ダンス・オブ・ヴァンパイア観劇記 その8

 7月14日マチネ サラ:剱持たまきさん アルフレート:泉見洋平さん

 帝国劇場で『ダンス・オブ・ヴァンパイア』を見てきました。以下、ネタバレを含んでいますので、舞台を未見の方はご注意ください。

 

 やっぱりたまきサラは声がいいなあ、と思ったのでした。女性を感じさせない声というか、エロくない。ここは大事です。サラが色っぽすぎたら嫌です。色っぽさが過ぎると、伯爵が城に招く意味がなくなってしまう。サラは透明感があって清純なイメージ。だから中性的な魅力がいいなあと思います。剱持さんの声は清潔感があって好感が持てますね。ちょっと現実離れした感じで、遠い世界の人のよう。

 

 泉見アルフは、常に一生懸命。人間味を感じました。

 最後まで成長しない駄目男っぷりも笑えます。これ、絶対成長物語なんかじゃない、成長できない少年の物語です。志は立派だけど、全く結果が伴ってない。サラを守りたいのなら、もっと強くならなくては。吸血鬼に杭を打てず、逃げ出すタイミングさえ逃してしまうアルフの弱さ。サラとアルフは手をとって新しい世界に駆け出したけれど、賑やかな街に着いたらすぐに、サラは別の相手をみつけるだろうな。

 伯爵の誘惑の歌は、相変わらず魅力的でした。

 「それで満足か?」「教えこまれただろう、欲望は罪だと」「肌は衰える、満足なはずはない」詞の一部だけ書き出すと過激な感じですが、あの舞台の中だとどこか違う世界の物語みたいで、生々しくないのです。臨場感はあるけれど、それが美しくてうっとりするほど魅力的。下品にならずにこの歌を歌えるのは、山口さんだから。これ、別の人が歌ったら全然違う感じに聞こえると思う。

 コウモリでの伯爵登場シーンはあくまで優しく。怖くはないと囁きながら、甘い言葉でサラを誘惑します。そしてサラの動揺を見透かしたように、今度は激しく揺さぶりをかける。緩急使い分けた伯爵の言葉に、どうして抗うことなどできるでしょう。サラが急速に伯爵に惹かれて行くのがわかります。後はきっかけさえあれば、自ら鳥かごを飛び出すはず。計画の通り。伯爵にとって、サラを手に入れるのはたやすいこと。余裕たっぷりです。

 伯爵がサラを獲物としてしか見ていないのは、血を吸った後の舞踏会の素っ気無さでわかります。首をわずかに傾けてサラに微笑みかける伯爵はとてもキュートなのですが、その後のダンスは驚くほどあっさり。単純な振り、平凡な音楽。退屈な日常を表しているのでしょうか。祭りが終われば、また同じことの繰り返し。永遠の時間が流れていくだけとは、こういうことなのかと思いました。

 血を吸うまでがクライマックスであり、その過程が吸血鬼にとっての喜びであり、後はもう興味もない。そんな空気を感じました。

 それは、サラも同じことだったのではないかなあと思います。見たこともない、華やかな異世界への憧れ。素敵なドレス、舞踏会、永遠を生きる伯爵への興味。しかしいったん手に入れてしまえば輝きは急速に失せてしまう。また新たな刺激が欲しくなる。

 サラが伯爵を本当に愛していたのなら、最後、アルフと一緒に逃げ出すことはなかっただろうなあと思います。サラは、見知らぬ世界に恋していただけ。だから伯爵の誘いで家を飛び出したけれど、それはきっかけにすぎない。お城では満足できない。もっと、もっと広い世界へ。サラもまた、尽きない欲望の虜になったのですね。満たされることがなければ、常に飢えるだけ。

 屋上にいる教授とアルフのところに現れる伯爵。このときの歌、大好きです。伯爵の、余裕たっぷり皮肉な声がたまりません。何から何までお膳立てる必要はないのですね。堕ちるのには、きっかけさえあればいい。ほんの少し背中を押せば、ほんの少し夢をみせれば、人間はたやすく堕落してしまうのかもしれません。後は勝手に、坂を転がり落ちていく。

 このミュージカルの曲は、まさに山口さんのために書かれたような曲だなあと思いました。伯爵役、似合いすぎです。他に誰が演じられるか、想像もつきません。あのオールバック、冷たい目、襟元の羽、大きなマント、裏地のシックな赤。歩く姿は威厳があふれていて、孤独で、さしのべる手をはねつけるような厳しさを持っていて。

 別に山口ファンだからというわけではなく、本当にこの役は合っていると思いました。魅力的です。

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