『少女椿』『笑う吸血鬼』『ハライソ』丸尾末広 著 感想

『少女椿』『笑う吸血鬼』『ハライソ』など、丸尾末広作品について語っています。ネタばれも含んでいますので、未読の方はご注意ください。

丸尾末広さんの作品を初めて知ったのは、昔、偶然買った『少女椿』のCD-ROM。もう10年以上前のことになるのかな。ずいぶん昔の話です。

買ったときのこと、今でも印象深く覚えています。

レジの横に、目玉商品、という感じで並べてあったんです。私はそのレトロな装丁に心惹かれて、なにげなく手にとって、もともと買う予定だった本に追加して、レジ台に置いたのです。

そしたら、そのレジの人が、「マジですか?」という感じで、一瞬ぎょっとしたように、私を見たんですよね。
なんでそんな風に見られてたのかわからなくて、私は少しむっとして、変な人だなあって思ったんですけど。

家に帰って、そのCDを見て納得です。

たしか18禁という表示はなかったと思いますが、(今は手放してもう手元にないので、記憶による限り)内容は完璧に、18禁でした(^^;

強烈すぎて夢に出ます。子供は見ては駄目な世界です。
あれ、レジの人は内容を知ってたんだなあと、後から思いました。

装丁だと大正ロマン的な、ほのぼのした雰囲気なんですけど、中身はもう凄まじいエログロです。たぶん、江戸川乱歩を百倍くらい過激にした感じです。

大人ならいいけど、これを子供がみたら、しばらくうなされそうな強烈な作品なのです。

ラストも、一見きれいなんだけど全く救いがないし(^^;

ワンダー正光が怖い。目が笑ってない。

主人公はワンダー正光に救われるけれど、それは見方を変えれば、また別の人の囚われ人になるようなもので。自由なんてどこにもない。愛でられる間だけ、守られるだけ。選択の余地はないのです。また別の人に囲われるだけ。

言うことを聞いている間だけは優しいんですけど。だからこそ、逆らったらどうなるかわかってるんだろうな、的な怖さがあります。
主人公がワンダー正光から距離を置こうとしたときの、あの緊迫感。

同じ丸尾末広作品でも、『笑う吸血鬼』と『ハライソ 笑う吸血鬼2』はわりと、過激ではなく読みやすいと聞いていたので、一度読んでみたいなあと思っていました。

なんといっても、あの過激さはちょっとつらいけれど、絵は綺麗なのです。ぞっとする魅力があるというか。毒をもつ花、のような。
それを手にすれば傷付くのを承知で、ふらふらと近付き、手折りたい衝動に逆らえない、みたいな。
一般受けするような作品で、しかも吸血鬼もの(私はもともと吸血鬼というモチーフが好きです)というなら、ぜひ読んでみたいと思っていました。

そしてこの間、出先でヴィレッジヴァンガードをのぞいてみたところ、あったのです。あると思ってましたよ。普通の書店には置いてないだろうけど、ヴィレッジヴァンガードにある予感はしてました(笑)

読んでみた感想。

十分、エログロだと思います。これは結構きついです。感性が鋭い子供が読んだら、かなりの影響を受けそうな気がします・・・。18禁の表示はないけれど、いいのかなあ。完全に、大人向きの作品ですね。

少女椿よりも過激でない、ということはないかと。

読み終えた後の重苦しさは、少女椿と同じです。でも同じくらい、不思議な魅力のある絵でした。

私は、『笑う吸血鬼』だけで完結したほうが、よかったような気がしました。『ハライソ』は蛇足に感じてしまった。

主人公は紅顔の美少年、中学生の毛利耿之助(もうりこうのすけ)です。望んでもいないのに無理やり吸血鬼の仲間入りをさせられた彼が、死にかけた(死後間もない?)クラスメート、宮脇留奈に自らの血を分け与え、花火をバックに空中でキスするシーン。

すごく、胸を打たれる光景でした。

月があって。暗い夜空いっぱいに、花火がキラキラと光りを放って。

たぶん、辺りには花火の爆音が響いているんでしょうけど、読み手に伝わってくるのは静寂なんですよ。胸が痛くなるくらいの静けさ。

世界に二人きり、という孤独。

ああ、二人なら孤独じゃないのか。でもそれは寂しい世界で。

そして同時に、おそらく耿之助が望んだ世界。留奈が安心して生きられる世界。もう、留奈を脅かすものはどこにもない。

空中に浮かんだ二人を、見ている者は誰もいないのです。それは一瞬の、忘れられない情景。

>月は衛星ではない
>あれは空にあいた穴だ
>向こうの世界の光が穴からもれているから 光って見えるのだ

上記は、作中に出てくる言葉です。

向こうの世界はどんなに、光にあふれて明るいことでしょう。そしてこちらの世界の暗さは、吸血鬼である耿之助たちを、どれだけ優しく包みこむのでしょう。

少年少女のまま時をとめ、永遠に生きるというのは、夢のような理想の世界なのかもしれません。

少なくとも留奈は、この世界に絶望し、一度自分を殺さなければ自由にはなれないほど、追いつめられていたのではないでしょうか。狂わなければ正気を保てない。だけど狂いながら生きることに、意味を見いだせない。

まあ。続編の『ハライソ』で、永遠の若さなどというものがまやかしだと、明らかにされるんですけどね。人より急速に老いて、そのまま永遠に生きるという、吸血鬼の苦しみ。

『ハライソ』とは、ポルトガル語で、天国とか、楽園を表す言葉だそうです。

人が楽園を探す物語。
天国は、どこにあるのでしょう。
月の向こう側にある世界と言われれば、それが真実のような気も、してきました。

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