『ガラスの仮面』美内すずえ 著の、速水さんと紫織さん婚約破棄問題について語りたいと思います。
私はこの件について、速水さんを悪いとは思っていないんです。
むしろ、責める意見が多いことに対して、対して、えええ??と驚いてしまう。(これは、以前にもブログに書きました)
そういうのを見ると、自分の考え方が、一般的には少数派なのかな~と思いますが、でもどう考えても、どの方向から眺めても、私には速水さんが「悪い」とは思えないんです。
当然ですが、もし私が紫織さんの立場であったとしたら、婚約破棄の申し出は受け入れますよ。そして、自分も謝ると思います。
いくら速水さんを好きなあまり・・・とはいえ、マヤを泥棒に仕立て上げたり、人の大事な宝物を勝手に壊したことは、「ごめんね。へへへ」と、舌を出して許されることとは思いませんし。
むしろ、冷静になって考えてみれば、紫織さんの行為のほうがよほど、ひどいものだと思うのです。
普通しますか? 自分の想いを通すために、人を陥れるような真似なんて?
百歩譲って、もう好きすぎて頭が混乱してしまってついやってしまったことだったとしても、時間を置いて冷静になったとき。そして、その行為が愛する人にすべてばれたとき、それでも、ヤダヤダだなんて、駄々っ子が道の真ん中で大暴れするようなこと、普通の神経を持った人ならできないような気がするんですが・・・。
そもそも、愛情がないとはっきり確信できた相手と、結婚しようとするのは不幸です。それだけは言えます。
他に大好きな人がいるのに、心を押し殺して紫織さんと結婚すれば、速水さんも不幸ですが、紫織さんだって不幸です。誰一人、幸せな人なんていません。
私が紫織さんを理解できないのは、速水さんに対する執着心ですね~。愛されてないとわかっているのに、どうしてそこまで好きになれるんだろう。
ものすごく大好きになった人がいて、朝も夜もその人のことばかり考えていて、という気持ちは私も経験ありますけど、それは結局その人が、「私を好きになってくれるかもしれない」という可能性があるから、なんですよね。
もしはっきりと、「君のことは好きではない」だとか、「他に好きな人がいる」とわかったら、その途端、気持ちは冷めてしまうだろうなあ。
あれ・・・思ってた人とは違うかもしれない・・・って。
なぜなら、運命の恋人同士なら、必ず惹かれあうものだからです(笑)
お互いに惹かれあわないのなら、一方的でしかないのなら、そこにはなにか勘違いがある、と思います。
勝手な思い込みや理想化、そうしたもので作りあげた虚像相手に恋をしていた・・・ということですね。
作中で使われる魂のかたわれ、という言葉は陳腐かもしれないですが。でも、そういう関係は、両思いであるはずなんですよね。その人を好きではないとか、その人を受けとめられない、というのなら。それは魂のかたわれ的な関係ではないわけで。
勘違い、ですよ。
そして、相手が嫌がってるのに「好きになれ」と無理強いする行為は本当に醜いもので、最低だと思います。
紫織さんだって、気持ちが全く動かない相手と強制的に結婚せざるをえないことになれば、不快でしょうに。そういうこと、少し想像してみただけでわからないのかなあ。
気持ちは、自由なものだと思います。
誰を好きになろうと、それを強制されるいわれはないわけです。
そして、気持ちは動いていくものだとも思います。
つきあったからとか、婚約したから、結婚したからというだけで一生を縛るようなものではなく。
一緒になった上で噛み合わないことが多すぎるのなら、無理に添い遂げるのではなく、別れるのだって道の一つ。誰に恥じることもない、選択の一つだと思うんですよね。
もちろん、責任においては、恋人関係<婚約者<夫婦 の順で、重くなっていくとは思いますけれども。そして、子供がいるのならなおさら、修復の道を探る努力はして当然だと、思いますけれども。
ああ、話が広がりすぎた。
速水さんはまだ、結婚していない(^^;
まだ婚約の段階です。それで、婚約破棄というのは確かに、特に女性側にダメージが大きいというのはわかりますが。そのまま結婚すればもっと大きな不幸を招く、と思うのです。
婚約破棄するのと、離婚するの。どちらが大変かといったら、それはもう断然、離婚する方だと思うから。
ここまで来てしまった以上、引き返せないとか、そういう意地みたいなもので婚約を続行するのは、愚かなことですよね。
恥をかく・・・とか、そういうのはあまり考えなくてもいいかと。
速水さんと紫織さんが婚約破棄をすればマスコミは面白おかしく騒ぐかもしれませんけど、そこは速水さんが「全面的に自分の落ち度」ということで押し通してくれると思いますし。
なんかね、もう紫織さんが婚約破棄を拒む理由が、私には本当に理解できないです。
