『怪人二十面相・伝』北村想著

『怪人二十面相・伝』北村想 著を読みました。以下、感想ですが思いきりネタバレしていますので、未見の方はご注意ください。

そもそも読み始めたきっかけは、金城武さん主演の映画でした。予告編がテレビで流れているのを見たり、映画の宣伝でテレビの番組に出ている金城さんを見て、「これ原作があるなら、読んでみたい」と思ったのがきっかけです。

そして読み終えた後・・・。

これ、原作と映画って、全然違う話じゃないですか(^^;

私、映画は見ていないし、今後もたぶん見ないと思うんですが、小説だと二十面相は誰かに罪をきせようなんてしていないですし。

むしろ劇場型犯罪。誇示することに喜びを感じているのが二十面相であって、映画のように、無関係のサーカスの青年に汚名をきせるなんてことは、ありえないわけで。

映画と小説は全く別の媒体だから、表現が多少違うくらいならありえる話ですが。ここまで異なった話だと、そもそもこの小説に「原作」の名を負わせることも、どうかなと思います。ヒントを得た、とか、オマージュ、というのもなにか、違うような。

描こうとしているものが、違いすぎると感じました。

で、どちらが私の好みだったかというと、断然小説の方です。映画を見ていない段階で断言してしまう。

映画は、予告編を見たときにまず、ちょっとがっかりしました。

冒険活劇みたいになっていたから。アクション映画?みたいな。せっかく二十面相を描くのに、コミカルなイメージが強くて残念です。

アクションはあってもいいと思うし、それこそ今の特撮技術で、二十面相の鮮やかな立ち回りを見ることができたらワクワクしますけど、それだけで終わってほしくないというか。江戸川乱歩の描いたあの時代の、陰のようなもの。闇のベールを纏ったおどろどろしさ、を見たかったです。暗い映画だとヒットしにくいから、明るく万人受けするものにしたのかなあ。

金城さんが「オレ? 違うよ!」と明るく否定したり、松たか子さんが令嬢だったり、という時点で、乱歩ぽさはないんだなあと。

小説の方は、平吉の成長物語ですね。戦前・戦中・戦後と、たくましく生き抜いていく平吉の姿が心強かったです。もう物語の始めから暗い話なんですが、でもあまりつらくならずに読めたのは、平吉がたくましかったから。

子供だけど、自分で環境を受け入れて、明日へ明日へと歩き続けていく。振り返ってグジグジ悩んだりしない。

サーカス団に入る経緯からして、相当なものですが。でも平吉は、すぐにそのサーカス団に居場所を見つけ、師匠をみつけ、自分の道を切り開く。

大人になった平吉が、昔の自分と同じようなシンちゃんに、稲荷寿司を持たせてやるところがよかったです。平吉も、センセにもらったアンパンがよほど嬉しかったのでしょう。

小説の中で、一番の悪人が、驚いたことに小林少年! この展開にはびっくりしました。小林少年、明智先生までも蔑視しているような印象をうけます。性格悪いなあ~。怪我の恨みをいつまでも引きずっているけど、そもそも爆発の原因を考えたら、誰も恨めないんじゃないかと。それどころか、かばってもらったからこそ、それだけの怪我で済んだのになあ。

幸子さんの最後には、ぐっとくるものがありました。最初はサーカス団の団長のお嬢さんだったのに。人間の運命は、どこでどう変わるかわからないものです。

たぶん、身を引いた平吉には、ずっと特別な思いを抱いていたんでしょうね。だけど再会したときにはもう彼女は、平吉の横に並べる資格を持っていなかった。

もうね、平吉と再会したそのときから、ゆっくりと落ちていくしかない哀しさみたいなものを感じました。その坂は急勾配ではないけれど、でもゆるやかに下るしかない。一方向に。

昭和・サーカス・二十面相。独特の雰囲気を味わえる小説です。

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