別冊花とゆめ2011年10月号『ガラスの仮面』美内すずえ 著 感想

 別冊花とゆめ2011年10月号『ガラスの仮面』を読みました。以下、感想を書いていますが、ネタばれしていますので未読の方はご注意ください。
 なお、☆印で示した記述は、私が勝手に想像した真澄さまの心の声です。

 今月は、ちゃんと速水さんが出てくるということを、ネット上で確認してから買いました。9月号は本当に、「買うんじゃなかった・・・」の号だったので。

 今月号は、いい意味で、予想を裏切る展開にドキドキしましたよ~。
 買ってよかったと思います(^^)

 まず、今回は紫織さんの黒さが半端ないです。嫌な人間を、これでもかとばかりに演じてくれてます。(そうです。私は本当に彼女が狂ったとは思ってません)すがすがしいほどの悪役っぷり。

 速水さんから婚約解消を申し出られ、自殺未遂をしたショックで精神に変調をきたした、という設定なのですが、部屋中に置かれた紫のバラだけでも異様な光景だというのに、ベッドの上の紫織さんの憔悴しきった姿!

>真澄さまは わたくしがきらい・・・
>わたくしは紫のバラの花が大きらい・・・

 その言葉を繰り返しつつ、ひたすら薔薇の花びらをちぎっているというホラーな絵柄。それを目の当たりにした速水さんの衝撃が、こちらにも伝わってくるような恐ろしいコマでした。

 そして、婚約者の変わり果てた姿を見た速水さん、その衝撃もさめぬうちにまさかの鷹宮翁、膝をついて屈辱の懇願です。

>このとおりだ 真澄くん 紫織と結婚してやってくれ

 私はこれを読んで、「そうきたかーーー!!!」と、圧倒されておりました。

 鷹宮翁はマヤ絡みで圧力かけてくるだろうと思ってたんですけど。たしかに、最初は速水さんのことを自殺未遂の件で厳しく責めてたんですけど。

 紫織さんの哀れな姿を見せた後で、まさかの懇願。これは重いですよ。その願いを容易く撥ね付けられるほど、速水さんは冷たい人間じゃない。

 そうきたかーーー!!と。
 二重三重に、速水さんは縛り付けられるわけです。婚約解消するについては、鷹宮翁の怒りをかうことは承知していたでしょう。そして、鷹宮側の怒りの矛先が自分個人ではなく大都芸能全体、そしてマヤへ向かうことも予想はしていたでしょう。
 そのことに対しての覚悟はあったかもしれない。

 ただ、紫織さん自体があそこまで崩れてしまって、そこまで追い詰めたのは自分だと罪悪感に苦しめられることだとか、立場も年もずっと上の鷹宮翁が膝をついてまで若輩者の自分にすがることだとかは、全く予想外だったのではないでしょうか。

 うーむ。これはハードル高いですよ。と思ったら、案の定。

 速水邸に戻った後、自室で酒の入ったグラスを手にする真澄さま。
 飲んでこのがんじがらめの現実から、しばし逃避しようと思ったのでしょうか。胸を刺す痛みから楽になろうとしたのでしょうか。

 床に叩きつけられ、粉々になったグラス。
 テーブルに手をつき、うなだれる背中が語ってました。私には速水さんの心中の声が、聞こえるような気がしましたよ。

☆マヤ・・・すまない・・・約束は守れそうにない
☆おれは・・・紫織さんと結婚する・・・

 あ、もちろん、そんなセリフは、実際には本誌には載ってないですけど。
 でも、私はあの絵を見て、上記の台詞を想像してしまいました。もう背中が語ってますもん。敗北を認めちゃってる寂しい背中でした。

 そりゃそうですよね。私が速水さんの立場でも、やっぱりそれしかないという結論にたどりつくと思う。

 鷹宮が100%戦闘態勢で突っかかってくるというなら、まだ、おう、上等だ。やってやろうじゃないか、的な戦意もわいたかもしれません。でも、ああいう哀れな姿を見せられ、情に訴えかけられたら。速水さんの心にある優しい部分は、それを無視することなんてできないでしょう。

