宮部さんは好きな作家。今回の作品の元ネタになったゲームの雰囲気も大好き。ということで、かなり期待しつつ読みました。以下、ネタバレしてますので、未読の方はご注意ください。
私、ICOは、ゲームは最後までやらなかったのです。単調な感じで飽きてしまって・・・。影から彼女を守りつつ、淡々と逃げていくだけというのがどうしても性に合わなかったというか。
ただ、あの雰囲気は大好きでした。あの独特の空気。もう、謎だらけだったですからね。ICOはなぜ角が生えているのか、ヨルダは何者なのか、霧の城は誰のものなのか等々。
彼女の消え入りそうな儚い姿。そして、テレビのCMでも流れたキャッチコピー。「この人の手を離さない。僕の魂ごと離してしまう気がするから」に、心を惹かれました。
魂のつながりを感じるくらい、わかりあえる関係って存在すると思うんですよ。この話をすると「十代の少女じゃあるまいし」と友達に笑われるのですが、いいとか悪いとかではなく、心が合う合わないっていうのはあると思うし、人間はみんなそういう相手を探して生きているんじゃないかと。
本当にめったに出会えない。だからこそ、会えたら貴重なんです。他の誰にも代えられない。同じ空を見て、同じことを感じる瞬間がある人物。
別に、なにもかもが同じということではなく、根っこの部分で、共通なものを持っている人です。めったにいないけど、そういう人は確実にいるし、いたら、とても大切にしたいと思う。
ICOとヨルダもきっとそういう、特別な関係なのかなあと。あの霧に包まれたお城の中で、手をつないで逃げていく。その先になにがあるかもわからず、後ろを振り返ることもなく、言葉は通じず、だけど確かにお互いの心は触れ合っている。
一人じゃない。魂の半身はここにいる。だから、恐くなんてない。
そういう雰囲気がとても好きでした。ノベライズということで謎が解けるのを期待して読んだのですが・・・・うーん。正直、謎が解けたとも思わなかったし、納得もしなかったなあ。あのゲームにインスパイアされた人はそれぞれに独自の世界観を持っていて、小説版ICOは、宮部さんの心の中のICOなんだなあという気がします。あのゲームを、宮部さんはこう捉えていたんだなと。
前半部分がよかったです。ICOの親友トトが、石化した街へ迷い込み、空に浮かんだ女の顔のようなものに襲われるシーン。迫力がありました。生活感はそのままに、すべてが一瞬で石化し、静寂に包まれてしまった街。目の前に、その光景が広がってくるような迫力でした。
小説の中で、一番好きなシーンです。
逆に後半部分は、疑問に感じてしまう部分が多くて、ちょっと残念でした。ヨルダの父親の描き方や、ヨルダ自身の物語。あの、ゲーム画面でみた真っ白な、何ものにも染まらない少女の姿と、小説のヨルダがつながらなかったです。
100人の人が書けば、きっと100通りの物語が生まれる。それがICOの世界だと思いました。