ドラマ『咲くやこの花』最終回の感想

  NHKドラマの、『咲くやこの花』最終回を見ました。以下、感想を書いていますが、ネタばれしていますので未見の方はご注意ください。

 最終回が一番よかったかもー、のドラマでした。

 それまでの回はつっこみどころが多くて、いくらドラマとはいえ、現実離れしすぎてしらけてしまったり・・・。でも最後まで見て、張り巡らされた伏線に、しみじみと感じ入りました。

 簡単なあらすじはというと、漬物屋の一人娘で、目立つのが大嫌いだったおこいちゃん(成海璃子さん)が、仇討ちを志す浪人の深堂由良(平岡祐太さん)に恋をして、「大江戸かるた腕競べ」で優勝を目指す物語です。御前試合では付き添いが許されるため、由良さんが江戸城に乗り込んで、宿敵を討ち果たすチャンスがあるかも?というわけです。

 出会いからしばらくは反目しあった二人でして。おこいちゃんも目立つのが嫌いだから、かるた大会なんか、とんでもないと断るのですが。

 最初のうち、おこいちゃんには仇討ちの意図を隠して、平然と出場を薦める由良さんにはげんなり。

 うーん。それ卑怯だよね。

 そりゃあ、武士にとって敵を討つことは正義で、美学かもしれないけど。付き添いで由良さんを連れて行って斬り合いになっちゃったら、いくら知らなかったことと弁明しても、おこいちゃんはお咎めを受けるわけで。

 由良さんが、そのことに気がつかないわけはない、と思うのです。

 なんにも知らない町娘を巻き込んでまで、仇討ちをしたいのか。それって、武士としてどうなの?と。武士としての誇りは、それでいいのかと。

 だから、私は由良さんがあんまり好きにはなれなかったのです。若さゆえに突っ走ってしまうのはわかるけど、どうにも軽いし、冷たいなあって。

 おこいちゃんに仇討ちのことがばれちゃった後も、必死で頼んでるからねえ。どんなお咎めを受けるか、なんてことは、町娘にはよくわからなくても、由良さん、あなたが知らないわけないよね、と、思わず画面に非難がましい目を向けてしまいました。

 あと、気になったのが、おこいちゃんが由良さんを好きになる心境の変化。特別な何かがあって・・というのがなかったので、おこいちゃんの心境の変化が唐突に思えてしまったのです。ドラマだから、時間の制約があったのかもしれませんが。

 おこいちゃんがいきなり、大胆な行動に走ったのには驚きました。

 なんでいきなりそこまで好きになったの??と。

 おこいちゃんは雨の中、おっかさんと喧嘩して、由良さんの家に行ったりして。

 妙齢の女子が、独り暮らしの浪人を単独で訪ねてはいけません(^^; 由良さんも、玄関先で対応するべきでしたね。部屋に入れずに。

 結局、激しい愛の告白にちょっぴり心が揺れた由良さんですが、「私はお前と生きる気はない」と、土砂降りの雨の中におこいちゃんを突き飛ばしてしまいました。

 ひどすぎる・・と、その回の放送直後はそう思いましたが、思いやりといえば思いやりなのかな。慰めのような優しさをみせれば、おこいちゃんは夢をみてしまうだろうし。どうせ末は結ばれないとわかっているからこそ、わざと嫌われるように、絶望するように突き放したのかな、と。

 あんなふうに、1パーセントの希望も持てないくらい拒絶することで、おこいちゃんを守ったんですね。

 このときから、私の中で由良さんへの評価が少し上がったのですが。そうすると、なんだか不思議。由良さんの目が、キラキラ輝いて見えてきた。ふとした瞬間に、キラッと。そしてまた次の瞬間、キラっと。

 撮影のライトが反射してるだけとわかっていても、深堂由良という人物がどんどん、魅力的になっていったのです。

 後に、由良様を演じる平岡さんが、ボールドのCMに出演していることを知りましたが、あのCMの青年が由良様と同一人物とは信じられないほど、由良様は独特ですね(笑)

 書いてる私も、なんとなく由良さん→由良様と、書きたくなってしまいました。

 このドラマ、百人一首がテーマとなっているだけあって、毎回、短歌が効果的に使われています。

 私が一番好きなのは、最終回で由良が、仇である門田伯耆守稲葉(寺田農さん)に送った歌。仇討ちの場を設けようかと役人に問われて、答える代わりにこの歌を送るんですよね。粋だなあ。

>君がため 惜しからざりし 命さへ

>ながくもがなと 思ひけるかな

 とにかく俺は仇討ちしたいの。誰かを犠牲にしたって、なにがなんだって、ともかく、誰がなんと言おうと俺は仇討ちをするのだー!! 的に。まるで駄々っ子みたいにひたすら、仇討ちを望んでいた由良様が、すっかり別人になってしまった。それは、命がけで自分を守ると、まっすぐに見据えて無条件の愛を捧げてくれたおこいちゃんの、真心に触れたからかなと、思います。

 この歌を受けた門田の表情もいいんですよね。女ごときに迷いおって、軟弱な奴め、という不快感。それはもう、門田の価値観はガチガチに固まっているから、当然なんですよ。

 だけどその、ガチガチの門田の価値観もまた、見方によっては一つの正義で。

 考えちゃいました。門田は門田なりに、筋を通して国を守ろうとしたのかなって。

 門田にとっての正義。それこそが国を救うと、信じたなら。私利私欲ではなく、そこには志があったわけで。

 このドラマ、真の悪人がいなかったなあ、と思いました。

 一番悪いと思ったこの門田でさえ、私は最終回で、見直してしまった。それは、演じる寺田農さんからにじみ出る、真摯さゆえかもしれません。

 門田は、おこいちゃんの師匠、おはな先生(松坂慶子さん)とも対立してましたね。そのシーンも、印象的でした。

 門田に斬られた後、おこいちゃんを見る由良様の目が好きです。すっごく優しい。そして柔らかい。

 おこいちゃんに出会って、変わったのが、よくわかります。今までとは全然違う目で、おこいちゃんを見てた。

 ちゃんと国許に帰って、家督のことや諸々を片付けて、それから再びおこいちゃんのもとへ帰って来た由良様。素敵です。短絡的に、おこいちゃんと抱き合って、めでたしめでたしとならなかったのはよかったなあと思います。やるべきことは、山ほどあったはずですもん。それは、長男であり、仇討ちを成し遂げた由良様の責務。

 そこに、おこいちゃんへの真剣な思いを見ましたよ。

 大事に考えるからこそ、全部すっきりさせて、なんの憂いもない状態で迎えにきたんだなあと。大人ですなあ。

 おこいちゃんに横恋慕する、若旦那の順軒(内田滋さん)も、いい味出してましたね。おこいちゃんの無事を祈って神社に行ったとき、おこいちゃんに渡せなかったかんざしをしばしじっと見つめ、それから思いきって賽銭箱に投げ入れた。そのシーンが印象的でした。

 若旦那なりの、決着のつけ方だったなあって。

 あのとき、自分の思いを断ち切ったんですね。

 人が見たら、ボンボンの気まぐれにも見えた横恋慕ですが。でも、かんざしを投げ入れる瞬間の真剣な表情を見たら、順軒は順軒なりに、本気だったんだなあと感じさせるものがありました。

 そうじゃなかったら、あのかんざし、平気で手放せたと思うから。

 これ似合うかな、喜んでくれるかな、って、一生懸命作らせたその気持ちに、嘘はなかったのだと思います。

 他の登場人物も、それぞれ面白いキャラで楽しめました。いいドラマでした。

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