 悲恋決定、の伏線を張った回だと思いました。

 負けを認めた速水さんの背中。次頁には、そんな展開も知らずに、紅天女の台詞を我がことのように口にするマヤの姿が描かれています。

>ただ そばにいるだけでよい・・・
>ただ生きていさえすればよい・・・

 無邪気なマヤの言葉は、まさに未来を暗示するものではないでしょうか。

 速水さんとマヤは、結婚はしないけど、結魂するのです、たぶん。
 魂のかたわれだからね。この世で結婚という形はとれなくてもね、アストリア号で融合したのがクライマックスということで。

 肉体的な結びつきがなくても、人はどこまで相手を愛せるか、信じ続けられるのか、という話になるのではないでしょうか。
 伊豆には・・・行けないだろうな。こんな状態で。

 速水さんは、この状況をどこまでマヤに伝えるのか、というのが、次の焦点になってきますね。
 全部正直に話して、マヤに理解してもらうっていうのは・・・・ないだろうな・・・・。

 なんでかというと、速水さんはマヤのこと、ちっちゃな女の子だと思ってるからです。11も年が離れてたら、そりゃ当然のことでしょうけど、「おれが守ってやらんでどうする。おれは男だ」的な感覚でいると思うんですね。

 そしたら、余計なこと言って、マヤを必要以上に悲しませたり動揺させるのは避けるはずなんですよね。自分が悪者になることで、悲しみを怒りに変えられたなら・・・その方がマヤが苦しくないと思うのなら、彼は喜んで悪者を演じるでしょう。

 もしマヤに正直に事情を話せば、マヤは紫織さんへの罪悪感に苦しみ、大都が窮地に追い込まれることを恐れ、悩むだろうから。速水さんは愛する人に、余計な苦しみは与えたくないでしょう。

 そして、なにより根底に。速水さんは「自分じゃなくても、マヤにはもっと幸せな道がある」という、密かな思いがあるんじゃないのかなあ。自己評価、低い人だし。
 マヤを愛する他の人、といえば、桜小路君もいます。
 年も近く、職業も同じで、お似合いの二人。余計な苦労やバッシングなどなく、幸せになれる相手。

 だったら、周りを無理にかき乱し、マヤを騒乱の渦に巻きこむようなことはせず、静かに身をひく道を、速水さんは選択するのではないでしょうか。自分さえ、気持ちを押し殺せばすべては丸くおさまるのだから、と。遠くから、マヤの幸せを願いつつ。

 その場合、マヤには嘘つくでしょうね。

 私が以前、勝手に書いた妄想文のように。

☆きみとのことは、気まぐれだった。本気じゃなかった。つい思わせぶりなことをしてしまったが、それもきみの紅天女があまりにも真にせまっていたからだ。
(プレイボーイを演じて、マヤをわざと挑発し、自分を憎ませる)
☆まさかきみも、本気だったわけじゃないだろう?チビちゃん。

 

 そういうこと言われて、顔を真っ赤にしてぶるぶる震えるマヤの姿が目に浮かびます。

 悲しみよりは憎しみのほうがマシだというのが、速水さんの信条だろうから。嘘ついて、マヤには自分を憎ませ、結婚に向かうのだろうなあ。その道が、地獄に続くと知りながら。

 今月号で、心を打たれたシーンがもう一つあります。
 それは、真澄さまが、英介の「わしの命令だ」という言葉に、過敏に反応する場面なのです。

 せつない・・・。胸が痛みました。

 紫織さんの痛みがへっぽこに見えるほど、真澄さまの子供時代は過酷だったと思います。

 親の愛を求めない子供はいません。
 血はつながらなくても、真澄さまはどんなにか、英介に愛されることを望んでいただろう、と思うんですよね。
 反抗しながら、復讐を胸に誓いながら、それでも英介の希望に応えることで、いつか英介から愛してもらえるのではないか、と、心の奥底ではずっと、愛される自分を夢見ていたのではないですかね。

