『new moon』 Stephenie Meyer 著

『new moon』Stephenie Meyer著 を読みました。以下、感想を書いていますが、ネタバレを含みますので、未読の方はご注意ください。

new moon。新月というタイトルが意味深でした。新月。真っ暗な空。月のない闇夜です。

ベラにとって、エドワードが月だったのでしょうか?

エドワードが去っていくという衝撃の展開が、この巻のキーポイントですね。エドワードがいなくなった世界から、月の優しい光が消えてしまった。

エドワードが好んで聴いていた曲は、ドビュッシーの「月の光」でした。いかにもエドワードらしいなあって、そう思いました。偶然にも、これはベラの好きな曲でもあり。そういう二人だからこそ、惹かれあったんでしょうけど。

私はベートーベンの『月光』の方が好きです。でもドビュッシーの曲も、可愛らしくて軽やかで、目の前に情景が浮かんできますね。明るい月夜。森の中。

太陽のように肌を焼く明るさではなくて。でも青白い光は十分に明るく、美しく辺りを照らし出して。静かに踊りだしたくなるような、楽しい曲です。きっとその月の光の中では、妖精の姿も見ることができるような。

エドワードにとっては、人間だった時代に太陽が必要だったように、今は月の光に安らぎを求めているのかなあと思いました。

ベートーベンの『月光』って、なんだか悲しいんですけど。でもドビュッシーの『月の光』は、希望がみえる曲だなあって思います。あんまり深いなにかを追い求めたりせずに、ただ今あるこの瞬間に、身を委ねている、みたいな。月の優しい光が自分を包んで、そして自分は焼けおちることもなく、光の中にいることを許されている、みたいな。

new moon の表紙に描かれているのは、赤い血を吸い上げたように染まった、白い一輪の花。

これがまた、秀逸なセンスだなあと思いました。元はきっと、触れるのがためらわれるような純白の花。それが赤に染まるのは、なにか痛みを連想させて、無残にも思えるのですが。

でももう、一度その赤に染まったならば。きっと元の白には戻れない。真っ赤に染まった小さな花びらのかけらが、はらりと落ちていくのも意味深ですね。

5月の、咲いたばかりのつつじの白さを思いました。なんの傷も、色あせもない。柔らかなその花の白さを。いつも、つつじの咲く頃になると、その無垢な白さに心を打たれます。交通量の多い、複数車線の道路に沿って。それでも黒い空気に染まることはなく、まるで今朝開いたばかりのような、曇りのない白さを保ち続けるつつじ。

この巻では、エドワードがベラの前から姿を消します。その別れはベラをひどく傷つけますが、だからこそベラは自分がどれだけエドワードを必要としていたか、やっと気付いたのではないかなあと思うのです。

それまでのベラは、エドワードがベラを思うよりはずっと、低い温度で彼を思っていたような気がするのです。たしかに幾度となく、エドワードを慕う描写は続きますけれど。それを読んでもなお、私の心にはあまり、響くものがありませんでした。

初めて誰かを好きになった、ふわふわとした陶酔感のようなもの。単純に楽しくて、うれしくて。そういう、無邪気な子どもが喜ぶような感情の高ぶりを感じたのです。

対するエドワードは、さすが長く生きているだけあってベラよりはもっと冷静に、二人の関係を捉えていたように思います。そして彼はたぶん、ベラが大事だからこそ、去っていったのですよね。別れに関して、本当のことをベラに話そうとはしなかったし、できるだけ冷たい態度で淡々と。

>Don’t do anthing reckless or stupid

(無茶なことや、馬鹿なことはしないでほしい)

最後に、お願いがあるんだと切り出して告げたのが、この言葉。

エドワードにしてみれば、すがるような思いだったに違いありません。むしろこの言葉を口にすることで、逆にベラがそういった行動に出てしまうのではないかという危惧は、当然あったはずで。

でも、この言葉を言わずにいられなかった気持ちも、よくわかるんです。もう見守ることはできないから、不安で、心配で。この言葉をかけずにいたら、きっと後悔しただろうから。

