昨日の夜、部屋で寛いでいると、屋根を叩く物音に気付いた。
小石が、パラパラとぶつかったような音が続いている。
雨とは違うし、さっき外へ出たときには星空を見たばかりだし。
何だろう、この音。通り雨?
窓をあけると、一瞬の光が、辺りを照らしだした。雷鳴も耳に届いた。
音は激しさを増して。
寒い夜だから、外へ出るのはためらっていたんだけど。
鳴り止まない音と、光に誘われるようにして、玄関のドアを開けた。
すごい。
目の前が真っ白。
ちらほらと舞い散るような雪ではなくて。
それは雹だった。
こんなに本格的な雹、生まれて初めて見た。
大きな音を立てて、豪雨のように降りそそいでいる。
見る間に、黒い土も、アスファルトも、白く染まった。
寒い冬の夜だから、溶ける間もなく降り積もる。
私にとっては、轟音だった。
好奇心で、一歩足を踏み出した。
頭に無数の雹が当たって、痛い。小さな粒だからいいけど、
万一大きな塊でもあったら、怪我をするんじゃないか。
私はすぐに屋根のある場所に引っ込んだ。
そして、しばらく外を眺めていた。
隣の家から、乗用車が出て行くのが見えた。ヘッドライトが、
暗闇の中に雹を浮かび上がらせている。
ヘッドライトは、歩行者の影も映し出した。
危ないな~。車からあの人、見えるかなあ。
この勢いの雹の中じゃあ、雹に気をとられて歩行者に気付かないかも。
心配しながら見ていると、乗用車はノロノロと遅いスピードで
慎重に走り出そうとしていて。歩行者がずいぶん近付いてから気付いて、
すぐに停止した。賢明な判断。
この状況じゃ、とまってやり過ごしたほうがいい。
歩行者は乗用車の脇をすり抜け。
そして乗用車は、また走り出すのかと思いきや、ゆっくりと
元の家に戻っていった。
たしかに。この雹の中を出かけるのは無謀。
黒いコートを着た歩行者や、無灯火の自転車でもあれば、避けるのは難しい。
きっとこんな妙な天候は長くは続かないから。
晴れるのを待てばいい。一時のことだから。
私は空を見上げていた。
果てもなく、白い雹は降り続いて。
屋根を打ち、地面を打ち、大きな音を響かせている。
降り積もった雹を一つ、指先でつまみ上げた。丸い氷だ。
こんな冬に、突然の雷光。そして雹。
この瞬間だけを切り取ったら、まるで世界の終わりのようにも思えた。
翌日のニュース。どこにもこの、雹のことは載っていなかった。
短時間の、局地的なものであったから、だと思う。
不思議な夜だった。