『ダンス・オブ・ヴァンパイア』を振り返る

 以下、『ダンス・オブ・ヴァンパイア』のネタバレも含まれておりますので、舞台を未見の方はご注意ください。

 

 8月に、『ダンス・オブ・ヴァンパイア』の公演が終わりました。私は結局、21回通いました。2003年のレミゼ帝劇公演もずいぶん通いましたが、それでも13回だったし、この数字は私にとって新記録。

 本当に素晴らしい公演だったと思います。たくさんのものをもらった気がする。形ではなく、心を動かすなにか。

 今回の公演に関して、観劇記のまとめのようなものを書こうと思っていましたが、どうしてもうまくかけなくて、それはいまだにそうなんだけど、とにかくなにか書いてみることにしました。とりとめのない話になってしまいそうですが、とにかく書く、ということで。

 公演が終わってからずっと、気がつけば頭の中でヴァンパイアの歌をうたってました。満員電車の中、本を読むこともできないような混雑のときはいつも、心の中でヴァンパイアの歌をうたっては、その歌詞の世界に入りこんでいた。公式HPで宣伝のカリスマさんがおっしゃっていたように、『ダンス・オブ・ヴァンパイア』は哲学的な要素が盛り込まれていた話だったと思うし、だからこそ深くて、どこまでいっても底がみえない。それだけ、惹きつけられ、考えさせられる。

 どうして生きているの? “わたし”はどこから来たの? この世界はなんなの? 生きる目的はなに? 私は最近、そんなことばかり考えています。この『ダンス・オブ・ヴァンパイア』の公演が終わってからは、貪るように本ばかり読みました。ベストセラーになった『ソフィーの世界』や三島由紀夫、それから宗教や自己啓発関係のものなどなど。その合間に、息抜きになるような軽いエッセイも織り交ぜて。中村うさぎさん著のものです。この方の本は軽く読めるけど、その向こうには果てしない闇が広がっていて、それが魅力。

 

 『ダンス・オブ・ヴァンパイア』を見た21回。私が泣かなかった回はありませんでした。一幕もニ幕も、いつも泣いてました。もちろん、周りに迷惑をかけてはいけないので、ハンカチを鼻の下にあてて、涙も鼻水も流れるままに音を立てずに、という、明るいところでは決して見られたくない恥ずかしい姿。幸い舞台中の客席は暗いから、周りの目を気にせずに思いきり泣くことができました。

 たぶん、これだけ泣いたのは客席の中でも5本の指に入るんではなかろうかと自負してます。

 たくさん観劇すればそれだけ慣れて、そのうち泣かなくなるんじゃないかと思いましたが、結局のところ泣かなかった回は一日もなく。それどころか、最後に見た前楽の「抑えがたい欲望」ではいつも以上に心を激しく揺さぶられました。山口さんの声自身が、泣いているように聞こえたからよけいに。

 「この私がわからない自分でさえ」「自由にもなれず燃え尽きることもできず」「得られぬなにかを求め続けてる」「永遠の幸福などこの世にはない」

 あの歌の訳詞の素晴らしさには、感服します。

 どの言葉も、等しく胸を打ちます。伯爵に共感するから、その苦しさが自分のものに感じられて、胸が痛いのです。ああ、実際今でも胸が痛いです。その痛さを忘れたいから、癒したいから、私は山口さんの出演するミュージカルを見に行くのです。

 でも、どんな演目でもいいわけではありません。たとえば『エリザベート』。私はトートが好きじゃない。エリザベートの甘ったれっぷり(史実のエリザベートではなく、あくまであの舞台で描かれるエリザベート)には苛々するし、そのエリザベートに興味を抱くトートにはなんの魅力も感じない。

 山口ファンではあるので、公演があればそのうち1度は見に行こうと思うのですが、行くたびに後悔してしまう。エリザベートに恋するトート、「あ、そうなの? ふーん」的な冷たい気持ちになってしまう。

 『ダンス・オブ・ヴァンパイア』の伯爵は、とても共感の持てる存在です。「答えを探し続ける姿」には、まるで自分自身を見る思いがする。

 私は、すべての出来事に答えが欲しいから。偶然などない、この世のすべては必然であるというのなら、自分が経験してきたことになんの意味があったのか、その答えが欲しいなあと思う。

 ただ、「運のせい」だとか「偶然」とかいう言葉では満足できないのです。だから手当たり次第に本を読んだり、お芝居を見に行ったり、自然の中に答えを見出そうとして必死になる。

 まあ、あんまり深く考えすぎると身動きとれなくなってしまうので、そんなときには仕事にうちこむ。他になんにも考えられないくらい仕事に没頭して、それから仕事帰りには一駅、二駅はわざと歩いて、体をくたくたに疲れさせてすぐに眠る。余計なことなんて、なにも考えなくてすむように。

 伯爵がアルフに「私がその謎を明かそう」と誘惑する気持ち、とてもせつないです。伯爵が一番求めているものは「すべての答え」であるがゆえに、それが一番魅力的な誘惑だと思って、そう言っているんだろうなあと思うから。でもアルフにとっては、そんなものより大事なものは別にあるわけで。

 自分が一番欲しいものを、他人も欲しいとは限らないということですね。

 自信満々でアルフを誘惑する伯爵の姿には、必死さを感じます。

 そうです。私は伯爵は必死なんだと思う。悠然と構えたその姿の裏側で、のたうちまわっているのが見える。あの伯爵でさえ、それだけ必死にあがいてそれでも得られないもの。それが人生の答えというものなのかなあ、と思ったりします。

 欲しいものは単純で、たやすく手に入りそうなのに難しい。

 

 また気が向いたら、『ダンス・オブ・ヴァンパイア』に触発された自分の気持ちを書きたいと思いますが、今日のところはこのへんでやめておきます。

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