だからこの言葉を、できるだけなにげないことのように、切り出したんだと思います。本当はもう心から、真剣に頼みたいという気持ちを抑えて。

もし真剣さを悟られてしまったら、その向こうにある愛情をベラは、きっと見透かしてしまうでしょうから。

エドワードにとっては、精一杯の優しさ。

自分がひどい奴に思われたり、恨まれたりするのはちっとも構わなかったはず。

早く自分を忘れて、普通の生活を取り戻してほしいと、それだけを願っていたはず。自分が考えられる最良の別れを、演じきったんだと思います。

そしてベラは、演技の向こうの真実を、見ることができなかった。

ここから先、延々とエドワードが出てこないので、エドワードファンの私としては悲しかったです。私は心のどこかで、「エドワードがベラを本当に置いていくはずはない」と思っていたので、ベラが聞いた心の声は幻聴ではなく、なにかエドワードの特殊能力の賜物で、本当に彼が語りかけているものだと、すっかりそう思いこんで、本を読み進めていましたね。

実際には、本当にエドワードは、ベラとの関係を完全に断ち切っていたわけです。それがどれほどつらい努力だったか。きっとベラ以上に苦しんだだろうなあと思います。なにしろ、眠らない、記憶が薄れない、吸血鬼なんですから。

そしてベラにとって、エドワード不在の心の隙間を埋めてくれたのは、他でもないジェイコブその人。

しか~し。私はジェイコブの気持ちがよくわからないし、彼に対するベラの態度にも、疑問を感じるんですよね。

だって、つらかったベラを救ってくれたのはジェイコブで。

それなのに最後の最後で、エドワードが危ないと知ったとき、ベラはジェイコブの懇願にも関わらず、家を飛び出した。ジェイコブを置き去りにして。

この時点で、普通だったらもう、ジェイコブは呆れ果てると思うんですよね。まあ、呆れ果てるとまではいかなくても、思い知ることは確実で。ベラが好きなのは、自分じゃなくて、エドワードだってこと。そりゃ自分のことだって、好意を持ってはくれているだろうけど、もしこれが逆の立場だったらね。

つまり、ジェイコブが危険に晒されていて、エドワードが「行くな」ってとめたら、きっとベラはエドワードの言葉に従って、ジェイコブを助けに飛び出すことはないだろうと。

つまり、完全な失恋状態だと思うんですよ。本当に心から、「行かないでくれ」って頼んだのに、好きな人がその場からいなくなったら。私なら諦める。もう仕方ないやって思う。それはその人の意志だし、その人にとっては、自分よりも大切なものがあるんだって、思い知らされたから。

なのにジェイコブはベラに執着し続ける。このへん、私にはよくわからない心境です。

ジェイコブはなにを見ているんだろう・・・。

そしてベラね。

もし私がベラの立場なら、もう今さら、どの面さげて、「これからも仲良くしてね♪」みたいなことをジェイコブに言えるだろうって思うんですよ。

誰かを好きになる気持ちは自由になるものではないから、ベラがジェイコブでなくエドワードを選んだっていうのは、これはもう仕方のないことで。だったら、せめてジェイコブが傷つかないように。その傷が浅くすむようにって考えないのかなあ。

ジェイコムと友達でい続けることなんて、どう考えても無理。離れた方がお互いのためなのに、どうして無駄な傷を増やすようなことをするんだろうと。ベラって天然で、残酷な部分があるんだなあ。

それは、ベラのこの言葉を読んだときにも感じました。

>How can she watch those people file through to that hideous room

> and want to be a part of that?

最後のthatの部分が、イタリック体になって強調されてました。

これ、どんな状況かというとですね。人間でありながら吸血鬼のヴォルトゥーリ一族の元で働いている、ジャンナという女性がいるんですけども。この人は何も知らない人間達が、吸血鬼の食事として恐怖の部屋へ(何も知らずに)連れて来られるのを平気で見ているわけです。それでもって、自分もthat(その)仲間になりたいと願っていると。

それを知ったベラが、「理解できないわ・・・」とばかりに、このセリフを叫ぶわけです。

thatがなにを指すのかによって、解釈は2つあるような気がします。「吸血鬼の餌食になることも知らずに連れて来られた人間たち」か、「その人間たちを残酷に食らう吸血鬼」か。

前者なら、ジャンナは、いつの日か自分が吸血鬼の犠牲者になることを望んでいる、ということになるし、後者なら、自分自身が吸血鬼の仲間になることを望んでいる、ということで。

