『ガラスの仮面』英介の思いを想像してみる

 別冊花とゆめ2011年10月号の発売を前に、「婚約続行を英介に説得される真澄」を書きたくなって、つい書き上げてしまいました。原作とはまったく関係ないです。勝手に私がいろいろ想像しちゃったんですけど(^^;

 以下、二次創作文になります。
 状況としては、真澄が英介に「紫織さんとは婚約破棄をする」と宣言した場、を想定してます。英介の部屋でですね。最初は敵愾心を燃やして英介に対峙する真澄さまですが・・・。

 パロディを、軽く読み流せる方だけ読み進めてください。

 ではどうぞ~。

 


 「何もかも捨てて、あの娘を選ぶというのか? それができるとでも思っているのか? あの娘を助けたくば、お前が取る道は一つしかないことが、まだわからんのか」

 英介の目が、真澄をじっと見据えた。その目にはもはや怒りはなく。むしろ慈愛に近いものがあったようにみえたのは、真澄の気のせいかもしれない。

「お義父さん、以前にも言ったように、マヤにもしものことがあれば・・・」

「お前の目は節穴か。わしのことなんぞ、問題ではないわ。鷹宮がこのまま引き下がるはずはないと、そんな単純なことがお前にはまだ見えておらんのか」

「・・・・」

 無論、そのことを考えなかったわけではない。どんな手を使ってくるのか、可能性は無限にあるだけに恐ろしくもあったが。マヤを守り抜くとそれだけは固く心に決めていた。何を犠牲にしてもいい、悲壮な決意がそこにはあった。どんな困難があろうと、マヤと一緒になろうとする自分の意志は変わらない。

「大都の看板を失ったお前に、どれだけのことができる? 思いあがりも甚だしいわ。時間がたてばそれなりの力もつこうが、鷹宮はそれを待ってはくれんぞ。北島マヤにとっては今が一番大事なとき。これを逃せば、紅天女は姫川亜弓の不戦勝となる。その後でどれだけの実力をつけようが評判になろうが、紅天女のチャンスは今このときにしかないことがどうしてわからぬ?」

 英介の言葉は、熱くなった真澄の心にぴしゃりと冷水を浴びせ、いつもの冷静さを引き出した。
 返す言葉もない。己のことならいかようにも対処する覚悟はあったものの、マヤを人質にとられては動けない。英介の指摘は正論だ。英介が動かなくても、鷹宮翁が動かないわけはないのだ。そのとき、大都の代表ではなくなった自分に、いったいどれだけのことができるだろうか。
 マヤが試演に参加できないようなことになる事態だけは、どうしても避けなければならない。

 だが、どうやって。
 巨大な鷹通を敵にまわして、どこまでやれるのだろうか。
 ただ一度の失敗が、致命傷になる。
 鷹通の攻撃すべてを完全に防御できると、そう言い切ることはできなかった。言えば、嘘になる。

「真澄よ。お前が一番大切なものはなんなのだ。それを考えれば答えは出ているのではないか」

 そのとき、英介に対して正直に心中を吐露することを、躊躇う気持ちは不思議と失せていた。目の前に対峙する男を、信用することなど今までなかったのだが。義父の声の中に、真澄は頼れるものを感じていた。それは言葉ではなく、直観だ。ここ一番という勝負時、理屈ではないそんな直感が、物事の成否を分けることがある。これまでの仕事でも、真澄は最後には自分の直感というものを信じて、危ない橋を無事に渡り続けてきたのだ。

「守りたいのは、北島マヤだけです。マヤを守れるなら、どんなことでもする覚悟はできています」

 絞りだした自分の声は、苦渋に満ちていた。おれは追いつめられているのだろうか? 自分の声でありながら、他人の告白を聞いているようにも思えた。

「フン。色恋に迷いおって」

 憎まれ口を叩きながら、英介は奇妙に、どこか喜んでいるようにも見えた。

「ならば、紫織さんと結婚することだ」

「お義父さん!!」

「いいから最後まで聞け」

 英介は大きなため息をひとつ、ついてみせた。やれやれ、とでもいうように、ゆっくりと言葉を続ける。

「北島マヤの身の安全と、紅天女試演への無事な参加を望むなら、そうするしかあるまい。お前が婚約を破棄するのは、お前自身の欲望にすぎん。本当にあの娘のことを考えるなら、鷹通を敵にまわすことだけはやめておけ」

 英介の目は、遠くを見ている。

「北島マヤと一緒になりたいというのは、お前の愚かな欲望にすぎん。お前が藤村真澄となり、鷹宮との縁談を解消すれば、真っ先に狙われるのはお前ではない。マヤではないか。無論、あの子はそれでも構わないとお前に言うだろう。だが、鷹宮は甘くはないぞ。試演のチャンスをつぶすのは勿論のこと。あの子の身にも危害を加えるであろうな。それも、紫織さん以上のダメージをな」

「お義父さん、ぼくは・・・」

 どうしたらいいのですか?と最後までは言えなかった。
 答えはもう、示されているからだ。
 英介が、会社のために今、話しているのだとは思えなかった。英介は真剣に、自分のために話してくれているのだ。真澄はそれを確信していた。だからこそ、その言葉は重い。