 英介に認められること。後継者にふさわしいと褒めてもらえる日を。

 「わしの命令だ」と言われれば、真澄さまはいつだって、それに従ってきた。それに答えることで、親子になれるという気持ちが、どこかにあったのではないかと。

 だから、「わしの命令だ」って言葉は、魔法の呪文のようなもので。
 どんな困難があっても、そう言われればあらゆる手で、不可能を可能にしてきた。
 「わしの命令だ」という言葉の影に、「真澄よ、お前ならばわしの望みを叶えられるだろう」という甘い、蜜のようなものを、真澄は感じていたのではないかと。

 だからね。いつの日か、英介を超える日が来たとしたら。その日こそ、「わしの命令だ」に逆らう日となるわけです。それには物凄いエネルギーが要りますよ。親を超えるだけの、エネルギーがね。

 真澄にとって、「わしの命令だ」に逆らうことの意味を。その重さを考えれば考えるほど、気の毒になってしまう。

 まだ、機は熟してないと思う。
 それなのに、婚約解消を強行しようとすれば、その日を無理やり、前倒しにすることになる。
 英介を乗り越えるだけの心の準備が、真澄にはあるのかどうか。

 腫れものに触るような扱いで、どんなときも周りの庇護を受けてきた紫織さんには、速水さんの葛藤など、知るよしもないでしょう。

 今月号を読んで思ったんですけど、紫織さんは人格障害ではないかと。

 自分を可哀想な被害者にすることで、周囲の関心を集め、己の欲求を通そうとしています。これ、真澄さまとのことがなくても、今までにも上手くいかないことはすべて、同じようなパターンで、己の意志を通してきたのではないでしょうか。
 我がままを許してきた、鷹宮家にも問題はあると思いました。

 主治医も、振り回されてしまってますね。
 部屋中に薔薇を置くこと。ベッド上で花びらをむしらせること。それが、病状の回復に役立つとは、とても思えません。むしろ、狂気を増大させることになるのではないでしょうか。

 異常な状況に置かれれば、正常な人だって心を病みますよ。部屋中に紫のバラの花だなんて、とてもじゃないけど、健康的とは言えない。そんな部屋にいれば、ますます神経は昂るでしょう。
 紫織さんがどうしても紫のバラを部屋中に置きたい、そうでなければまた死んでやる~などと暴れるのならば、薬を処方して落ち着かせるのが医者なのではないかと。

 病人に振り回されてはいけません。
 こういう人格障害の人は、周りを利用するのが上手です。人の優しさや、思いやりにつけこんで、罪悪感を刺激します。

 わたくしがこうなったのはすべて、あなたのせい。
 だから、あなたはわたくしに贖う義務がある。

 こんな思考回路なんですよね。
 ここで安易に、同調して助ける人物が登場すれば、状況はますます悪化します。

 振り回されてはいけない・・・のですが、実際、鷹宮翁が甘やかしてきた長い歴史がありますし、ぴしゃりと冷静な対応のとれる人は、いないでしょうね。

 ただ、速水さんはずっと、いろいろ耐えてきた人なので見ていて気の毒です。紫織さんが人格障害だとかそういうことは思いもせずに、自分だけを責めてしまうのではないかと。

 本当の問題は、紫織さん自身の心の中にあるのだと思います。
 速水さんが自分の気持ちを押し殺して結婚することで、紫織さんを救えるかというと、それは無理。

 むしろ、エスカレートするでしょうね。
 また上手くいった・・・と。

 紫織さんにしてみれば、可哀想な被害者になることで、またしても問題は全て解決し、自分の欲望を無事、押し通すことができたわけです。そんな彼女。次になにか困難が訪れたとき、どうするでしょうね。