好き・・・っていうのが一番の理由なのかなあ。雑誌を読んでいる限りだと。
でも、そういう相手の気持ちを踏みにじるような一方的な好意って、ある種の凶器ではありませんか。
もうね、速水さん、首筋にナイフ突き付けられてるイメージありますもん(笑) あたしを選ばなきゃ、どうなるかわかってんだろーな的、脅迫の図。
これどこかで見たことある図だわーと思ったら、あれですよ。『オペラ座の怪人』。
ファントムが殺すと脅した相手は、愛しいクリスティーヌではなく恋敵ラウルでしたけどね。
ああ、それ考えると、紫織さんよりファントムの方が純情なのかもしれない。あんな究極の場面でさえ、ファントムはクリスティーヌが好きすぎて、憎しみを直接クリスティーヌに向けること、できなかったから。悪いのは全部ラウルに違いない、的なファントムの妄想の中で、どこまでも穢れのないクリスティーヌ。
そう考えると、紫織さんは速水さんが好きというより、速水さんを好きな自分が好き、なのかな。
そうでなければ、あの場で(大騒ぎになることを当然承知の上での)自殺未遂はないな~と。あの自殺未遂で、誰が一番傷付くかといえば、一番ダメージの大きいのは、速水さんですから。
そりゃーもう、四方八方から責められるのが目に見えてますよ。
四面楚歌。
紫織さんは完全な被害者で、速水真澄は完全な加害者。もう言い訳もできないくらい、追い込まれてしまうでしょう。
被害者側家族が紫織さんの意志を尊重して婚約の続行を望めば、速水さんはそれを無下に拒めなくなる。
被害者という、無敵の印籠を手に入れた鷹宮家の前に、速水さんは屈服するしかない。
速水さん・・・紫織さんがあんなところで自殺するなんて、これっぽっちも考えていなかったと思うんです。
なぜかというと、速水さんは自分が紫織さんの立場なら、そんなこと全く、考えもつかないだろうから。
人間は、自分がそうするであろう可能性については考えが及びますけれども、まったく自分の行動範囲の中にない思考については、弱いんじゃないんですかね。
それを考えると、私は紫織さんに腹立たしさを感じてしまう。甘えて育ってきたからこその、自殺未遂のような気がして。
速水さんだったら。この程度のことで自殺してたら、今まで何百回死んでるんだ、という話ですよ。
それはもう耐性など、人によって違うというのはわかりますけれども。それでも、紫織さんの想像をはるかに超える険しい道を歩んできた速水さんが、この紫織さんの突発的な自殺を予想できなかったということが、両者の決定的な違いをまさに、象徴する出来事だったような気がします。
速水さんにしてみれば、「まさか」の「まさか」。
だって、そんなこと自分の中ではありえない選択ですもん。
そして、もしも北島マヤが紫織さんの立場であっても、自殺は絶対しなかっただろうなあ。
それだけをとってみても、やはり紫織さんと速水さんは合わない(^^;
紫織さんがどうすればよかったか・・・。
うーん。どうしても精神が不安定なら、ばあやに連絡をとって病院に直行して薬の処方をしてもらうもよし、カウンセリングにかかるもよし。
それから、南の島へ飛んでしばらくのんびりするとか。
あるいは、好きな蘭の栽培を勉強しに、海外に留学するとか。
人の噂も七十五日と申します。
ほとぼりが冷めた頃日本に帰ってくれば、テレビや雑誌で、婚約破棄を取り上げる時期も終わっているだろうし、いいと思うんですけどね。
それに速水さん有能ですから。
自分を悪者にして、紫織さんを傷つけないようにマスコミを情報操作することは、かなり気を遣ってやってくれると思うんです。
その後の紫織さんの経歴に、傷がつくようなことはないでしょう。
だから、紫織さんは自分の気持ちに折り合いをつけることだけ、考えていればいいわけです。それだけに専念できるのになあ。どれだけ恵まれているんだ。これで贅沢言ったら罰が当たるわ、と思います。
速水さんは、紫織さんを騙そうと思って、甘い言葉を囁いたわけじゃありません。本気で結婚しようと思ってた。よき夫になろうと努力した。でも駄目だった、ということですよね。
そして、二人は深い関係になっていたわけでもないのだし、(仮にそういう関係があった上で婚約破棄なら、それはもう今以上に、紫織さんの心は傷付いただろうと想像しますが)後は粛々と、婚約破棄の手続きを進めればいいのに、と、読者としては思ってしまうわけです。
ただ、この後の展開では、まだ一波乱、二波乱あるでしょうね。というか、私は速水さんとマヤ、結ばれないだろうなあと予測してます。いわゆる、結婚という形で結ばれることはないかと。
そしてそのことが、マヤに「紅天女の恋」を体感させることになるのではないでしょうか。
>死ねば・・・恋が終わるとは思わぬ・・・
結局のところ、現実世界でこの台詞を呟くことになるのは、果たして誰なのか。この後の展開が気になります。