これ、正解はどっちなんだろう? まだ日本語訳を読んだことがないので、正解がどちらかわからないですが、私はとっさに、「吸血鬼になりたがっている」と解釈しました。

そしてもし、この解釈が合っていたら、ずいぶん残酷なことを、無邪気に口にしていることになるなあと。

だって、目の前にはエドワードがいて。エドワードは人間を襲ったりしませんが、それは理性で抑えているだけ。本質的には、ヴォルトゥーリー一族と同じなわけです。それなのに、「あんなもの(化け物)になりたいだなんて、気がしれないわ!」と言っちゃってるわけで。

これは、もし自分がエドワードだったら傷つくだろうなあと思いました。ベラが、悪気があって言っているわけではないだけに、それが本音だとわかるだけに、ね。

もし前者の意味だとしても、それはそれで、エドワードにとっては微妙な心境だったろうと思います。「吸血鬼の餌食になるなんてごめんだわ!」と言ってるようなもので。なんというかその・・・非常に複雑な気分になっただろうと思われます。

エドワード、吸血鬼ですから(^^;もう、そのことについては、どうしようもないわけで。

自分の存在を否定されているような・・・。もちろん、エドワード自身が自分の運命を呪い、「魂を失った」とさえ感じているとはいえ、それをあらためて、愛するベラの口から聞かされると、これはね。

ともかく、いろんなことがあって、やっとまた巡り会えた二人ですけれども。一度別離の悲しさを知っただけに、ベラが必死にエドワードとの時間を確保しようとするところが泣けました。

寝ちゃったらもったいない。だって、ずっと一緒にいられるという保証はないから。

そんな気持ちで、疲れきった体にも関わらず、必死に眠気と戦ってる姿が、可愛らしかったです。

そして、飛行機の中。聞きたいことは山ほどあるけれども、今それを聞いたら、エドワードと一緒にいられる時間に終わりがみえてしまう。だからこそ、すべてを後回しにして、時間を稼ごう。シェヘラザードのように、時間稼ぎをするのだ、と決意するベラがいじらしかったです。必死に眠気と戦って、一秒でも、エドワードと過ごす時間を引き伸ばそうとする努力が。

エドワードは全く気付いていないだけに、ベラの気持ちがせつなかったです。

彼を見上げるベラの胸中に、共感しました。きっと、遠い人に見えたと思う。やっと再会して、こんなに近くにいても、どんなに優しくされても。またきっと去っていってしまう。そしたら自分は、今度こそ壊れてしまうのではないか、きっとそんな不安に苛まれて。

祈るような思いでエドワードを見ていたはずです。その目になにもかも焼き付けようと。そして、エドワードの心を、遠く遠く、感じていたのではないかと。自分の知らない世界をさまよう彼の視線の先を、必死に追い求めて。

new moon では、ロザリーの言葉も印象的でした。

ロザリーは、ベラが吸血鬼になることに反対票を投じ、その理由をこう告げたからです。

>…this is not the life I would have chosen for myself.

(これは、私が選んだ人生じゃないの)

>I wish there had been someone there to vote no for me.

(私のときにも、Noと言ってくれる人がいたらよかったのにって、そう思うから)

重い言葉です。ベラに対してはずっと冷たい態度のロザリーだったので、私は最初、あんまり好きじゃなかったんですけど。こういう肝心なときに、人の本当の心ってわかるんだなあと思いました。ずっと誤解してました。ロザリーはむしろ、いい人だったんだ。

彼女はたぶん、ベラを嫌っていたというより、巻き込みたくなかったんじゃないかと。人間として生きていく未来があるのに、なにも吸血鬼の世界に足を踏み入れなくてもいいじゃない、と。吸血鬼として生きることの苦悩を知るロザリーだからこそ、最初はベラを拒絶していた。

そしてたぶん、この反対票が無駄になることも知ってたんですよね。自分が反対しても、状況は逆に動くだろうって。ただ、ここで反対することが、彼女なりの精一杯の優しさ。彼女のみせた誠意なんだと思います。

ジェシカよりよほど、優しい人なんだと思いました。

new moon でみせた、ジェシカの態度は最低です。本当の友達って、相手が自分の思い通りに動かないからって、冷たくなったりはしないと思う。ジェシカのベラに対する態度は、読んでいて本当につらかった。まるで自分がベラになったようで、心が痛かったです。

次の巻、『eclipse』では、どんな物語が展開するのでしょう。

読み終えたらまた、感想を書きます。

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