ダンス・オブ・ヴァンパイア観劇記 その17

 8月3日ソワレ。帝国劇場へ『ダンス・オブ・ヴァンパイア』を観劇に行ってきました。以下、ネタバレを含む感想ですので、舞台を未見の方はご注意ください。

 今日もB席。贅沢を言っては罰が当たる・・・とはいうものの、B席が続くと前方席で見たくなってしまうのも確かなのです。伯爵の表情を間近で見たい。

 本日最大のハプニングは、アルフレートが見る悪夢のシーン。天蓋つきベッドの上で一人の吸血鬼が劇場を引き裂くような雄叫びをあげるクライマックス。その後エコーもかかるという、見せ場です。なのにいきなり声がかすれるというか割れるというか、とにかくひどい状態でした。

 可哀想に、一声叫ぶだけでなくて、ずっと声を出し続けるというシーンのため、そのボロボロ状態の声を伸ばし続けることになってしまいました。公開晒し者状態です。これはつらい。気の毒でした。最後のエコーはどうなるんだろうか、もう止めてあげたい、などと思いつつ様子をうかがっていたところ、結局ちから技でなんとか、無理やりまとめてました。これはすごいと思いました。あれだけボロボロだったのに、なんとか形をつけて終わらせたから。声量を上げることで、むりやり穴を埋めたという感じです。

 さすがプロだなと思いました。まるで自分のことのようにハラハラしてしまいましたが、私だったら途中で諦めて声を出すのをやめていたかも。

 今日の失敗した人、終演後やっぱり演出から怒られてしまうのでしょうか。もしかしたら、声質がああいう叫びに合っていないのかもしれません。ヘビメタのように太い声を出すのが得意な人でないと、あのシーンは厳しいですね。

 以前からこの、雄叫びシーンは不安定だ(その日によって出来が違う)なあと思っていたのですが、今日のような決定的な失敗を聴いてしまうとなおさら、山口伯爵のすごさを思い知らされます。たしかに、山口さんは今日はどうだったとかこの間はとか、いろいろ声の調子を言われてしまう存在ですが、その良し悪しの振れ幅は驚くほど小さいのです。伯爵の調子の悪いときと調子のいいとき、初見だったら絶対気付かない。

 たとえば一幕最後。アルフに歌い上げる場面があります。最後をどこまで伸ばすか、というのは日によってもっと差があってもいいような気がしますが、いつも「これでもか」とばかりに伸ばしてくれて、危なげなく安心して聞いていられる。あれだけ伸ばすんだから思いきり息を吸いこむのが感じられて当然なのに、ブレスが自然で、全然違和感がない。普通に呼吸するかのようにすっと息をすって、それから歌にあれだけの広がりを与えるって、空気はどこから取り入れているのかという素朴な疑問がわきました。歌いながら鼻から吸うとか・・・(笑)もはや、人間ではなくなってます。

 「抑えがたい欲望」に関しては、最後の音をブレスを入れずに一気に歌い上げるようになりましたね。一時、細い声のときにいったんブレスしてそれからうわぁっと盛り上げるように歌っていたことがあって、そりゃ肺活量にも限界があるんだろうし、安定したレベルの歌を提供するにはそれが確実だろうけども、少し寂しかったのも事実。ファンのそんな思いが通じたのか、それともご本人のこだわりなのかは不明ですが、最近はその箇所でブレスするのをやめたパターンが続いてます。このままでお願いしたいです。私はその方が好き。細い消え入りそうな水の流れが、濁流になって最後は全てを押し流す、そんなイメージの音です。

 

 伯爵がコウモリになってサラを訪ねるシーン。悩ましいサラの高音と共に、黒い幕?が上がっていくところがいいなあ、と思いました。人は誰でも、その人固有の空気をまとっていると思います。あの人が来るとパっと明るくなったとか、暗くなったとか、そういうオーラのようなもの。伯爵は夜の住人ですから、登場前にその場の空気が変わる演出は必須です。黒い幕が上がって、背景が黒くなるという単純な仕掛けなのですが、夜の闇が一層濃くなって、いつなにが現れてもおかしくない禍々しい空気が感じられます。なにが始まるんだろう、という不安と期待が高まる瞬間。

 そしてコウモリ伯爵登場!「ごきげんよう・・」このおとぼけぶりが笑えます。お風呂のぞいておいてごきげんようって、どんな伯爵だよ・・・と、私はいつも心の中でツッコミを入れてしまうのです。でも、こんにちはでも今晩はでもなく、それが「ごきげんよう」であるのが伯爵らしい。いかなるときも優雅。のぞきが見つかって慌てふためくアルフとは格が違う。

 伯爵とヘルベルト、教授とアルフが城で一堂に会する場面。伯爵が「よろしくどうぞ」と言ってくるりと後ろを向いてしまうところが好きです。この4人の構図が素晴らしい。一人だけ後ろを向いてしまうところが、かえって想像をかきたてて効果的だと思います。この演出センス、大好きです。ふいっとすべてを託されたヘルベルトの「やっと退屈にさよなら」が、不気味で怖くて、でも美しい。

 教授を見ていて思ったのですが、もしかして台詞や動作を数パターン用意していて、その日によって変えているのでしょうか。今日も、ヘルベルトを撃退した後アルフにお説教するシーンで、座ってました。前はずっと立ってたと思うから、この間初めて見たときには「座ることが特別」だと思ったのですが。これからはこのバージョンで行くのかな。

 「ニンニクをぶらさげているんだ?」「ニンニクをブラブラさせているんだ?」「目覚めは安らか」「目覚めは爽やか」この辺も、日によって違う感じです。

 今日は泉見洋平さんのアルフレートでしたが、またマイクの調子が途中で悪くなって、生声?に聞こえる箇所がありました。どうするのかなと思って見ていたら、それからはいつも以上にはっきりと発声。マイクなしでも客席にきちんと声が届くよう、とっさに対応したんだと思います。この間の杭なしハプニングのときもだったけど、こういうときに機転がきくのっていいですね。

 そしてカーテンコール。2階席にやってくる吸血鬼さん数名。気の毒すぎる・・・・。公式のリー君ブログを見ると、どうやら当番制らしいのですが、早くやめてあげてーと思いました。2階には2階の空気があるし、吸血鬼さんが来なくても皆立ってます。やってきた吸血鬼さんも、正直、やりにくいのではないでしょうか? わざわざ2階に来る意味が、よくわかりません。カーテンコール時の吸血鬼の客席降りは1階だけで全く問題なしだと思います。

 1幕のお城シーンで、2階にも吸血鬼を登場させてくれるのはとても嬉しいのですが。あそこは、舞台の明るさが逆光となり、行き来するマント姿の吸血鬼の姿が黒く浮き出て、幻想的でとても気に入ってます。あれは続けてほしい。

 伯爵がスタンディングを煽っているのを見て、思わず顔がにやけてしまいました。煽り方がとても、独特。「ほら、立って?ね?ねね?」という心の声が聞こえてくるようです。こんな風に客席と気さくに交流を持つなんて、山口さんにしてはとても珍しい。他の作品のときだと、まわりに気を遣っているのがよくわかります。でも今回は主演だから・・・。これでいいんじゃないでしょうかね。スタンディングの合図は伯爵ということで。最後の垂れ幕だって、「俺様大勝利!!」ですもん。この場で、誰が伯爵に逆らえますかっていう話ですよ。今日も2階は総立ちでした。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。