前回の続きです。
ガラスの仮面について、思うところを語っております。ネタバレも含んでおりますので、未読の方はご注意ください。
速水さんについては、「もっとマヤに対して積極的に出てもいいのに」なんて思った時期もありましたが、あらためてガラスの仮面を全体的に読み返してみると、いろいろためらうのも無理はないか~、なんて納得しております。
紫のバラの人が自分だという告白を、決意しているような場面もありました。
ただタイミングが悪くて、それも流れてしまう。運命って、こんなものかもしれません。
なぜそのタイミングでそれが起こる・・・的な何か。決意も、大きな流れの中にはあっさり呑みこまれてしまう。その大きな波を、乗り越えるほどの燃え上がる何か、強い力があればまた、事態は変わっていくのですね。
いつか、感情がもっともっと揺れて大きく燃え上がったら、そのときには。
たとえなにがあろうとも、自分の気持ちを告げずにはおられない日が来るのかもしれないと、そう思います。
そしてそのときには、たとえ周りがとめたとしても、きっと速水さんはマヤに告げずにはおられないはずです。
真っ直ぐに、マヤの目を見て。
義父の英介に見合いを強要されたとき。
思わず、マヤのアパートへ行ってしまった速水さんがせつなかったです。
行ったからって、マヤに会うわけでもなく、ただ窓から漏れる灯りを見上げてた。
なんなんだその行動(^^;
そういうのって気持ち悪い、と一刀両断される方もいるのでしょうが、でもこの場合、わかるなあ・・・。
仕事に没頭して、紅天女の上演権を自分の人生の最大目標にした。
それって別に、速水さんが生きがいを感じてそうしたわけじゃないんですよね。
逃れたかった。いろんな苦しみから。紅天女さえ手にしたら、自分の心が救われるんじゃないかと、そう考えたから必死になって仕事にのめりこんだんですよね。
紫織さんとの結婚は、大都芸能と鷹通グループとの確固たるパイプを意味するわけで、速水さんがそれを厭わしく思うことも、拒む理由も何ひとつない。
もしマヤと出会っていなければ、彼は喜んでこの結婚に乗ったと思います。
むしろ速水さんの方から、一刻でも早い結婚を進めていったのではないかと。
紫織さんを手玉にとることくらい、簡単だったと思うし。
でも、マヤに出会ってしまったから。
マヤと一緒にいるときの幸福感を知ってしまった今、紫織さんとの結婚はもう、魂レベルで拒否反応をおこしても無理はないかも・・・。
英介の言葉に、理性では納得しても心がついていかなかった。
だからフラフラとマヤの元へ向かったんだろうなあ。だからって、本人と会うとかそんなのじゃなくて、少しでもそばにいたかったというか。近くにいることで癒されるから。
なにやってるんだろう、オレ・・・という心の呟きが、聞こえてきそうな一コマでした。
窓から見える人影を見上げながら、ただ立ち尽くすだけ。他になにもできない。
そりゃまあ、そうですね。
マヤを訪ねていったとして、何も言えるわけないですし。
(以下妄想)
トントン。
マヤ「は、速水さん? 何なんですか。どうしてここに?」
速水「チビちゃんの顔が見たくなった。義父から見合いの話があってね。それで、チビちゃんに会いたくなった」
マヤ「全然わからないんですけど。速水さんのお見合いと私となんの関係が?」
速水「きみに会いたいと思った。声を聞きたいと思った。おれはどうかしているな」
マヤ「?????」
(妄想終わり)
ばか正直にマヤを訪ねていって、会ったとしたら。
上記の妄想のような会話が繰り広げられたのでしょうか。でも速水さん、救われませんね、全然(^^;
マヤは戸惑うばかりだろうし、速水さんだって、自分がどれだけおかしな言動をしてるか、頭の隅では理解しているだろうし。
理性でマヤを諦める速水さんだからこそ、紫織さんには罪な言葉を囁けるんですね。
>真澄さま まわりの方達が
>音楽だけをきいていなさい
>でもみんながみていますわ
>ではぼくだけをみていなさい
あらためて漫画を読み返すと、速水さん、けっこう罪深いこと言ってます。
速水さんにとってはなんでもない言葉かもしれないけど、こういうこと言われたら紫織さんはぽーっとなってしまうだろうし。
マヤを諦めると決意した上での、紫織さんへの甘い囁きだったんでしょうが。
結局、心は勝手に暴走していくので、マヤへの思いは速水さん自身にも制御不可能なことでありまして。
無意識レベルでの合う、合わないという感覚は、バカにできません。
いい悪いではなく、心に不協和音が生じたら、それはもう「間違ってる」という合図なんだと思います。無理して押し進めても、きっとどこかで破綻する。
ここまできたんだから、なんて時間の長さを言い訳にするのは、愚かなことかもしれません。
その心の違和感をずっと抱えたまま、このまま生きていくのですか? ということで。
速水さんが紫織さんと一緒にいるとき。
きっとザワザワ、心にうごめくものを感じているんですよね。それは、瞬間的に放り出してしまうほど強烈な刺激ではないけれど、常に絶えることのない不快感で。
>平気ですわ 雨の中でも 真澄さまとご一緒なら歩いていきます
たとえば、こんな場面。その後の絵が、速水さんの心中を端的に表していました。
速水さんの頬を伝う一筋の汗と、速水さんの腕にそっと絡みつく紫織さんの両腕。
見た瞬間、ぞわぞわきました。
あー、この感覚わかるなあって。
神経がざわざわと波打つ感じ。不協和音。
なんともいえない不快感と強烈な違和感。違う違う違うって、心の中で誰かが全力で叫ぶ感覚。
紫織さんが悪いというのではなく。これはもう本当に、相性というものなのだと思います。
違和感を感じたら、近付いたらダメだと思う。
いい人悪い人、そういうもの関係なく。
近付いた瞬間、触れられた瞬間にわかるものってあるんですよね。
たとえば好きな人の手が、そっと肩に触れたら。
ものすごい幸福感で、自動的に満たされる。もう理屈でも努力でもない、圧倒的な陶酔が全身を駆け巡る。
それは、とめようと思ってもとめられるものではなく。
もう無条件に、幸せになってしまう。
反対に、どうしても合わないと思う人の手が、肩に触れたら。
そこだけに神経が集中して、全身が緊張して、嫌悪感がひたひたと体中に浸みていって、どうしようもなくイヤーな気分になる。
速水さん、やっぱり紫織さんとの未来は無理ですね。
紫織さんがそっと手を触れただけで、無意識に拒絶しちゃってますから。じゃなきゃ、冷汗なんて出ない。
これは努力でなんとかするような類のものじゃないので。合わない人と、無理に一緒にいるのはお互いに不幸だと思いました。
不快な思いを我慢しつつ数年間は過ごせても、一生は無理です。
少し長くなりましたので、続きはまた後日。