「このまま結婚しろ。それしか北島マヤを救う手だてはない。お前が紫織さんと結婚すれば、鷹宮側もあの子に手は出せなくなる。あの子になにかあれば、お前は即座に動くだろうからな。向こうもそれは承知の上よ。結婚が、お前の唯一の武器、切り札だ。お前が紫織さんと結婚する以上、あの子の身の安全は保証される」

「約束を・・・約束をしました。マヤに、待っていてくれと。それでも・・・」

「なにを守るか、だ。お前のくだらん執着と、北島マヤの幸せと、どちらを守りたいか、だ。違うか? それに、生きてさえいればいつかは、時間が解決してくれるかもしれん。紫織さんの気持ちが、変わる日が来ないとも限らん。いつになるか、それはわからんが・・・。一生添い遂げねばならんと決まっているわけではない。いつか紫織さんが望めば、離婚という道もある。そのときこそ、お前の好きにすればよかろう」

 真澄は目を閉じた。英介の言葉が胸に刺さる。なにを守るか・・・迷う余地はない。だがそのために、マヤの心を傷つけることがひどく、怖かった。あの子は何を思うだろうか。おれの心変わりをなじるだろうか。怒ってくれるならまだいい。恨んでくれるなら救われる。あの子が悲しむ顔だけは、見たくなかった。それは自分の身になにかされること以上に、心を引き裂くから。

 だが、どうしても守りたいものは。なにより優先したいのはやはり、マヤしかいない。そのためなら、どんなことにも耐えられる、と、真澄は改めてその事実を反芻する。

「お義父さん、ありがとうございました」

 真澄は、深々と頭を下げた。英介でなければ、今の自分は説得されなかっただろうと思う。婚約を継続する以外に道はないことを、わかっていながらあがき続けただろう。それ以外の幻の道を、未練がましく探し続けただろう。そうすることで無駄に時間を費やし、心ならずもマヤを、危険に陥れることになっていたかもしれない。

 自分に必要なのは、背中を押してくれる手、だった。
 答えは、本当は最初から、一つしかなかった。

「わかればいい。わしの失敗を、お前にも繰り返させたくはなかった」

 え?と。顔を上げた真澄が聞き返そうとしたときにはすでに、英介は素早く車椅子を回転させていた。その背中が、初めて小さく見えた。

 「もう行け」

 背中越しに、英介が素っ気なく告げた。

 真澄はもう一度頭を下げ、そして部屋を出た。真っ直ぐに鷹宮家へ向かう。事前のアポイントはないが、紫織さんには会えるだろう。おれは、おれのなすべきことをするだけだ。それだけ。

 歩き始めた真澄の足取りに、もう迷いはなかった。


 

 以上、勝手な想像文でした。

 私、英介は結局は真澄さまの味方になってくれるのではないかと期待してます。長く一緒に暮らせば、情がわかないはずないし。真澄さま自体、本来はとても心優しく、人に愛される性格だと思ってるから。
 会社を継がせようとしている英介は、それゆえに厳しく育てた部分はあると思うけど、真澄さまの人柄に触れるたびに癒されたり魅了されたりはしてたんじゃないかな~。態度には出さなくても。実の子供に近い感情を抱いていても、不思議ではないかと思います。
 真澄さまは努力もしたし、会社では英介の理想通りの結果を残したでしょうからね。自慢の息子ですよね。

 だから、紫織さんとの問題に関しても、真澄さまの一番の味方になるのはこの人ではないか!と思っているのです。というか、鷹宮を敵にまわしたとき戦力になりそうな味方はこの人しかいないんじゃないかと(^^;

 なんだかんだ言っても、鷹宮翁は孫娘が可愛いだろうし、真澄の気持ちなんて斟酌はしてくれないでしょう。真澄がどんなに不幸であろうと、紫織が幸福ならそれでいいと、考えるのだろうし。

 結局、鷹宮翁が真澄の味方となり、紫織さんを説得してくれるとは考えにくいわけで。

 そこで英介の登場です。
 英介が真澄を守ってやりたいと考えるとき、なにをアドバイスするのかな~と思ったら、上記のような場面が浮かんできました。

 

 だって、無理だし。婚約破棄した真澄さまがマヤを守り抜くってこと。理想論ではあっても、現実には絶対、鷹宮側の嫌がらせというか報復って、あると思うんですよね。
 たとえ真澄さまが鷹通と大都の提携解消の責任をとって降格したり、会社を辞めたとしても、それで相手が納得してくれるとは思えなくて。

 むしろ、大都という後ろ盾をなくしたら、真澄さまピンチじゃないですか。
 一個人になって、どこまでできるだろうって思います。一人で立ち向かうには、鷹通はあまりにも巨大すぎる。

 英介の気持ちになってみると、真澄の行動が危なっかしくて見てられないと思いますよ。マヤへの想いが、日頃の冷静な判断を狂わせて、真澄は愛する女性ともども、地獄へまっしぐらという感じで。

 英介は一度、大失敗してますからね。元祖紅天女の月影先生に対する我執が何をもたらしたのか。失敗を経験したからこそ、真澄へのアドバイスが重みを増すのではないかと想像します。

 きっと、真澄さまの試練はこれだけじゃないでしょうけどね。
 伊豆への道は遥かに遠いのではないかと、そんなことを思いました。

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