 賭けてもいいけど、また周りを振り回し、可哀想なターゲットをどん底に突き落とすと思います。加害者の烙印を押して。

 常に、わたくしは可哀想な被害者。
 わたくしを傷つけた加害者は、なにもかも投げ出してわたくしの前に跪きなさい、そんな自己愛オンリーの思考なのだと思います。

 最後に、今月号でちょっと気になったのは、マヤを影からみつめる黒沼先生。マヤの恋心に気付いたのかな。思わせぶりな終わり方でした。

「別冊花とゆめ2011年10月号『ガラスの仮面』美内すずえ 著 感想」への4件のフィードバック

  1. 「花とゆめ」10月号読みました。すでに泣きました(;_;)あの状況で、マヤちゃんを選ぶことなんて出来ない。速水さんは、マヤちゃんに嫌われようとするだろうけど、速水さんにとってそれがどんなにツライことか。廃人になった速水さんが想像できて、泣いてしまいました(;_;)

  2. そらさん
    マスマヤの気持ちが通じ合った天国から、地獄へ一直線の回でしたね。
    その地獄への急坂も、まだまだ入口という感じで、今後の展開が凄いことになりそうです。
    速水さんが廃人というと、どんなふうになっちゃうんだろう・・・
    紫織さんを見ても嬉しそうに「マヤ」としか呼ばない、とかだったり。
    例えばこんなのを想像しました。
    (以下妄想)
    紫織☆わたくしですわ、紫織です。
    真澄☆マヤ・・・(笑顔全開)
    紫織☆狂ってる・・・狂ってるわこの人・・・・
    そしたら紫織さんも、諦めてくれるのでしょうか。(;ω;)

  3. 速水さんは、マヤちゃんが速水さんから裏切られた…と思わせる可能性が大きいと思うんですよね(._.)_で、マヤちゃんはマヤちゃんで、やはり速水さんにはシオリーのほうがお似合いだし、シオリーとは婚約してあるのに、何あたしバカなこと考えてたんだろう…。あたしには、桜小路くんがいるのにとか思いだして。速水さんに「あたしには、桜小路くんがいますから…」と言うマヤちゃん。
    速水さんは、以前[いつかはあの子も真剣な恋をして 誰かほかの男のものになってしまうだろう
    …誰にも渡したくない…!そんなことになったら気が狂うかもしれない…!]
    気が狂った速水さんをみて、シオリーが速水さんを諦めて欲しいです(;_;)

  4. >そらさん
    もし気が狂った速水さんを見てシオリーが彼を諦めるとしたら、かなりの捨て台詞を吐きそうだなあと想像してます。
    もう、最後の一撃というか、とんでもない痛烈なひと言を残しそうで。
    以下、妄想です。
    (真澄、虚ろな目でじっと座ったまま動かない。なにを話しかけても反応はない)
    英介☆紫織さん、せがれはあなたへの自責の念で精神を病んでしまったようです。情けない奴ですが、これもあなたへの熱い思いがそうさせたこと。哀れに思って、どうかこのまま結婚していただきたい。
    紫織☆な・・・・・(絶句し、白目)
    英介☆こんなもの、と思われるでしょうが、わしの財産も大都グループもすべて、紫織さんに差し上げよう。わしにできることはなんでもする。どうか、頼みます。
    紫織☆冗談じゃありませんわ。こんな状態の真澄さまと結婚だなんて、わたくしを誰だとお思いですの。この結婚、なかったことにさせていただきます。
    英介☆しかしせがれは、紫織さんを・・・
    紫織☆わたくしが好きになったのは、こんな・・・こんな人ではありません。
    (蔑みの、冷たい視線で真澄の全身を下から上まで値踏みする)
    英介☆紫織さんと結婚すれば、いずれ正気を取り戻すやもしれません。この年寄りを助けると思って、どうか、どうか。
    紫織☆滝川、行くわよ。(迷いもなく部屋を出ようとし、ドアの前で一瞬振り返る。真澄は相変わらず、ぼんやりと前方を見たまま微動だにしない)
    紫織☆さようなら、真澄さま。もうお会いすることはございませんわ。あなたのお好きになさればいい。あの紫のバラの少女。あの子が今のあなたにはお似合い。
    (プッと、自分の言葉に小さく吹き出す)
    以上、妄想でした。
    これくらいのこと、軽くやっちゃいそうですよ、紫織さんヾ(;´Д`A
    まあでも、実際には、速水さんが狂ってしまうという展開はないかなあという気がします。

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