな洋館を見て歩いたり、アンティークドールが好きだったり、江戸川乱歩の描く世界が好きだったりするけれど、その根底にあるものは同じ感情だ。言葉にするのは難しい。

ひとつの音楽から、いろんなものを想起する。そこが、音楽の持つ魔法の力だと思う。今日はこの曲を聴きながら、昔行ったことのある二子玉川のサントリー館の2階、バーの雰囲気を思い出した。イギリスの市長さん(うろ覚えだけど)が昔住んでいた家を解体し、わざわざ日本に船で運んで、また組み立てなおした洋館。1階はレストランで、2階がバーだった。

アンティークな家具が使われていた。飾りとして、古い洋書の本も飾られていた。暖炉があって、バーテンさんがときどき薪をくべていた。ほとんどの席が埋まっていたけれど、みんな静かにグラスを傾けている感じで、空気がゆったり流れていた。私はお酒は好きじゃないけど、あの雰囲気には酔った。なんて素敵なんだろうと。こんな空間もあるんだなあと、感動した。

今はもう営業していないようだけれど。あの建物は今もあるんだろうか。古い建物を見たとき私の胸にわく感情は、あのベートーベンの曲を聴いたときにわきおこる感情と同じだ。そこに暮らした多くの人の人生を思う。不思議な感慨にとらわれる。

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