『変な探偵』茶木ひろみ著

『変な探偵』茶木ひろみ著、を読みました。感想を書きますが、ネタバレ含んでおりますので、未見の方はご注意ください。

同じ作者の『銀の鬼』が好きだったので、どうしても読みたくて買ってしまった。『銀の鬼』と同じ匂いのする漫画。

主人公のうり坊こと、水乃うり。そして、探偵の蓬(よもぎ)スエノスケ。この2人の関係がなんとも、せつないものでした。2人は似ている。似ているから惹かれあう。

『銀の鬼』の島影十年より、私はヨモギ氏の方が好きかもしれない。巻末の、ヨモギ氏の過去にはドン引きしたけど。あのエピソードはいらなかったな・・・。というか、信じてない。信じてないから、好きでいられる。

漫画なので。好きなように解釈すればいいと思ってる。だから私にとっては、あの巻末エピソードはなかったことになってます。きっとヨモギ氏には別の、もっと違うなにかがあったんだな、うん。

素敵なセリフがありました。

>永遠の未完成のまま広がっていける相手をです

>そういう魔法はとけません

これ、ヨモギ氏がうり坊に言うセリフなんです。いいなあと思いました。未完成だから、魔法がとけない、か。そんなものなのかもしれない。未完成で、かつ広がることのできる相手。それが可能だとしたら? そんなパラダイスって、あり得るんだろうか?

ヨモギ氏と、うり坊の内面については、あまりはっきりと、具体的には描かれていないところもあるのですが。作者の言いたいこと、なんとなくわかったような気がしてなりませんでした。もちろん、私の勝手な思い込みかもしれないけど。

2人とも必死。その必死さに、共感するというか。うんうん、わかるよ、みたいな。どうしてうり坊が家を出たのか、どうしてヨモギ氏に惹かれるのか。怖いと思いながら、その一方で安心している部分があるのは何故なのか。そこらへんが、すーっと入ってくる。違和感なく。

でも、できればヨモギ氏には、うり坊に近付いてほしくなかったなあ。そういうキャラじゃないと思う。あくまで、感情を抑えた目で見ていてほしかったというか。必要以上に近付き過ぎのところが少し、気になりました。

舞台『レベッカ』で繰り返し「愛とはなにか」なんて歌われていたけど。この漫画の中でも、ヨモギ氏が印象的なことを言ってます。

>殺すのと愛するのと、同じ意味かもしれませんよ

これは違うでしょう。それは全然、真逆だと思う。殺すのは、自己愛にすぎない。相手が自分の思い通りに動かないからって、心まで無理やり奪うのは、それは相手を好きなんじゃなくて、自分が好きなんだと思う。「○○さんを愛してる、そんな自分が好き」ってことで。

自分がもし逆の立場だったら? たまらない話だと思う。勝手に好きになられて、勝手に「自分と同じだけの愛情を返してくれないから」という理由で殺されるなんて。思い通りになれ、という傲慢な態度には、嫌悪感しか感じない。

幸せって、たぶんそれぞれ人によって形が違う。その人の幸せが、自分以外のところにあるなら、悲しいけど仕方ないと思う。私なら、無理やり自分に振り向かせようなんて思わない。だって、誰を好きになろうが、それこそ自由だもの。

その人が、その人の幸せをみつけてくれれば、それでいい。

強がりじゃなくて、本当にそう思う。その人が幸せに笑ってくれたら、やっぱり嬉しいもの。

このお話、内容は『銀の鬼』よりはるかに大人向けです。精神世界的なものも描かれていて、なるほど~と思うところもあり。たとえば、外側の世界を変えるために内側を変える、というそういうヨモギ氏の理論。

深いわ~と、思わず唸ってしまいました。

変な探偵は、ほんと、変な人です。だけどそんな変な部分を、私も持ってるのかもしれない。それからうり坊の苦しさも、わかる。謎を解かれていく心地よさと、忘れていた部分を思い出す、その痛みと。

私は昔、全部を知る人になりたいと思っていた。世の中のこと、それこそ全部。そしてどんな小さなことにも気付ける人になれたらなあと、願ってたけど。

今はもう、わかるもんね。

知って苦しむだけの事実なら、知らない方がいい。

感じて、それが苦痛以外をもたらさないなら、最初からなにも感じないほうがいい。

気付かない幸せというか。そういうものがあるんだと知った。知らない方がいいことも、世の中にはあるんだってこと。

自分がどうしても苦手で、無意識に避けている行動、人、物。そういうものには、たいていちゃんと意味がある。どうしてそれが苦手になったのか、遡ると答えが見えてくる。そしてそれを解消しない限り、ずっと避け続けることになる。

『変な探偵』って、タイトルもいいですね。たしかに変な人。でも、ヨモギ氏は魅力的だと思います。人格って、一生のうちに、そんなに劇的に変わるものではないでしょう。だからやっぱり、最後のエピソードは余計だったな。ヨモギ氏が、あんなことをするわけはないと思う。そういうことをする人なら、それ以前の話が全部、嘘になってしまう。

二重人格の人ならともかく・・・。え? もしやヨモギ氏はそういう人なのか??

また、何度か読み返したいと思います。深い漫画でした。

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