『Wの悲劇』

映画『Wの悲劇』に関しての感想です。ネタバレ含んでいますので、未見の方はご注意ください。

薬師丸ひろ子さん主演の、『Wの悲劇』、もうずっと昔、レンタルビデオを借りて見た記憶がある。GyaOで無料放送しているので、懐かしくなってもう1度見た。昔見たときには、世良公則さん演じる森口昭夫が、ひろ子さん演じる三田静香を平手打ちするシーンが、どうにも受け付けなかった記憶がある。

しかし、今回もやはり受け付けなかった。

なんでそこで殴るかな。

映画の公開当時、「顔ぶたないで。私、女優なんだから」というセリフが話題になったけど、そもそも男が女の顔殴るっていうシチュエーション自体が、嫌だった。手をだすほど、彼女が悪いことしたとは思えない。あるいは、不幸の道へ転落寸前だったとも思わない。そこは、単なる感情の爆発。許せないから、腹が立ったから、昭夫は彼女を平手打ちして自分の憂さを晴らしたとしか思えず。

あらためて見ると。

俳優って、一般の会社とは違うんだなと。男女関係も、普通の感覚でみたら駄目なんだと思う。静香は劇団員として、舞台に立つことを目指してがんばっていたんだから、その過程でなにがあっても、昭夫が口を出せる問題じゃないなと思った。それに昭夫が門外漢ならともかく、自分も元劇団員で俳優目指していたなら、役を勝ち取るためになにが行われてる世界か、知らなかったわけじゃないだろう。

途中まで、昭夫ってけっこういい人だなあとほのぼの見ていたのが、あの平手打ちシーンですっかり熱が冷めてしまった。階段に座りこんで待ってるシーンなんて、ほぼストーカーだ。家へ帰る途中、ああ、もう少しで部屋に着くっていう瞬間って、一番リラックスしているときだと思うけど、あの不意打ちはむごい。

静香が布団にもぐりこんで服を脱いで。それをいちいちハンガーにかけてあげて、「酔ってるんだろ」とか冷静にお説教してる昭夫はいい人だったんだけど。現実ではありえないくらいに。この自制心みたいなものは、『早春物語』にも同じようなシーンがあって、これはきっと澤井信一郎監督の美学だと思った。現実では・・・そんな理性、働かないだろうなあ。『早春物語』の林隆三さんはまあ、知世ちゃんとは年齢が離れてたから、説教して当然。だけど昭夫の年齢で、目の前に好きな子がいて、その子が誘いをかけていたら。

三田村邦彦さんが、静香の憧れの人、五代淳役だ。

これまた、いい味出してます。静香への投げやりな態度が見ていて、うわあ、と思うくらい上手い。もう全身から、「君は別に、大事な人じゃないから。大勢の中の一人だから」みたいな空気を醸し出している。

静香が、オーディションの前にダメ出しを頼むシーンとか、もう見てるこっちが、いたたまれなくなるくらいに。

三田佳子さん演じる羽鳥翔は、この映画のVIP。三田佳子さんでなかったら、この映画はまた全然別物になっていたと思う。ザ・女優。高木美保さん演じる菊地かおりをいびるシーンは、迫真の演技。大御所になると、こういうの実際あるんだろうなと思いながら見ていた。大御所の気分で、左右される新人の運命。悔しかったらアンタも私の位置まで上がってきなさいよ、ということなんだろう。ただ、かおりも気が強そうだから、泣き寝入りはしないだろうなあと思った。

静香にパトロンの死の隠蔽工作を頼むシーンで、お酒を勧めるところがさすが。これ、シラフだったら、静香は絶対うなずいてないから。アルコールは、正常な判断能力を鈍らせる。羽鳥翔、伊達にこの業界でトップにのぼりつめてないと感じた。後で、五代に「馬の鼻先に人参ぶらさげて」と非難されたとき、「あら、食べたのはあの子自身よ」(セリフは正確なものではありません。だいたいこんな感じなことを言ってた)と、シラーっというところにも、大女優の風格がある。

女優だから、誘導することは巧みだもんね。まるで自分の意思でそうした、と、静香に思わせるのなんて、お手のものだったでしょう。静香自身に、つけこまれる素地があったのは確かだけど。いくら素地があっても、実際火を点けたのは翔。ここで翔の誘惑を拒絶してたら、静香はきっと劇団辞めて、昭夫と結婚してたんだろうなあ。

高木美保さん、群を抜いて綺麗。そりゃ劇中劇での主役に選ばれるのも当然という美貌です。正統派美形でした。静香と並んだときに、2人の魅力が対照的でバランスがよかった。かおりと比べると、静香がとても平凡な女の子に見えるのです。実際には、静香もとても可愛いんだけど。

最後に静香が泣き笑いで、カーテンコールのように挨拶してみせるシーン。

ああ、女優としてやっていく決意なんだなあと、これ見せられちゃったら、昭夫も諦めるしかないなと思ったのでした。

今回、見終えた感想。劇団の雰囲気とか、芸能界とか、もちろん、この映画を鵜呑みにするわけじゃないけど、私がファンである山口さんもそうなのかなと思ったら、ちょっと悲しくなった。

いや、やっぱりファンだから。

こういう世界にいるのかなあと思ったら、そうなんだなあ、みたいな。昔はなにも考えずにこの映画を見てたけど、山口ファンとなった今では、「これが山口さんのいる世界」なんだとして捉えてしまう。

やっぱり聖人君子として見てる部分があるんだよね。いろいろある世界だけど、どうかあなただけは綺麗な人でいてください、みたいな。無理か・・・。

静香にも翔にも、なってほしくない。でもそうでなければ、トップでいることはできないんだろうか。

以前、山口ファンの友人と話していたとき、その子に笑われた。「夢みすぎ」だって。あなたの思うような人ではないと思う、と言われて、必死になって反論したけど。私が勝手に理想化しちゃってる部分もあるんだろうなと、少し反省した。

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