槙原敬之さんの『Hungry Spider』を繰り返し聞いている。発売されたのは数年前だけど、あらためて聞いて惚れ直した。PVがまたいいのだ。あごひげをはやした陰鬱な感じの彼が、妖精みたいにきれいな女の子に、紙芝居を見せている。
真っ白な、陶器みたいな肌を持つ彼女は、まさに蝶々のイメージ。たぶん、どこへでも飛んでいける。美しいものしか見ないし、今日も明日も明後日も、変わらず楽しい朝がやってくると信じている。
無精ひげの彼は、そんな彼女に恋をして自分の思いを託した紙芝居を見せているんだろうけど、その紙芝居を見る彼女の目が・・・・。理解できない、恐いものを見るような怯えた目で。ああ、この恋は成就しないというのがわかるだけに、なんともせつない。でも彼は、彼女に紙芝居を見せ続ける。それしか、彼が思いを伝える術はないという感じ。
Hungry Spiderは、飢えよりももっと激しい痛みに苦しんでいるんだろうなあ。近付けば近付くほど、手に入らないことを思い知らされる。自暴自棄になるよりももっと、彼女が大好き。
蜘蛛と蝶々じゃ、どうあがいても一緒には暮らせないもんね。逃がそうと駆け寄ったのに、「助けて」と繰り返すばかりの彼女を見て、彼は自分の立場を実感したでしょう。
あのPVは名作だと思う。キャスティングが秀逸。槙原さんの暗い目。まったく異質な彼女の姿。その対照が印象的でした。